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第26話:集う仲間

 国王歴1009年7月。


 夏の日差しが降り注ぐ中、レオとセレーネの関係は、確かに変化していた。あれから一ヶ月。彼らは、図書館や訓練場で顔を合わせるたびに、ぎこちないながらも言葉を交わすようになっていた。かつての憎しみや嘲りは消え失せ、互いへの、新たな理解と、微かな尊敬の念が芽生え始めていたのだ。


 ある日の午後、勇者育成学校の広大な中庭で、レオとセレーネが偶然鉢合わせた。二人の間には、以前のような険悪な雰囲気はなく、どこか和やかな空気が流れていた。


 その時、二人の背後から、静かな声がかけられた。


 「レオ、セレーネ」


 振り返ると、そこに立っていたのは、アルスだった。彼の顔には、いつものように冷静な表情が浮かんでいたが、その瞳の奥には、確かな決意の光が宿っていた。


 レオとセレーネは、アルスが自分たちに声をかけることに、わずかな驚きを覚えた。アルスは、普段からあまり他者と積極的に関わろうとしない。特に、学園の問題児と天才という、対極の二人に話しかけてくることは稀だった。


 アルスは、彼らの変化を、穏やかな視線で見つめた。


 「少し、話がある。時間をとってくれるか?」


 レオとセレーネは、顔を見合わせた後、頷いた。彼らは、アルスの言葉に、何か重要な意味が込められていることを感じ取った。


 エリックもまた、程なくして合流した。アルスは、彼らを連れて、人通りの少ない中庭の奥、大きな木の下へと歩を進めた。木陰に座り、アルスはゆっくりと口を開いた。


 「先日、君たちが試験で遭遇した魔獣との一件、私は見ていた」


 アルスの言葉に、レオとセレーネは、わずかに体を強張らせた。あの光景を、彼が見ていたとは。


 「セレーネ、君はあの時、魔法の使えない状況で窮地に陥った。そしてレオ、君は、自らの身体能力と剣技だけで、あの強大な魔獣を退け、彼女を救った」


 アルスは、二人の目を真っ直ぐに見つめながら、続けた。

 「君たちの間には、長らく確執があった。互いの存在を認めず、反発し合ってきた」


 セレーネは、俯いた。レオもまた、表情を曇らせた。

 「だが、あの時、君たちは互いの弱点と強みを、身をもって理解したはずだ。セレーネ、君の絶対的な魔法の才能と、レオ、君の比類なき身体能力と不屈の精神。これらは、まさに互いを補い合い、相乗効果で真の力を発揮できる関係性だ」


 アルスの言葉は、二人の心を貫いた。それは、彼らが漠然と感じ始めていた、しかし、言葉にできなかった真実だった。


 「そして、エリック。君の冷静な判断力と、仲間を思う献身的な心は、このパーティーにとって不可欠だ」

 エリックは、小さく頷いた。


 アルスは、一度言葉を切ると、深く息を吸い込んだ。その瞳には、並々ならぬ決意が宿っていた。


 「私は、『空白の10年間』の真実を探求している。この世界に隠された、あまりにも巨大な謎だ。それは、魔王討伐という、表面的な目的の、さらに奥にある」


 アルスは、自身の目的を、簡潔に、しかし真摯な声で語った。彼の言葉は、重く、しかし同時に、希望に満ちていた。


 「この旅は、決して楽なものではない。想像を絶する危険が待ち受けているだろう。しかし、私は、君たちこそが、その真実を解き明かすにふさわしい、真の勇者となれると信じている」


 アルスは、三人の顔を、一人ひとり見つめた。

 「だから、提案したい。

レオ、エリック、セレーネ、そして私。この4人で、正式な『勇者パーティー』を結成しないか?」


 アルスの言葉は、静かな中庭に響き渡った。レオは、アルスの言葉に込められた深い洞察力と、彼の真摯な思いに動かされていた。セレーネは、自身の弱さを受け入れ、レオの強さを認めたばかりだった。エリックは、アルスの情熱と、彼の壮大な目的に、すでに心を決めていた。


 レオが、真っ先に口を開いた。


 「……俺は、やる」

 彼の声は、決意に満ちていた。


 次に、エリックが力強く頷いた。

 「もちろん、俺もだ。アルス、君の力になりたい」


 セレーネは、少しの間、逡巡した。

しかし、彼女の心は、すでに決まっていた。


 レオに命を救われたあの瞬間から、彼女の中で何かが変わり始めていたのだ。そして、アルスの言葉は、その変化を決定づけた。


 「……わかったわ。

私も、参加する」


 セレーネの声は、かすかに震えていたが、その瞳には、これまでになかった、新たな光が宿っていた。


 こうして、真の友情と信頼で結ばれた4人のパーティーが、ここに誕生した。


 アルスの、長年の願いが叶った瞬間だった。

賢者の知恵、剣士の勇気、魔法使いの才、そして、何よりも互いを信じ、支え合う心。


 彼らは、これから、アースガルド大陸に隠された真実を求めて、壮大な旅へと踏み出すことになる。

その第一歩が、この中庭の木陰で、確かに刻まれたのだ。

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