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第41話:砂漠の足跡

 アイゼン村での数日間の滞在を終え、レオたちは新たな指令を受け取った。


 その内容は、西方の広大な砂漠地帯の調査と、報告されていた魔獣の討伐だった。モルグ・アイン山脈の厳しい寒さとは打って変わって、次の目的地は灼熱の太陽が降り注ぐ不毛の地。勇者パーティーの旅は、常に過酷な環境との戦いでもあった。


 「今度は砂漠か!

よし、砂漠の魔獣どもをぶっ飛ばしてやるぜ!」


 レオは、太陽に照らされた地平線を睨み、闘志を燃やした。エリックも剣を握り直し、セレーネは日差しを遮る魔法の準備を始めた。


 アルスは、今回の任務が自身の「空白の10年間」の調査に、何か新たな手掛かりをもたらすかもしれないという、密かな期待を抱いていた。


 アースガルド大陸の西部を覆う砂漠は、「アビス・デザート」と呼ばれていた。一歩足を踏み入れた途端、肌を焼くような熱気が全身を包み込み、足元をすくう砂は、まるで生き物のように絡みついた。


 彼らがこれまで経験してきた森や山とは、全く異なる環境だった。


 昼間は容赦ない日差しが降り注ぎ、砂は熱を帯びて地獄のような暑さとなる。

夜になると一転して気温は急降下し、凍えるような寒さが旅の体を蝕んだ。水は貴重品となり、喉の渇きは常に彼らを苦しめた。


 「くそっ、この暑さ、全身の魔力を吸い取られるようだ……!」

エリックが額の汗を拭いながら呻いた。


 レオも、普段の豪快さが少し影を潜め、疲労の色を滲ませていた。セレーネは、魔法で作り出した微かな日陰を維持しようと奮闘していたが、その消耗は明らかだった。


 そんな中、アルスは他の仲間たちよりも幾分か冷静だった。彼は、自身の知識と回復魔法で、仲間たちの消耗を軽減させようと努めた。砂漠の地理や、日中の過ごし方に関する古い文献を思い出し、できる限りの対策を講じた。


 砂漠の旅路は、単調で過酷だった。

見渡す限り広がる砂と岩ばかりの風景に、心も疲弊していく。


 しかし、彼らは目的地へと進むため、黙々と足を進めた。


 途中、彼らは砂漠に生息する低級魔獣と遭遇した。

 まず現れたのは、「サンドワーム」と呼ばれる巨大なミミズのような魔獣だった。


 砂の中に身を潜め、地面の振動を感知すると、獲物を目掛けて地中から飛び出してくる。レオがその巨体を剣で叩き切り、エリックが素早い動きで残りのワームを分断した。


 次には、鋭い爪を持つ「サンドクロウラー」の群れが襲いかかってきた。


 彼らは俊敏な動きで砂の中を移動し、奇襲を仕掛けてくる。セレーネの放つ魔法が、砂煙の中で翻弄されるクロウラーたちを次々と打ち倒した。


 さらに、毒を持つ「スコーピオン・キング」が、灼熱の岩陰から姿を現した。その巨大な尾には猛毒の針が備わっており、威嚇するように砂漠を叩いた。


 レオが挑発するように前に出ると、スコーピオン・キングが猛然と突進してきた。激しい剣の応酬の後、レオの一撃が、その硬い甲羅を粉砕した。


 アルスは、戦闘の合間に、周囲に散らばる魔獣の死骸や、砂漠の植物を注意深く観察していた。


 モルグ・アイン山脈のエーテル結晶による影響とは異なり、この砂漠の魔獣たちは、彼が知る限り、異常な進化を遂げているようには見えなかった。


 しかし、その環境に適応した、驚くべき生命力に満ちていた。


 幾度かの魔獣との戦闘を経て、パーティーはさらに砂漠の奥地へと進んでいった。


 日中は熱風と砂嵐に視界を遮られ、方向感覚を失いそうになることもあったが、アルスの持つ古い地図と、セレーネのわずかな魔力を使った方向探知魔法で、なんとか進路を保っていた。


 そして、ある日の午後。地平線の彼方に、蜃気楼のように揺らめく影が見えた。

最初、それはただの岩山か、あるいは疲労がもたらす幻覚だと誰もが思った。しかし、近づくにつれて、その影は徐々に明確な形を帯びてくる。


 それは、砂に深く埋もれながらも、その巨大な姿を主張する、人工的な構造物だった。


 「なんだ、あれは……?」


 レオが目を細めた。砂漠の真ん中に、不自然なほど整然とした石の塊が横たわっていた。それは、これまで人間が築き上げてきたどの建築様式とも異なっていた。


 直線的で無機質な造形。表面には、風化しているものの、奇妙な紋様が刻まれていた。


 「遺跡……か?

でも、こんな場所に……」


 エリックが、剣の柄に手を置き、警戒しながら呟いた。セレーネも、その異様な雰囲気に、無意識のうちに杖を強く握りしめていた。遺跡から放たれる気配は、荒涼とした砂漠の中で、奇妙なまでの存在感を放っていた。


 アルスは、その光景を目の当たりにして、息を呑んだ。彼の胸の内では、長らく燻っていた予感が、確信へと変わりつつあった。


 (これは……

人間の文明のものではない……。

この紋様、この構造……どこかで見たような……

いや、違う。

これは、もっと古い、失われた時代のものだ)


 彼の心に、ある仮説が閃いた。

 「もしかしたら……

これは、『空白の10年間』以前の、失われた文明の痕跡かもしれない……」


 アルスの声は、砂漠の熱風にかき消されそうなほど小さかったが、その瞳には、かつてないほどの探求心が宿っていた。


 彼の中で、「空白の10年間」の真実を解き明かすためのパズルのピースが、一つ、ここに見つかったような気がしたのだ。


 レオたちは、彼の言葉に戸惑いの表情を浮かべた。彼らにとって、目の前の遺跡は、単なる古びた構造物に過ぎなかった。


 しかし、アルスの表情には、学究者としての純粋な好奇心と、真実に近づく予感に満ちた、強い輝きがあった。


 疲労困憊の体も忘れて、アルスは遺跡へと駆け寄った。その石壁に触れ、刻まれた紋様をなぞる。


 彼の心は、この謎めいた遺跡が持つ秘密、そして「空白の10年間」の裏に隠された真実への、新たな扉が開いたことを感じていた。

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