初めてのトラブル体験
先に、悪意察知に反応の有ったコッヘル・ガードナー教授の悪意が更に上がり、危険察知まで反応している。こいつには、それ相応の対応をしてやろう遠慮は一切しない。教授会メンバーの面談は、俺からの想定外の申出に今日は中断となった。なお、脳に関する論文については、物理学部門と切り離して面談することになり、物理部門の実証が終わり次第開催することになった。
我々の論文提出については、学生には知らされていない様である。通常、提出者、論文の主旨等は開示されているのだが、どこかの手が入ったのだろう。面談は11時過ぎに終ったので学内で食事をとる。学内でありこの時間であるので、特に動きはないであろうと思っていたが違った。学生パートナーを装った三組の男女が遠くから監視している。相手は数と対応速度から軍属か。何れにしても問題ない。
注意して帰宅したが問題なかった。監視だけに留め今夜動くんだろうな。敷地防衛の為に設置した全周を監視する暗視カメラを起動しておく。暗視カメラは女房が獲得した錬金術で、普通の赤外線監視カメラを赤外線照射なしで機能するよう魔改造したものだ。また、記録時間もデータを超圧縮する魔改造で、超高精細画像でも3000時間を誇る。
建物には反射を掛ける。不法侵入で建物を棄損したら悔しいからね。これで建物を棄損したら相手の処に殴り込む。一切我慢しない。夕方5時には危険察知、気配察知も使う。察知範囲は周囲300mまで可能。並列思考というか多重思考というか、このスキルは兎角便利だ。今までで一番活躍している。女房は4分割である。
深夜1時、気配察知と危険察知に反応があり目が覚める。人数は6人だ。多分監視していた奴らだろう。急速に接近し塀に張り付く。カメラが動いているが気付かない様子。魔法で位置が分かるのでカメラ画像を見る必要がない。起きて来た女房に「行って来る」、「気を付けて」、「心配ない、赤ちゃんを相手してのと同じだ」俺は、準備したガムテープと特殊警棒を持ち、認識阻害、隠密を使いながら建物に近い順から侵入者を無力化する。侵入者は黒い目出し帽を付け、傍にいる俺に気づくことなく建物に近付く。(スタン)と脳内で唱えると声も上げず倒れる。スタンで4~5時間は起きないだろうが、素早く口手足をガムテープで巻き無力化する。一人なので忙しいから身体検査は後回し。
魔法の無敵感に浸る。特殊警棒いらない子、僅か5分ほどで全員捕獲完了。身体能力が向上しているので二人~三人ずつ抱え帰館。女房が魔法とカメラで監視していた「早かったね」、「だからいったろ。赤ちゃん相手だって」俺は建物への反射以外の魔法は解く。これからが大事な作業だ。昏睡状態の敵さんの口のテープだけ剝がし、口に毒薬など物騒な物を仕込んでないかチェックする。当然鑑定使いながらの作業だ。これも経験値となり状態に表示されることを期待する。
口内が終わったら身体検査だ。女は女房がする。俺にやらせてくれない。物騒な物は、麻酔薬のしみ込んだコットンとベレッタ。男は脛にアーミーナイフが括り付けてあった。これが鑑定で分かる様になれば楽だ。
一人ずつ弱いスタンを掛け起こして尋問する。思考を読みながら「お前の氏名・所属・命令をした者の氏名と目的を言え」当然、俺を殺す目で睨むだけで答えないが、質問の答えを知る。その内容を睨んでいる相手に聞かせると、目が飛び出るんじゃないかと心配する程驚く。後で強力な手札にするので、その様子を全てカメラで記録している。その尋問の様子を見ていた奴等は、抵抗しても無駄と思ったのか素直に話す。
予想通り侵入者は軍属で、整備担当など後方支援が本務。道理で諦めよく話す訳だ。今回は、コッヘル・ガードナー教授から整備部隊長への依頼で彼らに命令が下った。命令の内容は、論文の詳細部分、特許案件として提出した資料と実証物の奪取で、要求に従わなければ拉致まで含まれていた。この6人の中で最高ランクは兵曹長で名前はチャールズ・エリオットで整備班長をしている。6人はこの班員だ。軍属達はボストン郊外のジョルジュ島に勤務している。
聞きたいことは聞いたので、一人ずつ別室に運び闇魔法の幻覚と魅了を使い手駒にする。魅了は、幻覚を見せ混乱させた後に使うと強い効果を発揮する。鑑定で魅了状態であることを確認し「基地に帰ったら今日の命令者に単に侵入失敗と報告せよ」と命令し、更に「今後は、我々に対する動きを探り報告すること。報告はここ宛にメール便で【資料ができたので別便で送る】旨送付する。俺が直接受取りに行くが、俺が見つかることは絶対ない」また「我々の秘密情報の漏洩を禁止する」と命令した。
全員解放して就寝する。女房に「再度侵入はないと思うけど危険察知だけ使っておくよ」と安心させる。翌朝、何時もどおり爽快な気分で起きた。寧ろ思った通りの展開と想定した通りの結果になり気分がいい。バイオレンス小説やファンタジー小説によくある筋書だったなあと思うが、実際に起きたことを題材にしているのかも知れない。
まあ、こちらは反則的なスキルで固めているので、非常識な物量で押されなければ対処に問題はない。最悪欺瞞などを使って逃げ出すさ。今回のトラブルで知ったのは、麻痺薬への対応不備だ。状態異常対応スキルは獲得していないので注意が必要だ。さて、今度はどう出るかな。今夜、CIAの黒組など侵入者レベルを上げて再訪してくるか?明日は実証物を持込むので今夜が勝負だろう。
今夜も失敗したら次は搦め手かな、いわれなき誹謗中傷もあるな。それに弱った処で味方面して接近し取込む。迂遠であるが常套手段だ。効果の高い反撃は何時何処ですればいいのかな?過去の俺って、将棋でも直情強引だから攻撃が続かず息切れして負けたんだよなあ(今日は、自分に弱いスタンを掛け、麻痺の状態異常対策スキルを獲得するか)酒のアルコールは毒判定にならないか。麻痺と毒、睡眠耐性は必要と思う。
来ました。気持ち、来ない方に6割ほど傾いていたのに来ましたよ。前夜より早い10時に襲来した。油断を誘ったか、侵入者のレベルを上げて来たのか。当方は、前夜と同じ様に魔法で固め接近を待つ。今夜は4人、侵入者のレベルを上げたのか。昨夜同様、接近して来る奴にスタンを使おうとしたら一瞬動きを止めた(おっと、勘が働いたのかな)侵入者のレベルを上げて来たようだ。
(サーマルビジョンを使用していないので感知されず良かった。やはり油断できないな)一人反省する。たかが学生にサーマルビジョンを使う必要があるとは、考えなかったのだろう。そいつは一瞬止まったものの、その後何事もなく接近してきたのでスタンを使う。次々倒し完了した。昨夜と同じ尋問経過を辿ったが、侵入者は軍属でも元特殊部隊員だった。4人の中で最高ランクは、上級兵曹長で名前はローレン・ガードナーで特殊整備班長である。
こ奴らは、更に優秀な手駒となる。ただ、手駒にするため多くの時間を必要とした。「特殊部隊員は、鍛え方が違うのか中々魅了状態にならないな」と女房に話す「訓練で精神も鍛えているってことなの」、「いや、実戦で神経が図太くなったんじゃあないかな」と根拠のない話をする。彼等には、弱いスリープと強い幻覚を使い朦朧状態にしてから魅了を使った。前回同様、単純に失敗報告と我々の秘密情報の漏洩禁止を命令した。彼等もジョルジュ島に勤務している。
今夜、失敗報告をさせた場合どんな反応をするか。たかが学生とは思わないだろうが、では何か。スパイにしては論文提出など目立つことをしている。相手は、侵入が失敗したからといって、正面切って来ることができない。では、次の手はいわれなき誹謗中傷か?非公式な接触が最適解か。今日の収穫は、魔法が万能とは限らないと気付かされたこと。サーマルビジョン対応は、幻覚か欺瞞を追加する事にする。