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第34話:激戦の森

 ウッドランドの森の奥深く、木々が密生し、昼なお暗い空間に、獣の咆哮が響き渡った。それは、単なる魔獣の雄叫びではなく、明らかに統率された、複数の存在による鬨の声。レオたちのパーティーは、その音の発生源へと、慎重に進んでいた。


 木々の合間を抜けた先、視界が開けたわずかな空間に、レオたちは目を疑った。そこにいたのは、予想をはるかに上回る数のオークの群れだった。


 数十にも及ぶオークたちが、粗末な革鎧を身につけ、骨や石で作られた棍棒や斧を手に、殺気を放っていた。彼らの体は巨大で、その醜悪な顔には、血への渇望が宿っている。


 「くそっ、こんなにいるのか!?」

 レオが思わず漏らした。学園で遭遇した魔獣とは、まるで規模が違う。これは、単なる討伐任務ではない。まさに、激戦だ。


 「気をつけろ!

こいつら、ただの低級魔獣とは違う!」


 エリックが叫ぶ。オークたちは、直線的に突進してくるのではなく、一部が左右に展開し、パーティーを包囲しようとしていた。


 これは、知性を持たない魔獣にはできない、明らかに巧妙な戦術だ。


 「私が前線を抑える!

みんなは後方支援と索敵を頼む!」


 レオが、真っ先に飛び出した。


 彼の剣から、光の軌跡が描かれる。

最前線に躍り出たレオは、振り下ろされるオークたちの棍棒を剣で受け止め、強靭な肉体と学園で培った剣技で、その猛攻をいなしていく。


 一撃一撃が重く、レオの腕が痺れるほどの衝撃だ。それでも彼は、ひるむことなく、オークたちの攻撃を一身に引き受け、後方の仲間が攻撃魔法を放つための時間を作り出した。


 「『フレア・ストーム!』」


 セレーネの杖から、紅蓮の炎の渦が解き放たれる。広範囲に広がる炎の嵐は、まとまって突進してきたオークたちを瞬く間に飲み込み、その巨体を焦がした。


 悲鳴を上げて倒れるオークたち。セレーネの魔法は、学園での訓練で飛躍的に威力を増しており、一度に複数の敵を無力化する圧倒的な力を誇っていた。


 しかし、炎が収まると、焦げた匂いの中で、まだ多くのオークが健在だった。彼らは、倒れた仲間を踏み越え、再びレオへと襲いかかる。


 「数を減らせない……!」


 セレーネが歯を食いしばる。魔法の連発は、彼女の魔力を急速に消耗させていた。


 エリックは、素早く状況を把握する。

 「レオ、左手から三体のオークが回り込もうとしている!

セレーネ、その三体に牽制魔法を!

アルス、レオの回復を頼む!」


 エリックは、オークたちの行動パターンを瞬時に分析し、的確な指示を飛ばす。

彼は、その目でオークたちの動きを追い、彼らが次にどこから、どのように攻撃してくるかを予測していた。


 彼の剣は、レオの死角を狙って飛び込んできたオークの喉元を正確に貫き、的確に敵の数を減らしていく。


 「『ヒール!』」


 アルスが、レオの体に手をかざす。温かい光がレオの体に流れ込み、激しい衝撃で傷ついた筋肉を癒していく。


 アルスは、回復魔法をかけながらも、オークたちの奇妙な行動を観察していた。

彼らは、ただ無秩序に襲いかかっているわけではない。どこか不自然なほどの統率と、特定のパターンを繰り返しているように見える。


 それは、まるで誰かに操られているかのような動きだった。


 (妙だ……彼らは、命令を受けている?

しかし、これほどの規模のオークを操る存在など……)


 アルスの冷静な視線が、オークたちの動きの法則性を探り始める。その瞳の奥には、彼自身の「空白の10年間」の謎を解き明かそうとする探求心と同じ光が宿っていた。


 「ぐおおおおっ!」


 一体の大型オークが、レオ目掛けて大きく跳躍した。

その棍棒の一撃は、レオの剣を受け止めきれないほどの威力を持つ。


 「させるか!」


 エリックが、間一髪で大型オークの側面から斬り込み、その攻撃を逸らした。レオはその隙に反撃し、大型オークの腕を切り落とす。


 セレーネは、残りの魔力を振り絞り、再び「フレア・ストーム」を放つ。


 今度は、オークたちが密集している一点に狙いを定め、最大の威力を叩き込んだ。炎の渦は、森の空間を切り裂くように広がり、悲鳴と共に数体のオークが倒れていく。


 激しい戦いが繰り広げられた。

レオの剣が閃き、エリックの剣が舞い、セレーネの魔法が森を焦がす。アルスは、パーティーの生命線として、常に冷静に回復と支援に徹した。


 数分、あるいは数十分にも感じられた激闘の末、ついにオークの群れは、恐れをなしたかのように森の奥へと退いていった。

残されたのは、オークたちの血と、焦げ付いた土、そして破壊された木々だった。


 「はぁ……

はぁ……

なんとか、追い払った、か……」


 レオは、剣を杖代わりにして、膝に手をついた。全身の筋肉が悲鳴を上げ、呼吸は乱れている。学園での訓練の比ではない消耗だった。


 セレーネも、魔力を使い果たし、顔を青ざめさせている。エリックも、体にいくつもの切り傷を負い、肩で息をしていた。


 「みんな、大丈夫か?」


 アルスが、彼らの元へ駆け寄り、最後の回復魔法をかける。しかし、その魔法の光も、いつもより弱々しく見えた。


 「ああ……なんとか、な。

だが、ひどい消耗だ……」


 エリックが、苦しげに答える。

 「ここまで強力な魔獣は初めてだわ……

これが、私たちが相手にする魔族なのね」


 セレーネの声には、疲労と、わずかな戦慄が混じっていた。


 レオのポケットの中のリルは、激しい戦いの間、ずっと息を潜めていた。その小さな瞳は、目の前の彼らの苦戦と、彼らがその中で示した強さを、静かに見つめていた。


 初めての本格的な戦闘は、彼らに「英雄への道」が、決して平坦ではないことを痛感させた。だが、同時に、困難に立ち向かう彼らの絆と、それぞれの成長を再確認する機会ともなった。


 「……このオークたち、やはり何かおかしい」


 疲労困憊の仲間たちの中で、アルスだけが、冷静に呟いた。


 彼の脳裏には、オークたちの不自然な行動パターンが焼き付いていた。この森の異変は、単なる魔獣の凶暴化では片付けられない、もっと深い「何か」が関わっているに違いない。


 彼らは、森の奥へと意識を向けた。激戦の終わりは、新たな謎の始まりでもあった。

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