13.表情を作る天才
王子が足の骨を折った翌日、お嬢様は見舞いに王城へと赴いた。
その他終わらせておきたい仕事もあってのことだが、何より先に王子の元へと行き、数分で追い出されて城内に設けられたお嬢様の執務室へと移動した。
城の使用人たちからすれば、婚約者が心配して訪ねてきたのにまともに取り合いもせず追い返した王子は酷い男だと思うだろう。ブランも酷いです!と横で小さく呟いているが、追い返されることはお嬢様にとっては想定通りの事だった。
それでも少しだけ気落ちしたような表情を作っている辺り流石である。
お嬢様は完璧なご令嬢なので、本心とは全く違う表情を作って保つことも朝飯前だった。
「気にしていないように見せようとしているけれど、隠しきれず少し落ち込んでいることが見て取れる表情」を完璧に作っている辺り、女優顔負けの演技力である。
「これだけ終わらせて屋敷に戻りましょうか」
「はい」
普段に比べて片付けて行く書類の量が少ないのも、落ち込んでいる婚約者の演技の一環なのだろうか。
分かりやすくやらずに普段から関わる人だけが気付くような絶妙なラインを狙って行くあたりが流石お嬢様だな、なんてアレクシスが考えている間にお嬢様は必要最低限の書類の確認を終わらせていた。
そしてこの日は屋敷に帰り、数日後に残りの書類を片付けに行き、ついでに王子の様子を見に行って追い返されるのだった。
城のメイドたちがお嬢様にいつも以上に気を使ってくれているので、ブランとアレクシスも神妙な顔をしておいた。
けれど前回の登城から帰った後に隠し部屋でお嬢様が「大変愉快だったわね」と言っていたので笑いを堪えて神妙な顔をするのが限界である。何か喋ろうものならボロが出そうだ。
そんなこんなで今回も無事、吹き出すことなく城から屋敷に帰還した。
「中々いい感じに同情票が集まってきたわね」
「流石ですお嬢様!」
「本当に流石の表情筋ですね」
「今年の建国祭は一人で行くことになりそうかしら……」
「建国祭といえば、ソフィアさんがドレスが届いたって言ってましたよ!」
「そう、分かったわありがとう」
隠し部屋で楽しそうに笑ったお嬢様は、城のメイドが軒並み自分の味方に付いている状況に満足しているようだ。
王子が亡くなるまでの同情票が、そのまま亡くなった後の有利になればと考えているのだという話は先にお嬢様から聞いていたので特に何も言わずに話を続ける。
ちなみにご当主も思考と顔を一致させないで行動するのは得意なので、オーウィアー家の標準装備なのかもしれない。
「王子が欠席されるようなら、ご当主と参加されては?ここ数年は王子の婚約者としての参加でしたし、ご当主も喜ばれると思いますよ」
「……そうね、お父様の迷惑にならないようならそうしましょうか。あとで確認しておくわ。あぁ、それから二人の衣装も決めるから、明日の午後は開けておいてちょうだいね」
「畏まりました」
「かしこまりました!」
華やかな祭りの席では、使用人でもそれなりに着飾る事がある。
オーウィアー家は名と歴史のある家なので、その家のお嬢様の付き人である二人は使用人の中でもかなり着飾ることになる方なのだ。
お嬢様の後ろに控えていることになるのでお嬢様の衣装の一部扱いでもある。当然のようにデザインや色などを合わせるのでブランは毎年それはそれは楽しそうに選ばれる衣装を眺めていた。
「ふぅ……呪いの進行も徐々に速度が上がっているし、建国祭の次のイベントは王子の葬式かしらね」
「もうそんなに進んでるんですか」
「ええ。最初に植えた小さな種が茎と葉を伸ばしているの。花が咲くまであと少し。花が咲いたら、あとはもう枯れるだけだもの」
「呪いをかけてから、そろそろ二か月ほどになりますかね」
お嬢様の話によれば呪いの進行は約半年間で王子を死に至らしめる。
つまり、もうすぐ折り返し地点ということだ。もうここまで来たらアレクシスもちょっとウキウキしてくる。何せ相手は夢の中でお嬢様とブランを処刑したやつなので。
夢の中でもしっかり追放と悪い噂と無能っぷりの暴露と、とそれなりの仕返しをしてはいたが、今回は誰も死んでいないしお嬢様の努力の結果なのでなんかもうちょっと嬉しくなってきているのだ。
「……ではお嬢様、そろそろお時間です」
「分かったわ。行きましょう」
内心ウキウキしながら、アレクシスは時計を確認してお嬢様に声をかけた。
お嬢様はこの後座学の時間であり、アレクシスは建国祭の確認、ブランは一人で街にお使いに出ることになっている。
遅れるわけにはいかないので早めに隠し部屋を出て、先に別方向へ向かうブランを見送ってアレクシスはお嬢様を部屋に送り届けた。
そのまま自身の仕事に向かい、その後も何事もなく無事に一日が終わった。
そして翌日、杖を使ってどうにか移動をしていた王子が転んで今度は手首を痛めたと報告がきて、ついに足以外にも被害が行ったかと三人揃って笑いを堪えるのに必死になるのだった。




