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第30話:最初の依頼

 国王歴1009年9月。


 三日間の旅路を終え、レオたち四人のパーティーは、東部平原の小さな村、リベリオン村へと足を踏み入れた。学園を出て初めて訪れる人間の集落は、彼らの目に新鮮に映った。


 しかし、村全体を覆うのは、歓迎の空気よりも、重苦しい不安と諦めの色だった。


 「ここが、リベリオン村か……

なんだか、活気がないな」


 レオが、眉をひそめて呟いた。街道沿いに並ぶ家々は、どこか荒れ果てた印象を与え、すれ違う村人たちの顔には、疲労と恐怖の影が色濃く浮かんでいた。


 「魔獣の被害が出ていると聞いていたけど、想像以上ね……」

 セレーネも、痛ましげに周囲を見渡した。彼女の視線は、荒れた畑や、窓から怯えたように覗く子供たちの姿に注がれた。


 エリックは、静かに地面の足跡を調べる。

 「最近のものだ……間違いなく、魔獣の痕跡だな」


 その言葉に、レオは剣の柄を握りしめた。学園で教えられた「魔族=悪」という認識は、目の前の光景によって、さらに確固たるものへと変わっていく。人々を苦しめる魔獣の存在は、まさにその証拠のように思えた。


 「まずは村長に挨拶を。情報収集が先決だ」

 アルスの冷静な指示で、一行は村の中心部へと向かった。村の広場に差し掛かると、疲れ切った表情の老人が、彼らの姿を見つけるなり、慌てたように駆け寄ってきた。


 「おお、勇者様方!

やっと来てくださったか!

わしがこの村の村長、ガレアスでございます!」


 ガレアス村長は、しわだらけの手でアルスの手を握り、涙ぐんで喜びを露わにした。その姿は、彼らがどれほどこの助けを待ち望んでいたかを物語っていた。


 村長は、レオたちを村の集会所に案内し、最近の状況を詳しく説明した。

 「ここ数週間、突如として魔獣が現れ、夜な夜な畑を荒らしていくのです。

作物は壊滅状態、家畜も襲われ、人々は恐怖で眠れぬ日々を送っております。どうにも手がつけられず、国の勇者育成学校に救援を求めた次第でございます……」


 彼の言葉は、悲痛な響きを帯びていた。魔獣の出現は予兆もなく、その行動もこれまでの魔獣とは異なる、狡猾なものだという。


 「このままでは、村は滅んでしまいます。どうか、勇者様方の御力で、この村を救っていただけないでしょうか……!」


 村長の土下座せんばかりの懇願に、レオの胸には、熱いものがこみ上げてきた。これが、彼らが「英雄」となるための最初の任務だ。


 「お任せください、村長。私たちは、世界を救うためにこの旅に出ました。必ず、この村の魔獣を討伐してみせます」

 アルスが、毅然とした声で答える。その言葉には、確かな責任感が宿っていた。


 「よし、最初の依頼だ! 魔王討伐への第一歩だと思えば、俄然やる気が出てくるな!」

 レオは、興奮を隠しきれない様子で、剣を軽く振った。彼の心には、魔獣を倒し、村人を救うことで、自身の「英雄」としての道を確固たるものにするという強い思いがあった。


 セレーネも、魔力の込められた杖を握りしめる。

 「私も、村の人々のために全力を尽くすわ。私の魔法が、きっと役に立つはず」


 エリックは、村長に何かと質問しながら、情報を整理していた。彼の冷静な洞察力は、この任務でも遺憾なく発揮されるだろう。


 依頼を受けた一行は、早速、村の周辺の探索へと向かった。魔獣の痕跡は、村のすぐ外、荒らされた畑のあちこちに残されていた。無残に踏み荒らされた作物、ひっくり返った土の塊。そして、血の跡。

それらは、魔獣の襲撃がいかに暴力的で、村人たちに深い傷を残したかを雄弁に物語っていた。


 「ひどいな……

こんなにも、荒らされているなんて」


 レオは、怒りに震える声で呟いた。彼の心には、魔獣に対する純粋な憎悪が芽生えていた。「魔族=悪」という学園の教えが、まざまざと現実として突きつけられた瞬間だった。


 セレーネは、魔法で土の感触を調べ、魔獣が去っていった方向を特定しようとする。エリックは、わずかな足跡から魔獣の種類や数を推測し、アルスは、それらの情報を総合して、魔獣の行動パターンを分析していた。


 彼らは、探索の途中で、怯えながらも必死に畑を修復しようとする村人たちと出会った。彼らの疲弊しきった姿、希望を失いかけた瞳を見るたびに、レオたちの心には、使命感が強く刻み込まれていった。


 (魔族は、やはり悪だ。彼らがいる限り、人々は怯え、苦しみ続ける……

俺たちが、この世界を救うんだ!)


 レオの決意は、揺るぎないものとなっていた。リベリオン村での最初の任務は、彼らが抱く「英雄」への夢と、「魔王討伐」という最終目標に、確かな意味を与えるものとなるだろう。


 彼らは、魔獣の痕跡を追って、村から少し離れた森の入り口へとたどり着いた。森の奥から、不気味な気配が漂ってくる。


 リルの小さな体は、レオのポケットの中で、静かに、しかししっかりと、その気配を感じ取っていた。最初の戦いが、今、まさに始まろうとしていた。

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