2021年5月4日家族集合
約束した5月の連休、子供達が集まった。「今帰ったよ」玄関先に長男哲也の声。娘にやった方法で子供達を驚かしたら長男が驚き過ぎて切れた「馬鹿親父、ふざけるなよ」、(すまん)。
子供達に「コロナ感染対策用に魔法のサーチを掛けるよ。体の隅々まで精査し、異常がないか分かるからね」といって「サーチ」俺の声で息子の体が淡く光る。異常があればラノベ定番のキュアやヒール、更にははクリーンや浄化を掛ける。
若返ってモデルの様な俺達の姿や体が淡く光る魔法を見て子供達は茫然。全員異常はなかったが、声もなく玄関で立ち往生している。家の中から娘が「吃驚することならまだ一杯あるから早く入んなさいよ」との声で動き出す。
子供達は、家に入った時点で腹一杯の様子。悲しいことに孫は見慣れぬ若々しい祖父母に近寄っても来ない。両親より若く見えるのだから当然か。孫に「前のジイとばあがいいかい」と聞くと首を振る「今の方がカッコいい」というので慣れるまでの辛抱か。
長男の嫁利恵が「お義父さんとお義母さんは若くなっただけじゃないんですよね」と聞いて来る「そうだ。さっきみたとおり魔法が使えるので、魔法で若返ったのだが単純な若返りじゃあない。若返った時の姿を思いどおりデザインしている」と説明すると子供達はまた唖然「この力について、最初から説明しよう」 俺は、寄生体のこと、魔素吸収のこと、能力獲得のことを説明した。
「お前達全員に同じようにする考えでいるが、この力に関し様々なトラブルが発生する可能性がある。その対応策も必要になる」と話した。更に「この力の今後の使い方について、皆も良く考えて欲しい。それと孫達には脳強化と望むなら身体デザインをやってあげたい」と話す。
子供達は、トラブル発生の心配はあるが、それを差し引いても余りあるメリットを無視することなどできないというので「それじゃあ、後で魔素吸収能力を発現させる」必要な説明も終わり、皆の意向も聞いたので少し日常に戻る。お土産の交換や皆の近況報告を聞く。
そんな中、娘が欺瞞を解いた。我々も初めて見る姿に驚く。身長は170㎝位の八頭身になり、元々小顔で鼻筋もスッキリ通っていたが、切れ長だが一重であった眼が二重になったことで更に際立って本当に綺麗だ。和服が似合う大女優にも似た雰囲気である。嫁二人が「うわぁ~お義姉さんすごく綺麗」と声を上げる。娘は「ありがとう」と自信に溢れた声で答える。
俺は内心(この調子でいけば全員モデルや男優・女優の様になってしまうな)と思ったが、まあ欺瞞を使えば問題ないと切り替える。このデザインアンチエイジングで、皆が楽しく自信をもって人生を歩めるなら最高だろう。女達は集まって姦しくデザインアンチエイジングの話をしている。息子達は孫の相手をしている。今までと余り変わらない風景に見えるが本当は違う。今は、これから我々家族がドラステックに変わっていく前の静けさなのだと。
昼食を終え各自部屋の整理も終えたので、早速魔素吸収能力の発現措置を始める。長男・その嫁、次男優也・その嫁侑佳の順に実施する。息子達には娘に措置した時より多くの魔力を流し、嫁達には娘と同様に措置する。男はトラブルになった時、対応が必要になると考えてのこと。
俺は、息子達に強い魔力を流込み特別な力の発現を願った。子供達への措置は無事に終わった。俺は「孫達に脳強化は行うが、身体のデザインはまだどう成長するか分からないので、今後の様子を見て決めよう」といって、成長する姿を見ることにした。孫へのデザイン措置は確かに問題がある。本人に欺瞞を掛け続けさせるのは無理があり、デザイン措置後の姿で学校や保育園に行けば驚かれる。
翌日、何時もなら子供達は買い物等に出かけたりするのだが、今日は溜まった魔力で各自脳強化から始める様だ。俺が行った手順が合理的と判断したのだろうか。俺は、ラノベ定番のステータス表示ができないか試行錯誤している。
理屈としては、ある数値を基準にLV1と定義し、その数値から一定以上増加する毎にLV2、LV3とすれば良い(ラノベの様に誰かがレベルを付けてくれる訳もない。数値を付けることもできないよ)基準とする数字で、例えば力を2と表示する場合、何から2を導き出すのか。筋肉の太さか持ち上げる重さか。全てを定義することから始めないと無理なのだろうか。思考の迷路に陥り抜け出せない(誰かアカシックレコード作ってくれないかな。森羅万象を視通せる叡知は存在しないのか)
ラノベ世界に半分頭を突っ込みながらステータス表示の仕様を考える。暫くするとまるでパソコン上で2つのウインドウを開き、両方同時に操作しているような感じを覚えた。ハッとして、両方に思考を向けると両方同時に集中することができる。これは、今までにない感覚だ。試しに片方の思考を止めると、1画面に戻った感じになる。これは並列思考だと直感した。先ほどの分割画面の感覚を参考に、何分割が可能か試す(おぉ、6分割まで出来た。これは嬉しい)これは、今後最高のアイテムになる。
例えば、先に強化した脳の記憶分野から数学、物理、化学、法律、語学の知識を引出し、脳内学習しながら通常行動が可能となるのだ。普通ならこんなことは不可能だ(聖徳太子かよ。天才になれる、いや天才だ)女房と娘は、手空きの様なので「母さんと静、聞いてくれ6分割の並列思考をを獲得したよ」と話をする「本当、父さん凄いよ。どうやったか教えて」二人共驚驚いてる。
女房はパソコンを使わないので、分割画面を見たことがなく今一理解が浅い。逆に娘は猛烈に食いついてくる。娘は法律関係の仕事についていて、そのの活用方法に心当たりがあるのだろう。娘は早速俺が行った方法で並列思考獲得に取組んでいる。女房は然程必要とは感じていない様だ。後で皆に話そう。
家族の集合から1週間が過ぎた。俺はステータス表示は開発できなかったが、並列思考を獲得しそれを活用したことにより膨大な知識の獲得、思考の深化を成し遂げた。また、娘に任せた悪意察知も獲得方法を聞いて何とか獲得できた。悪意察知を獲得する肝は、表情の変化を観察し続けることであった。誰しも嫌いな人に会えば表情が強張ったり口元が歪んだりと何らかの変化を起こす。逆に好感を覚える人には自然な笑顔や柔らかな声で応対するものだ。
娘は、職場で明らかに嫌われていると確信している人の表情変化を常に観察し、悪意察知を獲得したのだという。その人が柔らかに対応している時と自分に対する時の表情を比較観察もしたそうだ(それじゃあ、俺たちが二人協力しても獲得できない訳だな)子供達は職場があるので、むしろ簡単に獲得できると思う。この悪意察知は、一般社会において一番活用できるものと思う。
息子達は、先行している我々の能力の4割ほどであるが順調に能力を獲得している。デザインアンチエイジングについては、我々は5カ月程の時間で行えたが、忙しい息子達は更に時間が掛かるだろう。俺は息子達に「お前達はまだ若い。若返りは然程急ぐ必要なものでもない。寧ろ並列思考を獲得し、それを活用して様々な知識の獲得が先だ」と話した。
長男は「いやぁ。それは分かるけど親父達を見るとなぁ」、次男が「もう腹が中年太りなんだよ。親父達20歳の身体は羨ましいよ」見ると嫁達が凄い勢いで同意を示している(静の姿も見たことだしなあ~)、「まぁ駄目と言ってる訳じゃないよ。俺が思った優先順位だから」、(嫁達を見たら駄目なんて言えないよ。恨まれたくないし)孫の脳強化は、周囲からちょっと天才ぽいと思われる程度に留めた。
娘は、見事並列思考を獲得したが、驚いたことに8分割であった(俺より優秀ってことか、へこむわ~)、「お父さん、8分割だよ凄いよね」俺の心も知らず、娘のドヤ顔がウザい。教えて損した気分だ(いやいや、ここは寛容な心だ)女房にはパソコンの分割画面を見せ明確にイメージ出来るよう努めているが、いまだ獲得できていない。しかし、料理番組のレシピなど一瞬で覚え、1日の家事に要する時間が半分になっているなど成長しているので(まあ別なアプローチ、例えば絶対焦がさないよう注意が必要な鍋料理を、3つ同時に作りながら俎板で食材を切ったりすれば獲得できるだろう)
子供達も明日夫々の地に帰るので、今後の活動・方向性について話し合った。俺から「折角若返ったのだから、欺瞞を掛けたまま生活するのも面白くない。今でも、旅行など家を離れて本当の姿を見せることは出来るが、そうではなく恒常的にだ」という話をした。更に「この若返りは、回数限定ではなく魔素がある限り可能だ。永遠の命を得たといっても過言ではない。つまり、人生を何回もやり直せるということ。だから皆も自分のこととして考えて欲しい」
事の重大さに気づき皆沈黙している。長男が「それって、今の家族を変えることにもなるよね」、「そうだ。人生をやり直せるのだ。望むなら結婚相手だって違って駄目な理由があるか?」皆そこまで考えていなかった様だ。嫁さんなど蒼い顔をしている。
今の家族を維持できるのか、いや、維持する必要があるのかといった問題が重く圧し掛かる「逆に、何度でも同じ結婚が出来ることでもあるんだ」少しほっとした顔。魔素吸収能力を発現 させるのは、現在俺だけが可能である。これは寄生体に確認したから間違いない。どうやら寄生体が体内にいることが鍵らしい。とすれば今後10年間だけの能力になる。
俺は、現在の子供達の配偶者が別家族になった場合、その配偶者の家族に対して措置する気はない。皆が沈黙している中「魔素吸収能力を発現できるのは、俺の体内にいる寄生体が関係している。寄生体は10年間の寄生といっているので、この能力は10年間限定のものになる」と話し始める「それじゃあ俺達の孫は無理ってことか」と長男が聞く「現在の処はそうなる」、「ん?現在の処って」、「俺が寄生を受けた時、脳が沸騰したように感じ、寄生体も知らない魔素を見る能力を得た。今は分からないがそれ以外の能力もあるかも知れない」更に「お前達二人には、特別な能力の発現を狙った措置をした」とも話す。
「まだまだ驚くようなことが起きるだろうし、見落していることもあるだろうが話を戻すよ」と言って「俺の意図は、新たな姿で学問、就職、一般生活をすること。要は別人になる事だ」当然「そんな
ことできないよ。戸籍とかどうするのさ」と皆から疑問の声が上がる「そこでハッキング技術の勉強さ。戸籍システムを有効活用する」、「それって犯罪だよ」娘の声「そうだよ。でも誰にも損害を与えないし迷惑もかけない。存在表明が欲しいだけ」と冷静な俺「当然、個人番号など関連項目も埋めるし履歴も必要になる」
更に「今の世の中、力を持つ強者が皆が理不尽な事を言ってる、と思っても止められないだろう。政治家なんて、明らかに犯罪だろうと思われる事をやっても起訴もされない。戸籍の偽装なんてかわいいもんだ」皆呆れた顔をしているが止めろとは言わない。何れ自分達にも関わってくることを理解しているからだ。娘が「分った、私も存在証明について調べるよ」と言ってくれたので「ありがとう。漏れが無い様ダブルチェック出来るのは心強いよ」と感謝の気持ちを伝える。
娘が「それで、別人になれたとしてその後の計画は?」、「母さんと一緒にアメリカの大学を受け、短期間で卒業する」、「それはまたぶっ飛んだ計画ね~」呆れてはいるが無謀とは思っていない様だ。我々が、この能力のことで世界中からヘイトを集めても全て跳ね返す力を得るためには、人生をやり直す必要がある。
逆に世界に蔓延る強者の論理を叩き潰し、弱者でも努力すれば簡単に踏みつぶされない余地のある世界、少しは美味しい空気が吸える世界にしたい。そのための一手だ。「卒業後については、まだ話せないが今後1年間程で海外に行けるよう準備を整えるよ」