(挿話2)静がやらかしますⅡ
静は、新コロナが蔓延してから弁護士事務所へは車通勤をしている。何時も通り事務所に8時半に到着した。先輩で仲良しの坂内さゆりも出勤していた「おはようございます」挨拶をする「おはようございます」先輩から返事「あら静さん、お顔如何したのかしら」、「え?何か変ですか」、「惚けちゃって随分若々しいよね。メイク変えたの?」、「ホンの一寸だけですよ」、「そんな訳ないでしょ。ちょっとでそんなに変わる訳ないよ」流石女は変化に鋭いし突っ込んでくる「ホントですって。朝一の処理案件があるのでごめんなさい」急ぎ離れる「あぁ~誤魔化した」
仕事は切れ目なくある。この事務所は法人化されていて、所属弁護士6名、事務5名で仕事を回している。静は主に企業の破産手続きを担当し、裁判所への提出資料迄作成する。裁判を担当するのは弁護士だが、実際の裁判では弁護士に同席して補助をする。なので、弁護士を補助できるだけの知識が必要なのだ。先輩から逃げて席に座り、近々裁判となる破産案件の内容を確認し、どの様な資料が必要なのか確認する。その後静は脳強化の力を実感する。資料を広げた先から記憶・整理され、どんな資料が必要で関係する法令の条文迄理解できた。その案件は30分で処理の道筋ができた状態になった。後は弁護士と打ち合わせ確認を取ってから資料を作る。担当弁護士はまだ席にいない。
静は、強化された脳の力が気になったので、民法を読みだした。1条文が1分で理解し記憶・整理できた。民法は1050条だから1日8時間の勉強でも2日と少しで理解できてしまう。法令と条文詳解、ジュリストのバックナンバー読破を含めても1月位あれば弁護士と同等になれる。静は静かに興奮していた。やってみよう、法科大学院コースを途中まで進んだが、予備試験ルートであれば時間も掛からず司法試験に挑戦できる。(あっ、担当弁護士が席にいる)席を立って「おはようございます」挨拶すると挨拶が返って来る「次裁判となる破産案件の打合せは何時になりますか」、「そうだね。1時間後にしようか」、「分りました」席に戻り民法の読破を続ける。周りでは、静のページをめくる速さに驚くと共に何の条文を探しているのか気になった。
時間になり打ち合わせの為弁護士席に行く「じゃあ始めようか」弁護士が初めに裁判の日程を確認して来るので、それに答えてから、案件の概要・争点・対抗策とその資料、関係条文を説明する。弁護士はちょっと目を見張り「静さん、そこまでされちゃうと僕の立場無いよ。指示するものないよね」、「それは失礼しました。で、説明した内容でよろしいですか」、「あぁ、それでお願いします」、「じゃあ、資料作りに入りますので失礼します」静は席に戻り資料作りを始める。資料も1時間も掛からないで終わる。
弁護士は去っていく静の後姿を見つめ(彼女あんなに優秀だったかな?確かにベテランだし知識はあるけど同じ弁護士同士みたいな仕切りだよなあ~)どこか腑に落ちないと思うのだった。
昼休み、先輩と一緒に自分の席で食事をとる「今日打合せ随分早かったね」と聞いて来る「えぇ、前に経験した案件が参考になりましたから」、「でも何だか担当が驚いているような感じだったよ」、「そうだったかしら」、「また誤魔化した」、「そんなことないですよ」、「だって、そのお顔にあの仕事ぶり、何かあったよね」姦しい昼食。
静は(午後は、少し別な事、悪意察知の件を試してみよう)と考えた。静が嫌われていると感じているのは、ここで弁護士をしている男の娘で、静もその女の仕事ぶりを嫌っている。静はこっそりとその女を観察した。その女は、何時も男のお客には笑顔で対応し、自分と話す時は口元をひくつかせたり、眉がビクッと動くと感じていた。その日、観察する時は魔力を彼女に向けるイメージで観察を続けた。
静の変化は、1週間も過ぎると皆が感じるようになった。まず、仕事ぶりが変わった。担当する仕事は殆ど時間を掛けずに処理し、内容は弁護士が指示を出す必要がないもので、時間が空けば法令集を凄い速さでめくっている。事務所に多量に保管してあるジュリストも最新刊から読み始め、室内にあるバックナンバーは読み終わった様だ。ある日、静は新採からの上司である弁護士に呼ばれた「やあ、静さん突然呼び出してすみません。少し確認したい事があって来て頂きました」
この上司は、温厚で物腰の軟らかい人物である。静も大いに信頼している「はい、御用は何でしょうか」、「悪い事じゃあありません。まったく逆でお呼びしました。担当して貰っている事件に関係する弁護士から、君に指示する事項が全くないと言って来てね」、「それは、自分もかなり経験を踏みましたし、勉強も進んだからだと思います」、「そうだね。それはいいことだけど、その彼らが、君をまるで同じ弁護士を相手にしているようだと言っていてね」、「褒めて頂いて嬉しいです」、「君は法学院コースで勉強していたよね」、「はい。途中で制度が未整備とかあって止めてます」、「そうか、整備されてからは進めていないんだね」、「はい」、「再開しないのかな」、「はい、私は予備試験コースを取ろうと思って勉強してます」、「おぉ、そうか、そっちに進むのか」、「はい、少し頑張ってみようかと思ってます」、「分った。応援するから頑張ってください。そうすると今の仕事ぶりはその影響ってことかな」、「フフッ、先生それは自分では分かりません。ただ、自分の担当する仕事は、弁護士になって実践している気持ちで進めています」
「了解しました」静の話を聞いた上司は、弁護士だけの集まりの席で静の事を話した。弁護士達は応援する気持であったが、仕事で担当となる時は、気を引き締めないと弁護士として遅れを取ると心配した。弁護士が事務員に法律で後れを取るなど在ってはならないからだ。
それから1カ月半経った。この間、静は、週末ともなると実家に行き能力の獲得、習熟に勤めた。父には、私が顔も弄ったことが分かった様で渋い顔をしていたが、何も言わなかった。母という前例があったから言えないんだろう。両親は自分が毎週行くことでかなり喜んでくれたので、思わぬ親孝行になった。その結果、危険察知・気配察知(50m)・欺瞞・隠密・加速・体力強化を獲得した。また、父が母には必要ないと獲得させていない闇魔法も、自分は一人だから必要ということで、スリープ・パラライズ・幻覚(混乱)も獲得した。