うおおおおお、我がクラスに女神が舞い降りたあああああ
新学期恒例の始業式、もとい全校集会という名の校長のクソ長いお喋りを終え、教室に戻ってきた我々、生徒御一行。特に休む間もなく、ガラガラと乱暴にドアを開け、先生が教室に入ってきた。
「はーい、静かにしろー。二年C組の担任になった斑鳩真尋だ。一年間よろしくなー」
ビシッと、着こなしたスーツはしっかりと凹凸が表れており、タイトスカートから出る足は黒のタイツに覆われているが、およそ女性らしくない態度や話し方、そして黒板を目一杯使って自身の名前をデカデカと書いていく。
「よーし、進級早々サボってる奴はいないなー? それともうひとつ、そこの席空いてるだろ? そこ、欠席じゃなくて転校生なんだわ」
さらっと告げられた情報に、ワンテンポ遅れてみんなが各々リアクションを取り、一瞬でお祭り状態になる。
「男子、女子どっちかな?」
「どこから来たんだろう?」
俺は優希ちゃんと同じクラスになれたから、最早何も必要としていないので、まじで興味がない。どうせ、向こうも俺には寄ってこんやろうし関わる予定もない。ちなみに左隣の海斗は机に突っ伏して爆睡している。
「はーい、静かになるまで紹介せんからなー」
収まりそうにない生徒たちを制するように、先生は手を数回叩いた。
「よし、じゃあ入っていいぞ」
先生のコールと共にドアがゆっくりと開かれ、その正体が現れた。
男どもはゴクリと喉を鳴らして唾を飲み、女たちはざわざわとしていた。
そして、俺はというと。
「なん……だと……」
目が逸らせなかった。視線を外そうにも、まるで磁石のようにその転校生に吸い寄せられてしまう。モチロン好意の視線ではない、驚愕だ。
何故なら、この転校生とは昨日、二十四時間以内に会っているのだから。
「はじめまして、今日からこの教室で皆さんとご一緒させていただく王寺遥と申します。中途半端なタイミングでの転校に戸惑いもありますが、皆さん仲良くしていただけると嬉しいです」
「「「うおおおおお、我がクラスに女神が舞い降りたあああああ」」」
怒号の如く男たちのテンションが爆発する。
「うっそ、顔ちっさ!」
「色白でお人形さんみたいなんですけど!」
「ねえ、ねえ! 今恋人いる? 好きなタイプは?」
最早、収拾が付かず、各々が感想や質問を浴びせかける。聖徳太子じゃなきゃ全く聞き取れんやろ。
それにしても人違いやったか。
よくよく見れば、メガネは掛けているし髪型だって昨日とは違って、真っすぐに下ろされている。それに名字が一目瞭然。
そんなラノベの主人公みたいな展開が早々あってたまるかよ。ふぅ……焦ったぜ。
「みんな、ちゃんと仲良くしてやれよー。王寺の席はあの赤い髪の男の左後ろな」
「は……い」
先生が席を指さした時に、一瞬王寺と目が合ってしまい、彼女の目が驚きの色に変わったのを見逃さなかった。
「どうした?」
「あ、いえ……なんでもないです」
おい、嘘だよな? 今のあの反応……やっぱりアレは飛鳥遥なのか?
冷静に考えると、メガネや髪型だけで別人とは断定できないし、名字だって芸名なんて可能性は芸能界だと珍しくないはずだ、知らんけど。
疑心が沸々と確信へと迫ってくる。
指定された席に向かって歩いてくる王寺、それを視線だけで追っていると、声こそ出さなかったが、口パクでこう告げてきた。
「はじめまして」
目の前に映る笑顔は、昨日見た目が笑っていない営業スマイルそのものだった。そこでほぼ確信してしまった。
本物だ。
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