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烏合の衆  作者: 行方 不明(なめかた ひあき)
1/2

私の退屈

たぶん、処女作です。ごゆっくり。

『つまりさ、彼女はこう言ったんだよ。私を愛するためならなんだって貢げるでしょってね。全く困っちゃうよねぇ〜、だってさ…』


何の変哲もない昼下がりのことである。どうやら彼は推しのあいどる?とやらのライブから帰ってきたところらしい。

特に何があるという訳では無いのに他にやることも無く、仕方なく生産性のない会話に耳を傾ける。


『……でもやっぱりオタクとしての矜恃があるってものだよ。僕はそれでも彼女に貢ぎたい、そのために生活費も最小限に抑えてこんな寂れたところに住んでるんだからさ。』


彼がそう話すこんなところとはつまり今私が彼と話している場所、彼自身の住居であり、中心都市からは少し外に出たところのことで…


『ねえ、ちょっと、僕の話ちゃんと聞いてる?』

そう言われてハッと我にかえる。


『ん?ああ、聞いてるよ。それで髪型がどうしたって?』


そう返事を返すと、彼は不満そうに声をあげてライブの戦利品(彼談)に没頭し始めた。

私と彼が出会ったのは約1ヶ月ほど前のことだろうか。私が住んでいたこのアパートに彼は嵐のように引っ越してきた。なぜ引っ越してきたのか私が聞くと、彼はかなり驚いた様子だったが『疲れてるのかな…』と言いながら教えてくれた。なんでも、好きな女の子のために生活費を限りなく節約したいだとかで少し呆れたのを今でも覚えている。

私は特に他に話す人もいなかったので彼と話す内に意気投合し(主に彼に一方的に話され)今では彼の財布の残額すら気にかけるようになったのである。

中には熱中しすぎてかなり大きな声を出してしまうこともあったが、幸いこのアパートには私たち以外入居者がいなかったというのもあって、苦情を受けることは無かった。


『…ねぇ、ねえってば!』


どうやらまた話しかけられていたらしい。


『なんだい』


私は答えた。すると彼は


『今からまた彼女に貢ぐためにバイトに行ってくるから。帰ってきたら彼女の良さを語りつくそうぜ!』


『わかったわかった、行ってきな』


彼が出ていった後の部屋はとても静かで、心が落ち着くと同時に退屈が訪れる。そうしてじっとしていること数分、突然ドアをノックされた。誰かと思って外に出てみると宅配人が外で怯えるような素振りを見せながら荷物を抱えていた。


『…あれ?留守かな?まあいいや、ここに置いておこう。』


そう言って宅配人は走り去って行った。

しばらくして彼が帰ってくると私は言った。


『なにか君宛に荷物が届いていたようだが、あれは一体なんなんだい?』


すると彼は半ば叫ぶように、


『推しのグッズにきまってるじゃないか!』


と言って半狂乱の様子で箱を開け始めた。が、中を確認した瞬間彼の顔が怪訝なものになる。

『どうしたんだ』と私が聞くと、彼は少し待ってくれと言って黙り込んだ。

なにか彼にも事情があるのだろうと思い、私も黙って待っていたが

『今日はもう寝るよ』という彼の一言で私の疑念はますます深まったのである。

翌日、彼は私に何も言わず身支度のようなものを始めた。


『昨日の夜荷物が届いてから何も言わなくなったが、一体どうしたって言うんだ』


そう私が聞くと彼は言った。


『実は僕の母親がかなり危ない状態らしくてね。』


聞くところによると彼はアイドルのために親に無断で家を出たそうなのだが、父親から母親の危篤を知らされて少し孝行心が働いたという。見舞いの後は実家に戻って母親の看病に徹するらしい。

昨日の荷物は、父親からの手紙と母親の病状が書かれた診断書だったのである。


『もうすぐ父さんがここに迎えに来るから君には急で悪いけどこれでさよならだ。』


哀愁漂う表情で彼は私に告げた。私は別段寂しいわけではなかったが、これから私を襲うであろう極度の退屈に、少しの苛立ちを覚えたのは間違いない。


『そうか、なら仕方ない。私はこれからまた知人を探すとするよ。』


そんな話をしているとドアをノックする音が聞こえた。


『おい、○○!帰るぞ!』


どうやら彼の父親らしい。


『じゃあ僕はもう行くから、短い間だったけど有難うね。』


そう言って彼は玄関へと駆けて行った。


〜にしても○○独り言増えたな〜

〜そんなことないよ父さん笑〜


そんな声を遠く聞きながら私はまたじっとする…



数ヶ月後



どうやら今度はこのアパートに新婚夫婦が入居してきたようだ。

とりあえず挨拶でもしておこうかと思い、ちょうどドアから出てきた2人に私は、


『こんにちは、これからよろしくお願いします。』


と声をかけた。

しかしその声は届いていなかったようで夫婦の他愛ない会話は続いている。


『もし、これからよろしくお願いします。』


もう一度声をかけるが聞こえた様子は無い。

一体何をそんなに話すことがあるんだとその夫婦の会話に聞き耳を立てると、


『ねぇあなた!このアパートにしてよかったでしょ?家賃は安いし、少し都市部からは離れてるけど静かだし!』


『そうだね、事故物件なんて聞いていたからてっきりなにか怪奇現象でも起こるのかと思っていたよ』


『も〜あなたったら怖がりなんだから!』


…なるほど。私の退屈な時間がまた始まったようである。



fin.

お帰りなさい、この世界観を広めてくだされば幸いです。

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