第四話 女子高生、気が付く
数十分後、私は放心状態だった。
とりあえず、私が意識を失って気が付いたときにはここで倒れていたことは理解してもらえた、と思う。
そのあとが問題だった。
ここはどこなのかを聞くために、私は地図帳を取り出した。スマホが圏外だと地図も使えないから、地図帳を持っていて助かった。明日が地理のテストだから、たまたまカバンの中に入っていた。普段なら当然、地図帳なんて置き勉している。
自分は日本のこの辺りにいたことをまずは伝え、ここはどこですか?というのを身振り手振りでどうにか伝える。そうしたら、困惑顔で首を横に振られてしまった。
え!!もしかして日本ですらないの!?日本で暮らしている外国の方だとしたら、当然ここがどこか知っているはずだし、旅行で来ているとしても大雑把な場所くらいはわかるはずだ。そんな簡単に、気絶している人をつれて出国できるの!?入国管理のひとぉぉ!仕事してますか?
ふざけている場合じゃなかった!ここが日本国内じゃないんだとしたら、状況はますます絶望的だ。まあ、電波が入るところまで案内してもらいさえすれば、どうにかなる、かな?日本の大使館までたどり着ければ、なんとかしてもらえると思う。気を失って気が付いたらここにいました、なんて言ったら変な子だとは思われるだろうけど…。
不安な気持ちを抑えて地図帳のページをめくり、日本地図ではなく世界地図のページを開く。それを差し出すと、イケメンは一瞬驚いたような表情を浮かべた後、もう一度困った顔で首を振った。
嘘!自分の国が地球のどこにあるか知らないの…?ますます不安が加速していく。いい加減、私はいったいどこにいるのか知りたくてたまらない。なにもわからない状況は、人間の精神を削っていく。
イケメンが懐からなにかを取り出し、私に差し出す。それは間違いなく地図だった。だけど、左端には見たことがない形の大陸が小さく描かれ、その一部を拡大したものが中央にメインで描かれている。手元の地図帳と、その地図を必死で見比べてみるけど、そんな形の大陸はやっぱり存在していない。
「うそでしょ…」
さっき世界地図を広げた時、彼が現在地を指させなかったのは、地図を読めないからじゃない。その地図の中に現在地が“なかった”からだ…。急に体の力が抜けて、地図が手から滑り落ちる。
本当は最初からその可能性に気づいていたのに、無意識に頭が拒否していたのかもしれない。
コスプレにしてはやけに作りがしっかりしている装備に、重厚感あふれる剣。傍らで草を食んでいる、いかにもこれで旅をしています!という出で立ちの馬。どれも二十一世紀より、中世ヨーロッパがよく似合う。
くわえて、見たことがない地形が描かれた地図。
それに、私はどうやってここに来たの…?光の中に吸い込まれて、宇宙みたいな空間を落ちてきたんじゃないの…?
“異世界”の三文字が頭の中で躍る。
「は、あはははは」
口から乾いた笑いが漏れた。