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第109話:新魔王の宣言

 魔王城の玉座の間は、かつてないほどの静けさと、張り詰めた期待感に包まれていた。

城内に残る全ての魔族たちが、この歴史的な瞬間に立ち会うため、集結していたのだ。


 幹部や長老たちは最前列に立ち、その後ろには、言葉をほとんど理解しない多くの一般魔族たちが、好奇心と、そして本能的な期待の眼差しを向けていた。


 彼らは、レオの放つ強大な魔力と、リリスの傍らに立つ姿から、何かが始まると予感していた。


 レオは、魔王の玉座の前に立った。

 彼の隣には、毅然とした表情のリリスが控えている。


 レオの覚醒した魔力は、以前よりも安定し、彼の全身から、威厳と慈愛が入り混じった、独特のオーラが放たれていた。


 玉座の間を満たす静寂は、彼の存在感によって、さらに深みを増していく。


 レオは、ゆっくりと、しかし力強く、その場にいる全ての魔族たちに語りかけた。

彼の声は、魔力を帯びており、言葉の意味が理解できない魔族たちの心にも、直接響くかのようだった。


 「皆、集まってくれて感謝する」

 彼の最初の言葉に、魔族たちは静かに耳を傾けた。


 ゼドリアをはじめとする長老たちが、レオの言葉を、唸り声や手振りで、一般の魔族たちに懸命に伝えようとする。


 魔族たちは、彼らの努力に応えるように、レオの放つオーラと、リリスの表情、そして長老たちの身振りから、彼の言葉の真意を読み取ろうとしていた。


 「私は、先代魔王の遺志を継ぎ、新たな魔王となった」

 レオは、確固たる声で宣言した。


 「私が目指すは、人間と魔族が、手を取り合い、真の平和を築く世界だ」


 その言葉が響き渡ると、魔族たちの間に、わずかなざわめきが起こった。

それは、驚きと、そして、長年待ち望んでいた希望のざわめきだった。


 言葉を解さない魔族たちも、レオの力強い眼差しと、その声に込められた揺るぎない決意を感じ取り、彼らにとっての「希望」が、今、目の前に立っていることを理解した。


 レオは、彼らの反応を確かめるように、ゆっくりと視線を巡らせた。


 「この城にいる魔族たちは、私の言葉を信じ、私を受け入れてくれた」


 「しかし、アースガルド大陸には、未だ多くの魔族が散らばっている」


 彼の言葉に、魔族たちの表情は、再び真剣なものとなった。


 「彼らは、国王たちの偽りの歴史に囚われ、人間を憎み、孤独に生きている」


 レオの言葉には、彼らへの深い理解と、そして、救済への強い願いが込められていた。


 「彼らに真実を伝え、我らと共に新たな世界を築くよう、呼びかける必要がある」


 レオは、一呼吸置くと、視線を強く、しかし明確な決意を込めて、集まった魔族たちへと向けた。


 「故に、私は、旅に出る」


 その言葉に、玉座の間全体が、再び静寂に包まれた。


 旅。

 それは、遠く、そして危険を伴うものだ。


 「大陸に散らばる、全ての魔族たちをまとめるための旅だ」


 レオの言葉は、彼の覚悟と、彼の目標の壮大さを、魔族たちに示した。


 彼らは、自分たちの新たな王が、その言葉通り、行動に移そうとしていることに、畏敬の念を抱いた。


 その時、リリスが、一歩前に進み出た。

 彼女は、レオに視線を向け、少しだけ顔をしかめた。


 「まったく、勝手なことを言ってくれるわね、新魔王サマ?」


 彼女の声は、やや刺々しいが、その眼差しには、レオへの深い信頼と、共に歩む覚悟が宿っていた。


 「私なしで、一体どうやって、他の魔族たちを説得するつもりなの?

あの人間嫌いの偏屈な連中を、貴方一人でどうにかできるとでも思っているの?」


 リリスは、腕を組み、わざとらしくため息をついた。


 「仕方ないわね。

この魔王城を空けるのは気が進まないけれど……

貴方が無能すぎて、魔族全体に迷惑がかかるのは御免だわ」


 彼女は、ぷいと顔をそむけたが、その表情には、レオと共に旅立つことへの、隠しきれない喜びと、密かな期待が浮かんでいた。


 「だから、私が付き添ってあげる。

感謝なさい、新魔王サマ。」

 その言葉は、まるで上から目線で言っているようだったが、魔族たちには、それがリリスなりのレオへの献身であることを理解していた。


 レオは、リリスの言葉に、苦笑しながらも、深く頷いた。


 「ありがとう、リリス。

君がいてくれると心強い」


 リリスは、レオの素直な言葉に、再び頬を染め、

 「ば、別に、心強くなんて思ってないわよ!

ただの任務よ、任務!」

 と、慌てたように弁解した。


 リリスの言葉は、幹部や長老たちを通じて、ほとんど言葉を理解しない一般魔族たちにも、その真意が伝わっていった。


 彼らは、レオだけでなく、魔王の娘であるリリスもまた、この新たな旅に同行することに、安堵と、そして希望の唸り声をあげた。

彼らにとって、リリスの存在は、レオという「人間」の新魔王が、真に魔族を率いる存在であることの、何よりの証だった。


 レオは、改めて魔族たちを見渡した。


 彼らの瞳には、もはや疑念の色はなかった。

あるのは、静かな期待と、新たな未来への希望だった。


 言葉を解さない多くの魔族たちは、レオの覚醒した力と、その堂々とした立ち姿、そして彼の声に込められた温かさを感じ取り、彼を新たな支柱として受け入れたのだ。


 彼らは、言葉にならない、しかし確かな声で、レオへの忠誠と、旅の成功を願うかのように、静かに頭を垂れた。


 魔王城での宣言は、新たな時代の幕開けを告げるものだった。

レオは、リリス、そして胸元に抱いたリルと共に、長きにわたる旅路へと出発する。


 その旅路の先には、大陸に散らばる未だ見ぬ魔族たちとの出会い、そして、人間と魔族が手を取り合う、真の平和な世界の創造が待っている。


 それは、困難と試練に満ちた道になるだろう。


 しかし、レオの心には、揺るぎない決意と、仲間たちの支え、そして未来への確かな希望が満ちていた。


 新たな魔王の壮大な旅が、今、始まる。

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