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第110話:残された者たちの決意

 魔王城の玉座の間での「新魔王」宣言から一月が過ぎた。


レオとリリスは、大陸に散らばる魔族たちをまとめ、人間との共存の道を切り開くための旅に向けて、本格的な準備を始めていた。

魔王城には、レオの指導とリリスの補佐によって、以前よりも規律と活気が満ちていた。


 旅立ちの朝、魔王城の中庭には、旅立つレオとリリス、そしてリルを見送るために、残る魔族の幹部たち、長老ゼドリアとその魔導師たち、そして多くの一般魔族たちが集まっていた。


 彼らは、レオの新しい魔王としての威厳と、リリスの側に立つ献身的な姿に、深い信頼を寄せていた。しかし、彼らの表情には、これから始まる困難な旅への不安と、自分たちの役割への責任感が入り混じっていた。


 レオは、集まった魔族たち、特に言葉を理解する幹部たちに視線を向けた。


 「ゼドリア、そして他の長老たち、親衛隊の者たちよ」

 彼の声は、中庭全体に響き渡った。


 「私が城を離れる間、この魔王城と、ここにいる魔族たちのことは、君たちに託す」


 ゼドリアが、一歩前に進み出た。

彼の顔には、深い皺が刻まれているが、その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。


 「御意。レオ様。

我々は、この城を死守し、貴方の留守を守り抜くことを誓います」


 他の幹部たちも、一斉に胸に手を当て、深く頭を下げた。言葉を話せない多くの魔族たちも、彼らの動きに倣うように、低く唸り、それぞれの方法で決意を示した。


 レオは、彼らの忠誠と決意を受け止め、ゆっくりと語り始めた。


 「エリックによって、先代魔王が倒された後、大陸の魔族たちはバラバラになった。

人間たちは、魔王城が壊滅し、魔族が弱体化したと考えているだろう。

それが、我々の出発を容易にする。

俺が新魔王になったという事実は、決して人間には悟られてはならない」


 ゼドリアが頷く。

 「承知いたしました。

人間には、先代魔王が倒れ、魔族は混乱の極みにあると認識させます。

魔王城の再建も、あくまで内乱の終息と見せかけるようにいたします」


 レオは、残された魔族たちに、具体的な役割を割り振った。


 「魔王城の防衛は、親衛隊に任せる。

城壁の修復と、周辺地域の警戒を怠るな。

人間たちの動きには、常に目を光らせておけ」


 親衛隊の隊長が、力強く返事をした。

 「はっ!」


 「ゼドリアと魔導師たちは、新たな魔族社会の基盤を築く役割を担ってほしい」

 レオは、冷静な口調で続けた。


 「先代魔王の遺志を引き継ぎ、魔族が互いに助け合い、支え合うコミュニティを形成するのだ。

傷ついた者たちの治療、食料の確保、そして、子供たちの教育にも力を入れてくれ。

彼らこそが、新たな世界の担い手となる」


 ゼドリアは、深く頷いた。

 「御意。

レオ様の理想の世界を、この城から創り上げてみせます」


 多くの魔族たちは、言葉こそ理解できないものの、レオの真剣な眼差しと、長老たちの真摯な態度から、自分たちに課せられた使命の重さを感じ取っていた。

彼らは、低く唸りながらも、その瞳に強い決意を宿し、それぞれの任務へと向かう準備を始めた。

中には、レオの足元に擦り寄って、別れを惜しむ者もいた。


 旅の準備は、リリスの指揮のもと、着々と進められた。


 彼女は、レオよりもはるかに実務能力が高く、必要な物資の選定、食料の調達、地図の確認など、全てを完璧にこなした。

 

 「まったく、貴方は本当に手がかかるんだから!」

 リリスは、レオが荷物をまとめるのを見て、呆れたように言った。


 「これじゃまるで、遠足に行く小学生じゃない。

旅の目的を分かってるの?

大陸の魔族たちを説得するのよ。

遊びじゃないんだから、もっと慎重に準備しなさい!」


 レオは、苦笑しながら、リリスが完璧に準備してくれた旅装に袖を通した。


 「いや、ほとんどリリスが準備してくれたから助かっているんだが……」


 「な、何を言ってるのよ!

私はただ、新魔王が無様な姿を晒して、魔族の名に泥を塗るのが嫌なだけよ!」

 リリスは、顔を真っ赤にして反論した。


 「まったく、貴方一人だったら、きっと道中で餓死して、魔王城に帰ることすらできなかったでしょうね。

荷物だって、ろくに持っていけないんだから!」


 そう言いながら、彼女はレオのリュックに、見慣れない包みを押し込んだ。


 「これは……?」


 「いいから!

非常食よ! 貴方は食べ物をろくに選ばないから、私が用意してあげたのよ!」


 彼女の言葉は乱暴だったが、その手つきは優しく、レオの健康を心から気遣っていることが伝わってきた。


 レオは、リリスの献身的な支えに、改めて感謝の念を抱いた。

 (リリスがいなければ、この旅は到底成り立たないだろうな)


 彼の胸元では、リルが小さな体を震わせ、何かに期待しているかのように、指先を小さく揺らしていた。


 レオは、リルをそっと撫でた。

 「リルも、新しい旅が楽しみなのか?」


 リルは、彼の言葉に応えるように、小さくぴょんと跳ねた。

リルもまた、この新たな旅路への期待に胸を膨らませているようだった。


 魔王城の門が、重々しい音を立てて開かれた。

朝日が、広がる平原を照らし出す。


 レオは、リリスと共に、門の外へと一歩を踏み出した。 


 振り返ると、魔族たちが、静かに、しかし力強い眼差しで、彼らを見送っている。

言葉を解さない魔族たちも、彼らの背中が見えなくなるまで、中庭に立ち尽くしていた。


 親衛隊の隊長が、大声で宣言した。

 「魔王城の守りは、我々に任せよ!

新たな時代を、ここから築き上げん!」


 ゼドリアは、静かに目を閉じ、レオたちの無事を祈った。


 魔族たちは、それぞれの持ち場に戻り、魔王の留守を守り、新しい魔族社会の基盤を築くための、日々の奮闘を誓った。


 彼らは、レオとリリスの旅の成功を信じ、自らの役割を全うすることで、遠い地で戦う彼らを支えようとしていた。


 新たな魔王とその伴侶の旅立ち。

そして、残された者たちの固い決意。


 それは、真の平和への壮大な道のりの、新たな一歩だった。


 彼らの未来は、希望に満ちていた。

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