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4.求める呪い

 今日も今日とて隠し部屋にて、お嬢様は本を投げる。

 ちなみに今回の投てき時に添えられた言葉は「私は暗殺がしたいのであって相手の秘密を知る必要はないのよ」であった。

 ちょっと気になったのでブランがキャッチした本を受け取りパラパラと読んでみると、そこには相手の心を知るには自分の秘密も明かさなければいけない、とか相手に寄り添った言葉を、とかそんなことが書かれていた。


 確かにこれは禁書ではないな。前半は割と禁書っぽい内容だったんだけどな。

 これにはアレクシスも納得して頷き、禁書もとい人付き合いの教本をそっと外れ本の列に加えた。

 既に禁書の捜索を始めて二か月ほどが経過しているが、お嬢様の求める禁書は未だ見つかっていない。


 ちなみにブランが捜索していた婚約破棄の理由となるご令嬢に関しては順調に調べが進み、既に候補は二人に絞られている。

 今はその二人の令嬢の動向を別の者が監視しており、王子との接触等があれば報告が来るようになっているのでそちらは特別意識しないで良いだろう。

 というか、そこまでしっかり対策したのにお嬢様はまだご令嬢たちの名前を覚えていない可能性がある。


「……ああ、そうだアレクシス。禁書そのものではなく情報で気になる事があると前に言っていたけれど、あれはどうなったの?」

「ご報告が遅れてしまい申し訳ありません。調べてみたところ、赤獅子の森の傍にある塔に禁書が保管されている、という話でした。詳細まではまだ調べ切れておらず……」

「行くわ」

「……は?」

「行くわよ、赤獅子の森ならここから一週間もあれば着くわね」


 話を聞き、お嬢様は自らの予定表を取り出して往復二週間以上の予定をねじ込む算段を始めた。

 アレクシスとしては、もっと詳しく調べて本当に存在するようなら自分が行くか他の者を使いに出すかする予定であり、お嬢様を行かせる気など欠片も無かったのだがお嬢様は自分で行くつもりらしい。


「赤獅子の森って禁足地なんでしたっけ」

「そうよ。全く、それらしいところにあるものなのね」

「待ってくださいお嬢様。まだ本当にあると決まったわけではないですし、そもそもお嬢様自身が赴かれる必要は全くないのでお屋敷で大人しくしていてください」

「いやよ」


 お嬢様は、どうしても自分で行くつもりらしい。

 この分ではアレクシスがお嬢様を置いて行ったところで気付けば馬車に乗っているか、最悪追い越して最寄りの街で「遅かったわね」などと言いつつアレクシスたちを出迎えかねない。

 安易に想像できてしまったその光景に、アレクシスは痛み出した頭をそっと押さえる。


 そうなるよりかは、共に行った方がまだいいか。

 はじき出された結論にため息を吐いて、仕方ないのでお嬢様の予定に遠征予定を詰め込む手伝いをすることにした。

 行けるのは早くてひと月後になるだろうか。元々忙しい人なので、先まで予定は詰まっているのだ。


 楽しそうに自分の予定を確認しているお嬢様の顔を見て、アレクシスはブランと顔を合わせる。

 これが婚約者暗殺のための禁書を探している顔だと知らなければ、ただの美しいご令嬢だと見惚れていられるのに。残念ながら何をどうするつもりなのか一から十まで知っている身なのでそんなに穏やかな気持ちにはなれなかった。


「お嬢様、せめて護衛は連れて行きますよ」

「そうね……でも、私の計画を知っても何も言わないような、他言もしないような人でなければ共には行けないわ」

「それはもちろん承知しております。なので、ダスティン翁にお声をかけようかと」

「……そうね、ダスティンお爺様なら、私も文句はないわ」


 ダスティンとは、もう引退した老騎士の名だ。

 国に長く仕えた騎士で、現役の時には国王からサーの称号を賜った、国の中でもまだ名が上がる人気者だ。

 このオーウィアー家とは現役時代から関りがあり、現役を引退した後もお嬢様に何かあればすぐに駆け付けてくれる老紳士だ。


 今は近くの小さな屋敷で隠居生活を送っており、時々屋敷に遊びに来る。

 お嬢様から遊びに行くこともあるくらいには仲が良く、本当の祖父と孫のような、というかそれ以上に仲がいい相手だ。

 そして、ダスティンはお嬢様の婚約者である第一王子の不真面目さというか怠け癖と言うか性格の難というか、そのあたりも認識していてお嬢様を心配していた人でもある。今回の件についても頭ごなしに否定はしないだろうし、お嬢様の話も真剣に聞いてくれるだろう。


 つまるところこれ以上ない人選なのだ。

 他に頼めるような人もいないので、あとはダスティンが頷いてくれるかどうかである。

 話は早い方がいい、とお嬢様が直接話をしに行く予定をまずは作り、そこで夢の事から今回の目的までを話すことになった。


「……ダスティンお爺様は私をお叱りになるかしら」

「ダスティン様ならきっと分かってくれますよ!」

「ダスティン翁に叱られたら、考えを改められるのですか?」

「いいえ。でも、少しだけ悲しいわ」


 貴族の令嬢として、王子の婚約者として、完璧に日々を過ごすお嬢様にとって家の事と一切関係なく自分を見てくれるダスティンはある種の救いであったのだろう。

 そんな人に否定されるかもしれないと、ほんの少しだけ怯えるような表情をしたお嬢様にブランが心配そうに駆け寄った。

 それでも止めはしないのは本気で王子を殺そうとしているからだ。自分の敵討ちだとお嬢様は言っていたが、アレクシスは何かそれ以上の物をお嬢様が背負っているように感じた。

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