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第35話:名声の広がり

 ウッドランドの森でオークの群れを一時的に撃退したレオたちの知らせは、瞬く間に周囲の王国へと広まっていった。


 リベリオン村での低級魔獣討伐に続く、知性を持つオークとの激戦における勝利は、若き勇者パーティーの名声を、さらに確固たるものへと押し上げた。


 彼らの活躍は、市井の人々の間で英雄譚として語り継がれ、希望の象徴となりつつあった。


 特に、レオという「魔法の使えない勇者」が、パーティーの先頭に立ち、オークの猛攻を一身に受け止めたという事実は、多くの人々に衝撃を与えた。


 彼の圧倒的な身体能力と、強靭な精神力は、魔法が全てだと信じていた人々の固定観念を揺るがすものだった。


 その噂は、やがて各王国の国王たちの耳にも届くようになる。


 ロヴェリア王国の王城、謁見の間。国王エドワードは、宰相から報告されるレオたちの活躍を聞きながら、重々しい表情で腕を組んでいた。


「ウッドランドのオークを退けた、とな……

しかも、学園を卒業したばかりの者たちが、か」


 彼の声には、驚きと共に、隠しきれない警戒の色が滲んでいた。勇者育成学校の設立は、王国の安定と、魔族への対抗策として推進されたものだ。


 しかし、彼らが予想していたよりもはるかに早く、そして強力な「英雄」が誕生しつつあることに、国王は戸惑いを覚えていた。


「はい、陛下。

特に、パーティーの中心であるレオという少年は、剣技と身体能力のみで、前線を支えたと報告にございます。

しかし、彼は魔法を一切使用できないとのこと……」


 宰相の言葉に、エドワード国王は眉をひそめた。

「魔法が使えぬ、だと?

まさか、その報告に偽りはないだろうな」


「はい。複数ルートからの情報でも一致しております。学園の記録にも、レオ・フェリックスは魔力適性ゼロと記されております」


 魔法がこの世界の根幹を成す力である以上、魔力を持たぬ者が「勇者」として、これほどの功績を上げているという事実は、国王にとって看過できないものだった。


 それは、既存の権力構造や、勇者育成学校の教育理念そのものに、疑問を投げかける可能性を秘めていた。


「魔力を持たぬ者が、これほどの力を持つとは……。

彼がもし、我々の管理下に置けない存在となったら……」


 国王の脳裏には、不穏な予感がよぎった。英雄は、民衆の希望となる一方で、時に権力者にとって脅威ともなり得る。特に、既存の枠組みに収まらない異質な存在は、常に警戒の対象となるのだ。


 国王は、彼らの動向を厳しく監視するよう、宰相に命じた。


 一方、ウッドランドの町で休息を取っていたレオたちは、自分たちの名声がこれほどまでに広まっているとは知る由もなかった。


 彼らは、町長の厚意で用意された宿舎で、次の行動について話し合っていた。


「今回のオークの動きは、やっぱり変だったな。まるで、誰かに命令されているみたいだった」

 レオが、あの激戦を思い出すように呟いた。


「ええ。私もそう感じたわ。

オークはそこまで統率された行動を取る魔族じゃないはずよ。

私たちが学園で習った知識とは、明らかに違うわね」

 セレーネも、首を傾げる。


 アルスは、黙って彼らの会話を聞いていた。彼の心の中には、あの激戦で得た「違和感」が、深く根を下ろしていた。


 オークの行動は、教科書に記されている魔族の生態とは明らかに矛盾している。

それは、彼の「空白の10年間」の謎を解き明かすための、重要な手がかりになるかもしれない。


 夜、仲間たちが眠りについた後、アルスは一人、静かにロウソクの灯りの下で机に向かっていた。彼は、ウッドランドの図書館で借りてきた古い魔物図鑑や、歴史書を広げている。


 (オークの生態、知性、そして集団行動の特性……。

学園の教科書は、あまりにも表面的で、具体的な記述が少ない。

やはり、何か隠されているのか?)


 彼は、今回のオークの動きと、過去の魔族の記録を照らし合わせる。古い書物の中には、オークが特定の条件下で、より高度な知性や統率力を発揮したという記述が、ごく稀に存在した。


 しかし、それは例外的なことであり、これほど大規模な群れが、まるで兵士のように動くことは、前例がないとされている。


 アルスの指が、あるページの記述で止まった。

それは、古くから伝わる、モルグ・アイン山脈の奥深くにあるという「魔王城」に関する伝説だった。


 (まさか……

魔王が、オークを操っているというのか?

しかし、それにしては、オークの行動に不自然な点が多い。

まるで、操られているのがオーク自身ではないような……)


 彼の脳裏に、あのオークたちの、どこか虚ろな瞳が蘇る。彼らは、単なる凶暴な獣というよりも、何かに強制されているかのように見えた。


 アルスは、教科書にはない魔族の生態について、密かに調査を進めることを決意した。この「違和感」が、彼の追い求める真実に繋がる道だと直感したのだ。彼は、得た情報を秘密裏にノートに書き留め、誰にも見られないように隠した。


 レオは、自分たちの活躍が王国の耳に届き、思わぬ注目を浴びていることなど知る由もない。

彼にとっては、目の前の人々を救い、目の前の敵を倒すことこそが、全てだった。


 彼の「英雄への道」は、彼自身の純粋な正義感によって突き進められていた。


 森の奥で感じた異変、そして王国の不穏な視線。


 勇者パーティーの旅は、彼らが想像するよりも、はるかに複雑な運命の糸に絡め取られつつあった。

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