やはり起きます騒動が
2日後、大学は大講堂に全教授と職員を集めた。このプレゼン結果生じる騒動を事前に知って貰う為の措置だった。俺達は、9時に会場入りしプロジェクターとパソコンの同調チェックや配布資料の準備を行い10時からプレゼン開始となった。物理学部門の2つの論文は俺が担当し、脳機能部門は女房が担当した。演題左には実証物も展示している。プレゼンは衝撃をもって受取られ、この論文に基づく実証物があること自体大きな驚きを齎した。そのため、如何に従来と懸け離れかつ新理論が盛込まれていても真偽を問う者はいない。また、大学が既に実証物を計測していることも報告された。
女房のプレゼンでは、本当に先祖返りが起こるのかどの様に刺激したのかなど質問があったが、我々は実験の有無も回答しなかった。刺激による先祖返りが論文の趣旨ではなく形態保管機能とその刺激による影響の考察である。まあ、刺激をすれば先祖返りはおろか進化の先にある形態も予測させる形が出て来るかも知れないが。単なる形態保管機能だけとは限らないからだ。
翌日の学生達に対するプレゼンでは、二人登場した瞬間鯨波というか空気の振動が起こった。我々を知らない人が大多数なので容姿に驚いたのだ。プレゼン後の質問では論文に無関係な質問をしようとした学生?が凄いブーイングを受けていた。会場に失笑が満ちる。学生達からは入学後短期間で、教授連でも驚くような論文を提出した才能に若干の嫉妬が生じた様子だが、それを上回る称賛の嵐であった。
そして最後、マスコミ発表後の狂乱振りは凄かった。取材申込みなど捌き切れたものではない。超高温超電導素材などは、産業だけでなく社会までも一変する可能性が有るのだから。俺としては、非接触状態における通電現象もレールガン製作に大きく貢献すると思っている。ジュール熱が発生しないことのメリットは一般素材使用や設備の簡素化に繋がるからだ。取材申込みについては、大学が取材を受ける相手の選別、日程調整等を行うことになった。俺は、マスコミ発表を終えたこの日、米国以外の主要国でも特許を取得するためPCT出願を行った。
翌日、新聞の一面から我々の論文に関する記事、ハイーバード大学に入学するまでの経歴、入ってからの学業成績などかなり詳細に報道されていた。丁寧に戸籍を作り関係者を探せないよう周到に準備したが、漏れはなかったかと心配する。一面の写真はハリウッドスターかと勘違いする人も出る様な写りだ。この写真だけで好意を持たれる。マスコミ発表時に会場入りした瞬間の喚声も凄かったから予想はつく。
日本で報道された瞬間、ルーツ探し知人探しが始まるだろう。小・中校時については手を入れていないので、家庭環境が最悪で学校に一度も行ってなかったことにするか。日本からの取材攻勢を考えると…。住所のある自宅に24時間警備員を配置し厳重に警備するよう管理会社に申入れる。いや、次男はセキュリティ関係に人脈があるので次男にやらせるか。
日本の8時に合わせて娘に連絡すると「もう凄いよ。朝からトップニュースで流れ続けているよ。まだ、身辺調査は届いていないけど、間違いなく最後の住所の筋から私達にも取材が来るね」、「申し訳ない。でもこれで分かったろうどんな影響がでるか」、「ちょっと影響が強すぎだと思うけど実感したわ」、「我々については、家庭環境が最悪で小・中校には一度も行かせて貰わなかった、と聞いていたことにしてくれ」、「了解、全部自主学習だね」、「そういうこと。全員に周知お願い。後、自宅警備強化を至急優也にやってもらう様連絡もお願い」、「了解」
ウォルタータウンの自宅警備についても手を打つ必要がある。実際には魔法で対処しているので問題はないのだが、視覚的には何の措置もしていない様に見える。この状況下では流石の産軍組織も活動を控えたようで手駒達からも連絡はない。結局、ウォルタータウンの自宅については、大学で手配をしてくれることになった。費用負担は我々になる。留守宅は次男が対応する事になり一安心。
この凪の時を使って、まだ獲得できていない記憶消去や改竄・洗脳のスキルと状態異常対抗スキルの毒と睡眠を獲得しよう。女房には、前の事件の反省を踏まえ武術を身に着けさせる心算だ。攻撃魔法も使い勝手が良いスタンを覚えて貰おう。早速「母さん、武術太極拳を覚えないか」と誘う「そうね。私もこの前怖かったから必要だと思ったわ」、「ほんとあの事は反省している。後スタンも使い勝手がいいし効果も大きいよ」、「じゃあ両方覚えるわ」どちらも俺が教授してやれるので覚えるのは難しくない。
俺が覚えようとしている、洗脳スキルは魅了状態にした時や命令した時のイメージを繰返すだけで獲得できた。やはり下地が出来ていた様で3日で獲得した。毒は青梅を齧ることで獲得した。睡眠抵抗は「母さん、俺に睡眠を強く掛けてくれ」とお願いし、その睡眠魔法に絶対眠らないと強く意識し、頭部に魔力を循環することで獲得した。何れも5日での獲得だ。問題は記憶消去や改竄スキルだ。俺のイメージは消去や改竄する範囲を選択・実行するものだが、どうも違うらしい。選択がないので(これ使ったら記憶喪失者がバンバン出来上がるよな)と思い怖くて使えない。ラノベの様に頭の中や空中にウィンドウが開き選択できるようになればいいのだが。これもイメージ化できるか?
我々の住む現代は、SFの題材によく出ていた電脳世界に近づいた世界で一旦コンピュータシステムに障害が発生したら通信や交通機関の予約、運航計画などの社会活動、口座振替、ATM利用、株取引などの経済活動など日常生活や経済活動に致命的な障害・損害が生じる。更には軍事に関係するコンピュータシステムに侵入し障害を与えることが出来たら、その国の軍事力を削ぐことも出来る。そこで、俺は、世界的規模でこのシステムの根幹を掌握するためハッキング魔法の習熟度を上げることにした。
インターネットを使い、様々なサーバーにアクセスしホストコンピューターへの侵入を行う。ホストコンピューターのセキュリティ対策を打ち破り侵入する訓練だ。個人商店から中小企業、公共機関、銀行、大企業のコンピューターシステムに侵入し習熟度を上げて、飛行機の離発着管理、鉄道の運行管理、発電所の発電管理のシステム侵入に進んだ。最後が国防機関、情報機関、軍事管理システムへの侵入だ。
様々な準備も進み、我々も攻勢を受けるだけでなくそろそろ米国の闇に対し鉄槌を下す準備をするか。女房を怖がらせた付けをしっかり払って貰おう。取っ掛かりとしては、軍需産業デストロン社だ。パトリックに連絡を付け開発部長の週間のスケジュールを手に入れる。パトリックへの連絡の際は認識阻害、隠密を使用して堂々と社内に潜入した。パトリックは5階に勤務している。利用者のいないエレベーターで上がる。認識阻害に監視カメラに映らないイメージを追加した処、光学迷彩能力も追加された様だ。魔法って機械も騙せるのか?事務室内に一人でいるパトリックに近付き声を掛ける。「パトリック、ケイだ。打ち合わせの出来る部屋に案内しろ」彼は吃驚していたが直ぐに案内する。
パトリックが案内した小会議室に入り魔法を解く「開発部長の週間のスケジュールを手に入れ、明日の朝7時に大学の駐車場に情報を持参してくれ」と命令する「分りました」と直ぐに返事が来る。彼の状態を鑑定すると魅了になっているが、洗脳スキルを獲得したので試してみる。鑑定してみると、状態には魅了とだけ表示され失敗した。これは、洗脳スキルの習熟度が低いためなのか、理由は不明だ。
翌朝、命令通りやって来たパトリックから情報を受け取る。開発部長はジョン・ラティといい、ほぼ毎日9時出社18時に退社する。帰りに頼まれた買物をするようだ。出張は週に1度あるが、今週は我々への作戦が失敗したため、再度行動するか状況を見極めるまで待機になるそうだ。最後に開発部長の特徴を聞き分れる。一旦自宅に帰る。今日は1週間ぶりに大学に行く。論文発表の混乱を避けるため通学を止めていたのだ。