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第42話:遺跡の守護者

 砂に埋もれた謎めいた遺跡を前に、アルスの胸には抑えきれない興奮が渦巻いていた。


 他の仲間たちが疲労と警戒の表情を浮かべる中、彼はまるで宝物を見つけた子供のように、一歩、また一歩と遺跡の入口へと近づいていく。


 「アルス、待て!

何があるか分からないぞ!」


 レオが制止の声を上げたが、アルスはすでに遺跡の入口と思しき場所、砂に半分埋もれた巨大な石の扉の前に立っていた。


 風化した石肌には、先ほど外壁で見た奇妙な紋様が、より鮮明に刻まれている。

アルスはそっと手を触れ、その紋様の意味を探ろうとした。


 レオとエリックは剣を構え、セレーネも杖を固く握りしめながら、アルスの後を追うように遺跡の中へと足を踏み入れた。


 内部は、外の灼熱が嘘のようなひんやりとした空気に満ちていた。薄暗い通路の奥から、微かな光が漏れ、彼らを誘うように輝いていた。


 通路を進むと、そこには広い空間が広がっていた。中央には、いくつもの石柱が立ち並び、天井からは砂漠の地中深くにありながらも、どこからか差し込む光が、神秘的な雰囲気を醸し出していた。


 しかし、その神秘的な静寂は、すぐに破られた。


 広間の奥から、複数の影が姿を現した。

彼らは、人間とは異なる異形の姿をしていたが、モルグ・アイン山脈で遭遇した魔族たちとは、どこか雰囲気が違っていた。


 彼らの纏う砂色のローブは周囲の風景に溶け込み、鋭い瞳には明確な意思が宿っているように見えた。その中で、一際大柄な一体が、ゆっくりとレオたちの前に進み出た。


 「グルオオ……サ…レ……ニ…ンゲン……」

低い、唸るような声が響いた。


それは、レオたちには理解できない言語だったが、その発音には明確な抑揚があり、単なる獣の唸りとは異なっていた。


 リーダーらしき魔族は、両手を広げ、彼らにここへ近づくなと、明確な警告を発しているようだった。


 アルスは、その声に驚き、目を見開いた。

 (この魔族……知性がある……?

アイゼン村の時とは違う……!)


 彼の脳裏に、村人たちを巡る悲劇がフラッシュバックした。言語の壁が、どれほど悲劇的な結末を招くか、彼は身をもって知っていた。


 「待ってくれ、レオ!

彼らは……!」


 アルスが止めようとした、まさにその時だった。


 レオは魔族の警告を理解することなく、いや、理解しようとすることなく、すでに剣を抜き放っていた。


 「うるさい!

化け物の言葉なんか、聞く必要ない! !」


 レオの剣が、唸りを上げてリーダーの魔族に襲いかかった。

エリックも同時に飛び出し、セレーネも詠唱を始める。


 彼らの心には、勇者学校で植え付けられた「魔族=悪」という固定観念が深く根付いており、目の前の魔族が発する「警告」の真意を探ろうとはしなかった。


 「グオオオッ!」


 魔族のリーダーは、レオたちの攻撃に驚きと怒りの表情を浮かべた。


 彼は、部下たちを庇うようにして、その身を盾にする。その動きには、明らかに仲間を守ろうとする意思が見て取れた。


 アルスは、間に合わなかったことを悟り、歯噛みした。

彼は仲間たちに悟られないよう、静かに後方へと下がり、回復魔法の準備をしつつ、状況を冷静に分析することに専念した。


 この場は、彼らの固定観念を変えるための説得の場ではない。

今は、仲間を守り、この戦いを切り抜けることが最優先だ。


 「来やがったか!

一気に片付けるぞ!」

レオが叫び、剣を振り下ろす。


 しかし、リーダーの魔族は、その攻撃を難なく受け止めた。

その腕は、まるで砂のように変形し、剣の衝撃を吸収したかのように見えた。


 「なっ……!?」


 レオが驚愕する間に、他の魔族たちも反撃に出た。彼らは、砂漠の環境に適応した、これまでにない特殊な能力を持っていた。


 一体の魔族が地面に手を叩きつけると、砂が生き物のように盛り上がり、レオたちの足元を絡めとろうとする。別の魔族は、まるで砂嵐そのものになったかのように高速で移動し、残像を残しながらパーティーの側面を襲った。


 「フレイム……

ランス!」


 セレーネが火炎の魔法を放つが、魔族たちは砂を纏って炎を吸収し、その効果は薄い。

水系の魔法を使おうにも、この乾燥した遺跡では魔力の消耗が激しすぎた。


 エリックの剣技も、魔族の砂の体に阻まれる。

刃が食い込む瞬間、彼らの肉体は砂のように散開し、攻撃をかわしてしまうのだ。


 「くそっ、厄介な奴らだ……!」


 レオの剣が空を切る。砂に足を取られ、体勢を崩しそうになる。彼らは、これまでの旅で経験したことのない、厳しい戦いを強いられていた。


 アルスは、仲間たちの苦戦を目の当たりにしながらも、冷静さを保っていた。彼は、魔族たちの動き、セレーネの魔法の効果が薄い理由、そして遺跡の構造を瞬時に分析した。


 (この遺跡の壁面……

石英の結晶が混じっている。

そして魔族たちの体が砂と化す能力……

エーテルの流れが、砂と共鳴して彼らの身体を強化しているのか?

だとすれば、この遺跡のどこかに、そのエーテルを制御する、あるいは変換する仕組みがあるはず……)


 彼の脳裏に、かつて読んだ古代の文献の断片が蘇る。エーテル結晶の、そして失われた文明の知識が、この状況を打開する鍵となるかもしれない。


 一方、エリックは、魔族たちの素早い動きと、仲間たちの連携を瞬時に判断し、的確な指示を出し続けた。


 「セレーネ、一旦引いて魔力を温存しろ!

レオ、そこの石柱を盾に!

アルス、回復は任せた!」


 エリックの冷静な指示が、乱戦状態に陥りかけたパーティーを繋ぎ止める。


 彼自身の剣技も冴えわたり、砂と化した魔族の攻撃をギリギリでかわしながら、反撃の隙を伺っていた。


 激しい死闘が繰り広げられる中、レオたちは何度も窮地に追い込まれた。遺跡の守護者である魔族たちは、想像以上に強力で、砂漠の環境に完璧に適応していた。


 この戦いは、これまでの旅で最も厳しいものとなるだろう。


 アルスは、遺跡の紋様と魔族の能力、そしてエーテルの流れの関連性を、必死に探っていた。


 もし、この遺跡が「空白の10年間」以前の文明の遺産だとするならば、そこには、この世界の真実を解き明かすための、重要な情報が眠っているはずだった。


 彼の知識と洞察力が、今、最も試される時だった。

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