第二章 囁く風と封じられた声
Scene5「図書塔と”禁書”の囁き」
午後の光が、アカデミア・アルカナの塔群に斜めから差し込む頃、ノクス寮の共有室に集まっていたオスカーたちの元で、一人の少年が熱気を帯びた声を上げた。
「図書塔!行かないかい!? 今のうちに“蔵書カード”申請しておけば、基礎閲覧層の本が読み放題だって!」
眼鏡の奥で目を輝かせるのは、トマス=エルドレッド。
朝の授業で語られた“魔法体系の多様性”にすっかり心を奪われた彼は、早くも次の知識へと手を伸ばそうとしていた。
「えー……せっかくの自由時間だってのに、本かよ」ルークが唸りながら寝台に寝転がっていたが、隣でオスカーが立ち上がる。
「でも、ちょっと見てみたい気もする。……図書塔って、学園で一番高い建物なんだろ?」
「そう!さすがオスカー、わかってる!」
即座に食いつくトマスの勢いに、ルークが呆れた顔で頭をかいた。
「クリフも行くか?」
「……ついてく」クリフもそれに加わる。
*
アカデミアの中心区画からやや外れた場所にそびえるのが、図書塔──正式には《アウリオス塔》。
白亜の石で積まれた八角柱の高塔で、全七階層。上階にいくほど閲覧資格が厳しくなり、最上階は高等課程でも許可制とされていた。
入口の門を抜けると、塔内には清冽な空気が流れていた。床は大理石、壁面には幾何学模様が刻まれ、棚に並ぶ古書からはかすかな魔力の残滓が漂っている。
「あれ、みんなも来たんだ!」
驚きつつも響かないように抑えた声が本棚の奥から聞こえてくる。フィオナとルーナも先に図書塔にきていたようだ。
「ルーナが行きたいっていうからついてきたんだ!」
男子たちの疑問に答えるかのようにフィオナが続ける。
「……本の匂い、好き……。」
ハンナがうっとりと鼻をくすぐる空気を吸い込む。
「エリーゼとジュディは?」
「エリーゼは”お茶の時間は譲れないわ”って。ジュディは付き添い。」
オスカーが応じている間に、トマスはすでに一冊の背表紙に手を伸ばしていた。
「“旧時代の魔力構造論”!この初版、絶版だったはずなのに!」
「ちょっと落ち着けって。誰も取ったりしないから。」
ルークが苦笑しながら言うも、トマスは興奮が止まらない。
皆思い思いにウロウロしながら面白そうな本を探したり読書に耽ったりしている。
オスカーは静かに塔の中央へ進んでいた。そこには螺旋階段があり、結界によって生徒の階層進入が制限されている。
(……あれが最上層……?)
五階より上の最上層区画はさらに結界が強く張られているらしく、視線を向けただけで額に重たい圧がかかるような感覚があった。
そのときだった。
──ぅ……ん……。
誰かが囁いた、ような気がした。風でも気のせいでもない、何かの残響。それはオスカーの耳奥にだけ、かすかに響いたようだった。
(今の……声?)
ふと、横から手が伸びる。ハンナが彼の袖を軽く引いて、最上階への階段を見つめていた。
「……あの部屋。精霊がささやいてる……」
「……え?」
「怖くはないよ。でも……寂しそう。ずっと閉じ込められてるみたいな、声。」
そのとき、塔の脇にあった彫像の下部に、奇妙な文様が浮かび上がっているのをトマスが発見した。
「これ……古代語だ。いや、ラディア語……?」
「読める……。」
思わず漏れたハンナの声に、全員が驚いた。
「え? ハンナ、それ、読めるの?」
「うん。……“光より来たる影、封ぜられし知識に触れるべからず”。」
彼女の口から、まるで音楽のように滑らかに紡がれる言葉。
「……誰に教わったの?」
トマスの問いに、ハンナは小さく首を傾けた。
「……誰にも。ずっと、聞こえてたから。」
その言葉の余韻が、静かな塔の空気に染み込んでいく。外の光が少しずつ傾き始めていた。
この日、図書塔で彼らが触れたのは、ほんのささやかな“入口”に過ぎなかった。けれどその声は、確かに彼らの中に残ったまま──静かに、物語を揺り動かし始めていた。
Scene6「選びし道──興趣会への第一歩」
入学から数日が経ち、アカデミア・アルカナの生活にも徐々に慣れ始めた頃、生徒たちには「興趣会(自修団および自由会)」の紹介期間がやってきた。
この学園では、学びの一環として自発的な研究や活動を重視しており、授業外活動の制度が充実している。
分類は大きく二つあり、一つは「自修団」──学園当局の許可を得て運営される、正式な研究・活動団体。活動目的が明確で、定期報告の義務と引き換えに学園からの予算・施設支援を受けることができる。
もう一つは「自由会」──非公式の学生自主活動団体。設立には届出が必要だが、それ以外は比較的自由で、補助も縛りも存在しない。そのぶん独自色が強く、奇抜な活動内容も少なくない。
この一週間は“見学期間”として、希望する会への訪問・仮参加が認められていた。
「ねぇねぇ、どこ行く? あたし天文自由会とか行ってみたいんだけど!」
フィオナが朝食のパンをかじりながら言う。
「僕は……やっぱり魔法科学系の自修団に行ってみたいな。理論演算式の研究してるところもあるらしいし。」
トマスが食後の紅茶を啜りながら、すでに候補を絞っている様子。
「俺は……剣術自修団を。実践訓練も多いらしい」と珍しく自分から発言したのはクリフだった。元々その方面で、一部界隈には名前が知られているクリフは、入学する前からいくつかの団より招待状が届いていたようだ。それらを眺めながら吟味しているようだ。
「さすがクリフだね!ルークは?」
トマスに尋ねられ、ルークは少し曖昧な表情で答えた。
「……いや、俺はまだ決めてなくてさ。とりあえずクリフについて行って、剣術のとこ見てくるよ。なんか……研究系はやっぱり違う気がするし。」
いつもははっきりものを言うルークが、珍しく歯切れが悪い。
そして昼食後の自由時間、ルークはクリフと一緒に剣術自修団の演武場を訪れた。
魔導剣を用いた実戦訓練が黙々と行われており、鋭い空気が満ちていた。教官のような上級生が号令を飛ばし、それに呼応するように剣が光を纏う。
「……すげぇな。こういうのは嫌いじゃないけど……。」
ルークは少し離れたところから様子を見ていたが、やがて苦笑して頭をかいた。
「やっぱ俺、もうちょい気楽そうなところ見てくるわ。剣一本に賭けるのは、向いてねぇな。」
「……そうか」クリフは短く応じ、再び鍛錬場へと目を戻した。
一方その頃、エリーゼは女子寮近くの舞踊練習室にいた。室内には繊細な調度と、大きな鏡が張られており、舞踏魔法の演出を取り入れたデモンストレーションが行われている。
「ふむ……所作は悪くないわね。ただ、衣装が野暮ったいのが惜しいわ。」
優雅に立ち、控えめに拍手するエリーゼ。ジュディは一歩後ろから「お嬢様、あの回転はかなり高度なもののですよ」と補足する。
「ええ、わかってる。でも私ならもっと優雅にやってみせるわ。」
──こうして、生徒たちはそれぞれの興味と性格に合わせ、少しずつ自分の「場」を模索し始めていた。
次第に、各会の代表者が歓迎の言葉と共に新入生たちを迎え、学園中に活気が広がっていく──。
*
中庭の陽が傾きかける頃。新入生たちの見学初日は一通り終わりつつあった。ノクス寮の面々も徐々に談話室に戻り、熱心な者だけが引き続き興趣会や自修団の部室棟に残っていた。
だが、オスカーはというと──どこへ向かうでもなく、まだ校内をひとり歩いていた。
(ルークは剣術の見学に行った。フィオナたちはいろんな会を回ってたし……。)
なにか心惹かれる場所があるわけでもなく、ただ、校舎の片隅、塔の影に足が向いていた。気づけば中庭を抜け、図書塔に初めて訪れたときとは別の、小さな鐘楼の前に立っていた。
「……こっちじゃないな。」
そう呟いて引き返そうとした、そのときだった。どこか、空気が変わった。
塔の奥、誰もいないはずの空間に、風がふわりと吹き抜ける。
──オスカー。
まるで、耳元で呼ばれたような感覚。振り返っても誰もいない。ただ、塔の上部、わずかに開いた窓から光が差していた。
彼の足が、自然と階段に向かう。古びた石の階段を、ひとつ、またひとつと踏みしめるたび、空気が冷たくなる。
頂上に至った先にあったのは、簡素な石室。そして、窓辺に吊るされた小さなチャイムが、風もないのにかすかに揺れていた。
オスカーは、その音にじっと耳を澄ませた。
──………………──。
まるで、塔そのものが囁くような、静かな響き。オスカーは胸の奥に小さなざわめきを感じながら、静かにその場を後にした。
*
日没を知らせる鳥の鳴き声と共に、オスカーはようやく寮の近くまで戻ってきた。ノクス寮の外壁に寄りかかるように、ルークが一人、本を読んでいた。
「あっ、オスカー!どこ行ってたんだよ、心配したぞ。」
「ちょっと散歩していたんだ……ルークは?」
「あー、クリフに付き合って剣術のとこ行ってみたんだけどさ……すげぇ迫力だったよ。けど、なんか違うって感じだったから、見ただけで帰ってきた。」
苦笑まじりにそう言うルークに、オスカーもふっと笑った。
「やりたいこと、まだ分からないな。」
「うん、俺も。けどさ──」
ルークは手に持っていた本を机に雑に置いた。
「見つからなかったら、自分たちで何か始めればいいじゃん。何かこう、興味のあることでさ。自修団、ってやつ。作る側になるのも楽しそうだろ?」
「……でも、何をする集まりにするの?」
オスカーの問いに、ルークは肩をすくめる。
「さあな。まだ分かんないけど……なんか、俺たちでやれること、きっとある気がするんだ。」
ふたりの背後、ノクス寮の尖塔が夜の闇に溶けていく。星がまた、ゆっくりと空に瞬き始めていた。
Scene7「灯りの時間」
アカデミア・アルカナの空にまたたく星が浮かび、ノクス寮の灯りが一斉に点り始める。それは学園での一日を終えた者たちへ向けられた、小さな“おつかれさま”のような合図。
寮の談話室──学生たちが自由に集い、落ち着いた時間を過ごせる場所。魔導灯のほのかな明かりが暗色の絨毯を照らし、壁面の書棚には古文書や魔導書、雑誌が並び、天井には薄く星図が浮かんでいる。中央には魔法で稼働する天体儀がゆっくりと星を巡らせていた。
「ハンナいつもこれ見てるよね。」
ハンナは部屋の中央、天体儀のそばに立っていた。フィオナが尋ねると
「……この天体、夜の声がしてる。」
「夜の……声?」
フィオナが小さく首を傾げる。
「うん。ささやきみたいなの。空にいる精霊が、ゆっくり息をしてる感じ。」
「はは、なんだか詩人みたいだな。」
ルークが笑いながら後ろから声をかける。続いてトマス、オスカー、クリフもやってくる。男子たちも、食後のひとときを談話室で過ごすつもりのようだった。
「……あれ?」
トマスが部屋の奥の隅を指さした。そこに、誰も近づかないような小さな閲覧卓があり、一冊の分厚い本が置かれていた。
「こんな古い本あったかな、誰が置いたんだろう……?」
興味を引かれたトマスが近づこうとすると、不意にその背後から声がした。
「触れないほうがいいよ。……あれ、封印されてる」ハンナだった。
「封印……?」
「うん。閉じるための魔法陣が重ねてあった。たぶん、先生たちの許可がないと見ちゃだめ。」
「なんでそんなことわかるんだよ……。」
ルークが目を丸くするが、ハンナはただ「なんとなく」と微笑むだけだった。
「なんでそんな本がここに?」「上級生が持ってきたのかな」「寮長に言っておこうか」とひと段落したその時、オスカーの耳に、またもや微かな囁きが届いた。(──……る……か……)
「……え?」と周囲を見回すが、誰ももう話してはいない。みんなはそれぞれソファに座り、おのおの本を読んだり、魔導カードで遊んだりしていた。
「どうかしました?」
ジュディが気づいて声をかける。
「いや……なんでもないよ。」
オスカーは曖昧に笑ってごまかした。けれど胸の奥で、またあの夜と同じ、微かな“なにか”が揺れていた。
*
灯りの時間──それは静かに、学生たちの一日を包みこむように流れていく。誰かの笑い声、ページをめくる音、そして時折響く、魔法の小さなささやき。
その夜、オスカーは再び夢の中で、ぼんやりとした光の中に小さな声を聞いた気がした。
(……おぼえてて……)
けれど、それが誰の声だったのか、朝になればまた霧の中へと消えていた。
Scene8「新たな授業」
入学からふた月も経とうという頃、アカデミア・アルカナの高地にも初夏の風が届くようになっていた。湖面を渡る風はどこか涼やかで、空はより深く澄み渡り、校舎の石壁には陽光が反射してやわらかい金色を帯びていた。
ノクス寮では、日々の生活がゆるやかに、しかし着実にリズムを刻み始めていた。生徒たちは皆、それぞれの歩幅でこの場所に馴染み始めている。
朝、談話室の円卓には自然と顔を合わせる面々がいた。
「昨日の講義、なんか急に難しくならなかった?詠唱術の構文を覚えるだけで精一杯だったよ……。」
フィオナがぼやきながら背伸びをし、カップに注がれたハーブティーの香りをくんと吸い込んだ。
「うん……でも慣れてきたらことばの順番にちょっとクセがあるのがわかるよ。」
となりで静かに応じたのはハンナだ。以前よりも表情が豊かになり、ふとした瞬間に柔らかく笑みを浮かべるようになっていた。
オスカーはそんな二人のやり取りを聞きながら、いつの間にか自身の手付きも板についてきたことに気づく。詠唱術の発声、魔導杖の扱い、訓練の構え──どれもまだ完璧ではないが、体が自然に動くようになってきたことを実感しながら、ルーク、クリフ、トマスと共に席を立つ。
連れ立ちながら、
「それにしても……クリフ、最近すごくないか?飛行訓練、間違いなく学年トップクラスだって言われてたぞ。」
ルークがそう言って、無口な仲間の背中をぽんと叩くと、
「別に、普通だ。……ただ、飛行は慣れてるから」とクリフは照れくさそうに眉をひそめただけだった。
トマスはというと、近頃は読書だけでは留まらず独自に実験をするようになり、昨晩の失敗で寮の机を焦がし寮長に叱られたらしく俯いているが、
「うーん、あの構造式のどこに問題があったのか……。そもそも基礎構築は合ってたのかな……。次やるとしたら……。」
と懲りていない様子だった。
「でさ、何となくまだどれもピンと来ないんだよな。オスカーはどうなんだ?」
ブツブツ独り言を喋るトマスを尻目に、結局興趣会を選びきれていないルークが、隣を歩くオスカーに尋ねる。
「んー……、まだ“これだ”っていうのは見つかってないな。」
「だよな。このままどこにも所属せずに過ごすか、どうしたもんかな。」
ルークの言葉を受けつつ、オスカーの脳裏には先日のやりとりを思い浮かべていた。
自分たちで興趣会を立ち上げる……想像するだけで心が風に当たったようにざわめくのを感じる。
「それができたら……楽しそうだな」思わず漏れる心の声。
「何か言ったか?」
「いや、大したことじゃないよ」ルークに危うく捕まりそうになり、不必要に誤魔化す。
そんな会話を交わしながら、四人は校舎裏につながる出口に向かっていた。
「それにしても何の集会だろうね、一学年全員集められるんだよね?」
思索の世界から戻ってきたトマスが発する。
「危険な実験をしないように全員に釘刺すんじゃないか?」
「ちょっとやめてよ!」
皮肉まじりにルークが茶化すとトマスがまさかと慌てる。
*
「皆さん、日常の授業だけが魔法学園のすべてではありません。」
校舎裏の高台に澄んだ声が響く。マドラス副学園長が青灰のローブを翻し、手にした杖で空間を軽くなぞる。その軌跡に沿って、空中に淡い光が走った。
「来週より、課外授業を行います。」
端的に伝えられ、生徒たちのざわめきが広がる。
「課外授業って、外に出るのか?」「どこまで行くのかな?」期待と不安が入り混じる中、エミリアの声が再び響いた。
「これから詳細を伝えますので静かに。今年の第一課外授業の舞台は、《灰の谷》です。」
その名に、一度は静かになった聴衆にざわつきが再び広がる。中には眉をひそめる者もいた。
「灰の谷……って、あの……」とトマスが言いかけたところで、マドラス副学園長は静かに頷く。
「かつて“灰嵐の災厄”が起きたとされる場所。今は結界によって安定していますが、強い魔素が残ります。班に分かれ魔法や精霊の痕跡、魔素を観察し、記録する──術者の眼と感性を鍛えるには最適な場所です。後はその地の薬草の採取も課題とします。課外授業後班ごとにレポートを作成して提出するように。」
場が静まり返る。課外授業の内容が飲み込めていないものが殆んどだ。誰もが、その地の謂れを耳にしたことがあった。
「引率は私と、もう一名──精霊術の指導者であるソラリス先生が担当します。」
「皆さんの安全は私たちが保証しますから、安心してくださいね。」
優しく温かい声で、副学園長の隣の女性が応じた。
リナリー=オプト=ソラリス──若くして精霊術の権威だ。
穏やかで授業もわかりやすく、低学年層の生徒たちからは人気の先生だ。
若さゆえ、上級生の中には舐められることもあるようだが。
「来週の《凛木の曜》の日の朝食後、この高台から出発します。それまでに班編成も発表するので、ちゃんと確認しておくように。」
二人の心強い味方がいると知り安堵しながらも、緊張した面持ちで散っていく生徒たち。
やがて、生徒たちが散っていく中、オスカーたちも校舎へと戻る。
「《灰の谷》か……まさかそこに行くとは。」
ルークが呟き、少しだけ胸を高鳴らせていた。
「”灰嵐の災厄”……千年前、灰の谷を中心に大陸の大部分に有害な魔素を撒き散らした災害だよ。今はもうだいぶ薄まっているらしいけど……。いろんな検証がなされた結果、“精霊の召喚と融合実験”が引き金になったって説が有力みたいだよ。」
トマスが真剣な表情で語る。
「へえ、さすがトマス、詳しいな。」
「だって精霊術史において重要なファクターだと言われているけどまだまだ謎ばかりなんだよ!そういうのワクワクしない?」
少し先を歩いていたフィオナが振り返る。
「不気味じゃない?」
「そんなことないさ!未知の古代のロマンが溢れてるよ!」
精霊との融合…その不穏な響きが、オスカーの耳に残った。
「オスカー?」
フィオナの声で我に返る。
「うん、大丈夫……なんでもない。」
まだ言葉にならない不安と興味。光と影が揺れ合うように、心の奥で重なっていた。