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ぶっとび校長先生は、僕にひつ恋。  作者: 舟津湊


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愛を引き継ぐ

「どう、調子は?」


「おうハルカ、また来てくれたのか」

「あーんもう、そのまま寝てていいよ」

「うん、大丈夫だ……それより、あと三日でロンドン行きだろ。出発の準備でいろいろと忙しいんじゃないか?」

「へへっ、ママに丸投げ、成功しました!」

「まったくおまえは……叔母さんもマメだからなあ」


「それより、タカニイ、調子はどうなの?」

「ああ、だいぶいい。この通り、お肌もツヤツヤだろ?」

「……そんなフラグたてるようなこと言わないの。でも確かに顔色いいわね。ヒゲは剃った方がいいかもだけど。退院のお話とか、先生からあった?」


「ああ、大分落ち着いてるけど、もう少し様子をみて判断したいんだってさ」

「学校もだいぶ休んじゃってるし、早く復帰できるといいね……『桜羽先生、待ってるわ♡』ってハートマーク送ってる生徒さん、いっぱいいるんじゃないの?……こないだも、そこの棚の引き出しに、お見舞いカードがいっぱい入ってるのをチェックしました」


「バカおまえ、勝手に開けるな!」

「えー、いいじゃない。タカニイのものは私のものなんだから」

「アニメのいじめっ子みたいなこと言うな」

「だって、タカニイは私のフィアンセよ。なんでもシェア。別に隠すこともないじゃない」

「フィアンセって……おまえが勝手に言ってるだけだろ。だいたい、どんなに仲がいいカップルでも夫婦でも、秘密の一つや二つはあるもんだ」

「え! まさか私に隠し事でもあるの?」

「……ノーコメント。おまえはどうなんだ?」

「そりゃあもう、タカニイにならなんでも話せるわよ……まてよ……」


「なぜそこで黙る?」

「いやあ、お互い秘密にしていることがあってもダイジョーブイ! 愛があればどうってことないよ」

「なんかごまかしたな……まあいいや」



「タカニイ、どうしたの? 具合悪くなった?」

「いや、別になんでもない。少し喋りすぎた」

「あ、ゴメンゴメン! そろそろ帰るよ」

「いや、いいんだ。もう少しここにいてくれ」

「……うん、わかった」


「あのなあハルカ、愛ってなんなんだろうな?」

「何よトートツに?」


「だっておまえ、さっきみたいに、愛があればとか、愛してるとかって、平気で気軽にポンポン言うだろう? でもそれって深く考えたことあるか?」


「うーん、深く考えたことはないけど、タカニイへの愛は深い」

「……まあいいや」


「どうしちゃったの?」


「愛には、恋愛感情ってロマンチックなものもあるし、友情っていう友達関係もあるだろう? あと、親子や兄弟姉妹の家族愛もそうだし、自己愛ってのも。それに無償の愛なんていうのもある。それに……」


「それってカナダの人が考えた『ラブスタイル』ってやつね」

「なんだおまえ知っていたのか。ませてるなあ」

「ませてるって、私だってもう高二よ。だいたいネットだかの受け売りを偉そうに喋るのは、タカニイの悪いクセだよ」

「入院してると暇だし、色々考えるんだよ……なあハルカ、おまえの俺への愛ってなんなんだ?」


「そりゃあもちろん……えーっと、なんだろう?」

「俺たちはイトコ同士で、子供のころからずっと一緒にいて……それって兄妹きょうだい愛みたいなもんじゃないのかな?」

「そんなことないもん! 恋愛感情だもん!」

「だって実際俺のこと『タカニイ』って呼んでるだろ」

「それとコレとは違うもん! ……そんな悲しくなること言わないで」

「わるいわるい……でもな、俺たち……あ、俺たちって『若者全般』のことだけど。そういうこと、もっと真剣に考えてもいいんじゃないかなって最近つくづく思うんだ」

「どういうこと?」

「うーん、うまく言えないけど、どんな愛だと幸せになれるのか……自分も、相手も、周りの人も」

「なんか、今日のタカニイ、ちょっとキモい。」

「そう茶化すな……わりと真面目に考えているんだぞ。そういうこと、若いうちに、例えば高校生くらいの時に考えたほうが、幸せな人生を送っていけるんじゃないかと……」


「自分たちの愛を探すってこと?」

「お、いいこと言った。 俺が言いたかったことはそういうことだ」

「ふーん、いまいちピンとこないけどさ……タカニイの学校でそれ教えればいいんじゃないの? 将来、校長先生になるんでしょ」

「校長になれるかどうかなんてわからないよ。親父がそうなれって言ってるだけ……でもマジで学校を愛について考える場にしたいと考えている」

「えー、楽しそう! あーん私、タカニイの学校に入ればよかった……女子高もそれはそれで面白いけどさ」

「おまえ、ロンドンの名門高校に転校するんだろ? 叔父さんが『奇跡がおきた』って涙流して喜んでたし。そこでも色々楽しいことがあるんじゃないか?」

「そうだといいけど……でもちょっと恐い」

「おまえは物怖じせずズカズカと入り込んでいけるんだから、どこに行っても大丈夫だ」


「……ホントはどこにも行きたくない。ココを離れたくない……でもタカニイが約束してくれたから」

「ああ。ずっと一緒にいるってな……小さい頃にも約束したもんな」

「だからガマンして行ってくる。ということで、早く元気になって」

「ガマンなんて言うな。楽しんで来い」

「わかった……ごめんね。いっぱい話して疲れちゃったでしょ。もう行くね」

「大丈夫だ。よし、行ってこい!」

「うん! 行ってきます。じゃあね!」



「そろそろ搭乗手続きの時間ね」

「ああ、荷物も預けないと……はるか、どうした?」


「ごめん、ママ、パパ……やっぱり私、ロンドンには行けない」

「ここまで来て、いったい何を言ってるんだ!?」

「そうよ。荷物も全部運んじゃったし、学校だって決まってるのに」


「でも、だめなの」

「どうしてなんだ?」


「私がそばについてないと……タカニイは……」

「心配するな、だいぶよくなってるって話じゃないか」

「でも、今なの……今じゃないといけないの!」


「……しょうがないな、遥の分だけ予約キャンセルして席を取り直す。後で連絡するから、必ずそれに乗って来なさい」

「パパ、ありがとう。無理言ってごめん」

「まあ、遥の突拍子のなさは今に始まったことじゃないしな」

「気をつけるのよ」

「ありがとう、ママ」



「遥、なんでここに!? ロンドンに向かってたんじゃないのか」

「叔父さんこそ、こんな時間になんでココ(病院)に? 叔母さんも……そして夏鈴ちゃんも?」

「ハルねえさま、こんばんは」

「ハルカちゃん、来てくれたのね……でも、ちょっと遅かったわ」


「え!? どういうこと?」

「……隆行に会ってやってくれ」

「あの……どういうこと!? ……叔父さん? ……叔母さん?」


「ねえねえ、パパ―、ママー、ハルねえさまー、お月さま、おっきくてきれいだったよ。にいさまにおっきしてもらって、いっしょに『おつきみ』しようよ」



二〇一三年 六月二十三日 二十時三十二分。

梅雨空の雲間に大きな月が見えていた。怖いくらい大きなお月様が。


タカニイは、うそをついた。

タカニイは、私を待っていてくれなかった。


そのとき、私は確信した。

タカニイへの愛は、従兄妹きょうだい愛なんかじゃなかったって。


だから。

叔父さんと叔母さんが、日本に残るのなら、うちの子にならないかって言ってくれたけど断ったんだ。

だって、叔父さんと叔母さんの子になったら、タカニイとは本当に兄妹になってしまう。

兄妹愛なんかじゃない。絶対違う! 違うったらちがう。

ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう……


そのとき、私は決めたんだ。タカニイのために、愛とは何かを追求していくんだって。

そして若い子たちがそれを学び、体験する場所をつくるんだって。


それを。


いつか、話せる時がくるんだろうか、あの子に。

わかってもらえるんだろうか、あの子に。

私を家まで背負ってくれ、居間のソファーで眠っているあの子に。

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