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第106話:魔王継承

 玉座の間には、ようやく真の静寂が訪れていた。


 レオの体から放たれたまばゆい光が完全に収まった後、魔族たちは、彼への敵意を失い、その覚醒した姿と、ゴルザの証言、そしてリリスの言葉によって、戸惑いと、そして微かな希望の光を抱いていた。


 彼らは、地面に落ちた武器をそのままに、レオの次なる言葉を待っていた。

リリスは、レオの隣に立ち、彼の覚悟を見守っていた。


 レオは、静かに一歩、前へ踏み出した。


 彼の視線は、玉座の間を埋め尽くす全ての魔族たちに向けられた。

その瞳には、かつてないほどの強い光と、確固たる決意が宿っていた。


 覚醒した彼の存在感は、以前の彼とは比べ物にならないほど、圧倒的だった。


 彼は、ゆっくりと、しかし力強く、口を開いた。

その声は、玉座の間に響き渡り、全ての魔族たちの心に、直接語りかけるかのように響いた。


 魔力を帯びたその声は、聴く者の魂を揺さぶる力を持っていた。


 「俺は……

人間だ」

レオの最初の言葉に、魔族たちは再び息をのんだ。


 彼らは、まさか目の前の覚醒した存在が、自らそう名乗るとは思っていなかったからだ。


 しかし、レオの言葉には、嘘偽りがなく、真実だけが込められていた。


 「しかし……

俺は……この世界の真実を知った」


 彼の声は、セレーネの遺体と、息絶えた魔王の亡骸に向けられた。


 魔族たちは、レオの言葉に、耳を傾けた。


 彼らが、長年信じてきた「真実」が、今、目の前で揺さぶられようとしているのを肌で感じていた。


 「この世界は……国王たちによって……

偽りの歴史を植え付けられていた」


 「人間と魔族は……

本来……争うべき存在ではなかった」


 レオの言葉は、魔族たちの心に、深く、そして重く響いた。


 彼らの中には、顔を歪ませる者、拳を強く握りしめる者、そして、静かに涙を流す者もいた。

彼らは、これまで自分たちが味わってきた苦しみや悲しみが、全て偽りの歴史によって生み出されたものだと、今、理解し始めていた。


 レオは、魔王の亡骸に視線を向けた。


 彼の瞳には、敬意と、そして、受け継ぐ覚悟が満ちていた。


 「私は……

先代魔王の遺志を継ぐ」


 その言葉が、玉座の間を埋め尽くす魔族たちに、決定的な衝撃を与えた。

魔族たちは、互いに顔を見合わせ、その言葉の意味を理解しようとしていた。


 一人の人間が、魔王の遺志を継ぐ。

そして、新たな魔王となる。


 「そして……私が……

新たな魔王となる」


 レオの宣言は、玉座の間に、重く、しかし、希望に満ちた響きをもって広まった。


 彼の声は、決して傲慢ではなかった。

むしろ、全てを背負う者の、深い覚悟と、責任感が込められていた。


 魔族たちは、息をのんだ。


 彼らの心には、驚きと混乱が残っていたが、レオの覚醒した姿と、彼の言葉から感じられる真摯な決意は、彼らの心を捉えて離さなかった。


 彼らは、この「人間」が、これまでとは全く異なる存在であると、確信し始めていた。


 レオは、玉座の間の中心へと歩みを進めた。

彼の足取りは、力強く、そして迷いがなかった。


 その視線の先には、この世界の未来が、明確に描かれていた。


 「私の目標は……

ただ一つ」

 彼の声は、さらに力を帯びた。


 それは、彼自身の、そして魔王の、そしてこの世界の、全ての願いを乗せた誓いだった。


 「空白の十年……

その以前のように……」


 「人間と魔族が……

手を取り合い……

真の平和を築く世界を……創ること」


 その言葉が、魔族たちの心に、深く、深く響き渡った。


 彼らの瞳に、希望の光が宿った。

 「空白の十年以前」――

それは、彼らが古き書物や口伝でしか知ることのできなかった、人間と魔族が共存していた、平和な時代。


 その時代を、再び取り戻す。

その目標が、彼らにとって、どれほど大きな希望であるか。


 魔族たちは、感嘆の息を漏らした。


 彼らは、これまで、人間との争いの中で、失われた希望と未来を、目の前のレオの中に、見出し始めていたのだ。


 彼らは、膝をついていた者も、立ち尽くしていた者も、皆がレオに視線を向け、その言葉を、その存在を、全身で受け止めていた。


 その中の一人が、小さく、しかし確かな声で呟いた。


 「……新たな……

魔王様……」


 その声は、すぐに他の魔族たちにも伝播し、玉座の間全体に、静かな、しかし確かな波紋を広げていった。

彼らの心に、レオへの信頼が、深く根を下ろし始めたのだ。


 ゴルザは、その光景を、満足げな表情で見ていた。彼の使命は、果たされたのだ。


 レオは、リリスに視線を向けた。


 リリスは、彼の瞳の光を受け止め、深く頷いた。

彼女の心には、レオへの愛と、共に歩む決意が満ちていた。


 彼女は、魔王の娘として、レオを支え、新たな世界を創るために、共に歩むことを誓った。


 レオは、胸のポケットにそっと手を伸ばした。


 そこには、小さな温もり、リルがいた。

リルは、彼の指先に触れ、小さく身じろぎした。

リルもまた、この新たな旅立ちに、レオと共に歩むことを、静かに示していた。


 玉座の間には、魔王の亡骸と、セレーネの遺体が静かに横たわっていた。


 彼らの犠牲の上に、新たな未来が始まろうとしていた。


 レオは、リリスと共に、そしてリルと共に、その場に立ち、新たな時代への第一歩を踏み出した。


 彼の本当の戦いは、ここから始まる。


 それは、剣と魔法だけの戦いではない。

偽りの歴史を打ち破り、人々の心を繋ぎ、真の平和を築くための、壮大なる旅路だ。


 魔王城の魔族たちは、レオの言葉と、その存在に、新たな希望を見出し、彼を新たな「魔王」として受け入れた。


 彼らの瞳には、未来への期待と、そして、レオへの揺るぎない信頼が、確かに宿っていた。

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