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第20話:最初の試練

 国王歴1006年4月。


 勇者育成学校の敷地を、新緑の風が吹き抜けていく。校舎の壁には、これから始まる新生活への期待と不安が入り混じった生徒たちのざわめきが響いていた。


 しかし、それは、卒業を間近に控えた最上級生にとっては、これから始まる過酷な試練への序曲に過ぎなかった。


 レオは23歳になっていた。


 勇者育成学校での日々は、彼の肉体と精神を鍛え上げた。剣技は研ぎ澄まされ、その眼光は以前にも増して鋭くなっていた。しかし、魔法が使えないという現実は、相変わらず彼に重くのしかかっていた。


 そして、ついにその時が来た。


 勇者育成学校での最初の卒業試験。それは、生徒たちが正式な「勇者の卵」として認められるための、重要な通過儀礼だった。しかし、その試験には、厳格な規定があった。


 ――卒業試験を受けるには、最低4人以上のパーティーが必要である。


 レオは、この数ヶ月間、必死にメンバーを集めようと奔走していた。しかし、彼の努力は虚しく、魔法が使えないという理由で、ほとんどの生徒が彼を避けた。


 「すまない、レオ。俺たちのパーティーは、もう人数が揃っていて……」


 「君のことは尊敬しているけれど、やはり魔法が使えないというのは、実戦では足手まといになる」


 誰もが、遠回しに、あるいは直接的に、彼を拒絶した。


 結局、レオのパーティーメンバーは、エリックと二人だけだった。


 エリックは、最後までレオの隣に立つことを望んだ。しかし、学校の規定は絶対だった。4人以上のパーティー。たった二人では、試験を受けることさえできない。


 「レオ……本当に、すまない」


 エリックは、苦渋の表情でレオに告げた。彼は、すでに他のパーティーから誘いを受けていた。そのパーティーは、優秀な魔法使いと、経験豊富な斥候を含み、卒業試験を突破するには申し分ない構成だった。


 「気にするな、エリック。お前は、お前の道を行け」


 レオは、努めて平静を装った。だが、その声には、隠しきれない寂しさが滲んでいた。最も信頼できる友と、共に戦えない。その事実は、彼の心を深く抉った。


 エリックは、仕方なく、他の誘われたパーティーに加わった。


 彼が去っていく背中を見送りながら、レオは、再び孤独に苛まれる自分を感じていた。


 それでも、レオは諦めなかった。


 彼は、余った落ちこぼれのメンバーたちに声をかけた。誰からも誘われず、半ば諦めていた生徒たち。魔法の腕は拙く、剣の技術も未熟な者ばかりだった。しかし、彼らは皆、最後のチャンスにすがるように、レオの呼びかけに応じた。


 こうして、レオは、彼ら「落ちこぼれ」のパーティーを組むことになった。


 一方、セレーネもまた、卒業試験に臨んでいた。

 彼女は、その圧倒的な魔法の才能を最大限に活かせる、学園でも指折りのエリートパーティーに加わっていた。誰もが彼女の参加を歓迎し、そのパーティーは、卒業試験の最有力候補と目されていた。


 彼女の顔には、自信と、そして、どこか冷めきった優越感が浮かんでいた。レオやエリックのいる場所とは、まるで隔絶された世界にいるかのように。


 それぞれの道で、彼らは卒業試験に臨むことになった。


 レオは、仲間と共に行動できないことに、深い寂しさを感じていた。エリックとの絆が、何よりも彼を支えてきたからだ。しかし、この現状を変えることはできない。


 (俺にできることは、ただ、前を向くことだけだ)


 レオは、自身の限界を超えるために、与えられた状況で全力を尽くすことを誓った。


 彼の「落ちこぼれ」パーティーは、誰も期待していなかった。しかし、その中に、彼らがまだ気づいていない「何か」が、静かに芽生え始めていたのかもしれない。


 それは、真の勇者へと続く、長く険しい道のりの、最初の、そして最も重要な試練となるだろう。

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