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やだ、赤髪くん大胆な告白ですね。照れちゃいますよ

「CM開けまーす! 三、二、……」


 音響スタッフのカウントと共に再び収録中のライトが点灯し始める。

 それを確認し、ひと呼吸置く。


「はい、ではまず一つ目に『マネージャーに任せなさい!』ですね」

「ほうほう、それはどんなコーナーですか?」


 飛鳥さんが頷きながら相槌を入れてくれる、ほんまにありがてぇ。


「作中の野球部には頼れるマネージャーがいるのはご存じですかね? それに掛けまして、悩みを持つリスナーさんの手助けをしようというものです。モチロン恋愛相談もありみたいです」


 まぁ、恋愛なんてしたことないから俺は無理やけど。飛鳥さんはどうなんやろ?


「初回ということで、今回はスタッフさんからお便りを頂いていますので私が読みますね。えーと、なになに? 声優の飛鳥遥さんにガチ恋しちゃいました。どうすればいいでしょうか?」

「おい、スタッフどさくさに紛れて何書いてんですか!」


 ヤバ、咄嗟にツッコミを入れてしまった。いや、これは許せんでしょ。


「これは……東京都にお住いの赤髪くんからのお便りですね」


 …………ん? 気のせいか俺の名前呼ばれた気がするな……。難聴系主人公になってしまったか?

 対する飛鳥さんは今にも吹き出しそうになりながら、口元を手で押さえてクスクスと笑っている。

 アンタ、さてはドSやろ?


「やだ、赤髪くん大胆な告白ですね。照れちゃいますよ」

「うおおおおおぉぉぉぉぉい! お便りでっち上げないでくださいよ! これ全国の電波に乗る予定なんでしょ? 飛鳥さんのファンたちから炎上待ったなしじゃないっすか!」


 ん? 一瞬飛鳥さんニヤついたか?


「え、赤髪くん私のこと嫌いなんですか? 酷い! 私の純情弄んだのね」


 目の前の飛鳥さんは、おもむろに瞳をウルウルさせて甘ったるい声で囁きかけてくる。

 もはや悪魔だわ。


「あ、いや……好きですよ。ファンとして! ちょー大好き。ファンとしてな!」

「今、必要以上にファンを強調したでしょ」

「嘘偽りのない本当のことをリスナーには届けんとダメですからねぇ! それより本当のお便りはどんなんですか?」


 このままじゃ埒が明かん。無理やり舵切らせてもらうで。


「……。赤髪くんには、はぐらかされてしまったので次のお便り読ませていただきます。休日はどのようにして過ごしていますか? うわぁ、ありきたりですね……もうちょっと捻ったのを期待してました」

「飛鳥さん、心の声漏れてますよ。せっかく書いてくれたんだから答えてあげましょうよ。ほら、リスナーもきっと飛鳥さんの休日気になりますよ」

「うーん。私に休日はないですね。今一番欲しいのは休日です」

「元も子もないこと言わないでくださいよ!」


 話広がらんやろ!


「だって事実なんですもん。あ、でも明日だけは一日オフでした。実に十六年ぶり!」

「生まれてから年中無休!? 何するんですか?」

「普通に学校行くだけですよ、それ以外特に何も。あー、もしかして声優に夢見ちゃってます? 幻想ですよ幻想」


 アハハハハ! と、愉快に高笑いしている。


「仮にも最前線で活躍するアイドル声優でしょうが! ま、別にいいっすけど……」

「それより赤髪くんはどうなんですか?」

「それより!?」

「うん」

「俺ですか? うーん。バイトと家事……あとはたまにバイク乗ってるくらいっすかね」

「まさかの主婦さん!? いかつい格好して意外ですね~。あ、まさかギャップ萌え狙いですか?」

「そんな需要どこにもないでしょ」

「それもそうですよねー」


 あれ? 一瞬殺意湧いたかもしれん。

 アイコンタクトで飛鳥さんとスタッフが意思疎通を図ると、飛鳥さんはにこりと笑いオッケーサインを手で作り台本に目を落とした。


「そして、二つ目はやはり野球といえばチームプレーが大事ですよね? ということでリスナーさんから頂いたお題に対して、私と赤髪くんが答えを揃えようというコーナーです。そうですね~、例えばラーメンの味といえば? みたいな感じですね。ちなみに赤髪くんは何ですか? いっせーので、で答えてみますか?」


 シンキングタイムのための一瞬の沈黙。お互い答えを決めたことを確認し、同時に発声させる。


「「いっせーので! 豚骨!」」


 お、まじか。


「わー! すごいすごい! 私たち息ぴったりですね! もしかして私の好み知ってました?」

「いえ、ただ自分の好きなの言っただけです。寧ろ飛鳥さんが豚骨ってなんか意外です」

「そうですか? あの身体にあまり良くない感じのスープを飲むのがとっても好きなんですよね。お腹にずっしり来る感じと、あの背徳感? ですか? いいですよね。あ、カロリーのことは禁句ですよ?」


 人差し指を口元に当て、パチンとウインクする飛鳥さん。なにこれ? なんかの試練か?


「あはは……」

「と、まぁ今回は簡単な問題でしたけど、こんな風に相方との答えを頑張って一致させようというコーナーでした。では、最後は赤髪くんに任せた」

「最後のコーナーはラジオではド定番、所謂ふつおたというやつですね」

「定番中の定番ですね。もしかしてコーナーのネタ尽きちゃいました? なんて冗談は置いておいて」


 冗談に聞こえんかったけどな。ちょいちょいビビるくらい的確なとこ突いてくるな。


「以上三つのコーナーを中心にこれからお送りさせていただきますので、皆さん! ぜひ! 清き一票をお願いします。読ませていただいた方には素敵なプレゼントも用意していますよ。お? 最後にもう一通お便りですか? どれどれ、『青春ナイン』といえば野球を中心とした作品ですが、お二方は何かスポーツなどはやっていますか? だそうです。パッと見、運動神経良さそうなイメージありますけど、赤髪くんどうですか?」

「あー……えっと、小六までは野球をやってましたけど今は特に何も……飛鳥さんはどうですか?」

「うーん、私も特には……色々と興味はあるのですが、有難いことに毎日お仕事が忙しくて……強いて言うならダンスですかね」

「何度か見たことあるけど飛鳥さんのダンスってすげーキレッキレですよね」

「そんな、まだまだですよ私なんて。でもありがとうございます。って! 赤髪くん野球経験者ならこの話掘り下げない訳ないでしょ! ポジションどこでしたか?」

「あー、歴は三年ほどですけど捕手、キャッチャーでした」

「おっ! てことは主人公の霧矢青大(きりやはると)くんと同じですね! どうですか? 何か共感するところとかあったりするのでしょうか?」

「同じと言っても俺は霧矢青大みたいに上手かった訳でもないし……」

「ちょいちょいちょいちょい、それだと話が広がらないじゃないですか!」


 ぶぅー、とわざとらしく頬を膨らませてくる。ほんまにコロッコロ表情変わんなぁ。


「って言ってもなぁ……」


 ヤバ、まじで思いつかん。


「なにか、こう……ありません? 名門校で不動のイケメン正捕手とか、弱気な投手を引っ張ってすぐ怒る一年生捕手とか。そういうなにかウリになるような」

「その二人どっかで聞いたことのあるような設定のキャッチャーっすね……強いて言うなら喧嘩なら負けんことですかね? あ、いや今のナシ」


 喧嘩は流石にマズったか……。

 あれ? 逆に目キラキラしてらぁ。


「お、不良集団が熱血教師と出会って更生するアレですね! 夢にときめけ! 明日に──」

「ちょっと待てえええええ! それ以上はあかん」


 ビビったあああ。いきなり名言ぶっこんできやがった。


「……。飛鳥さんって結構詳しいんですね」

「ふふん、こう見えても声優ですから」

「いや、どう見ても声優だよ!」

「私、こういう一つの目標に向かって一丸になる青春系好きなんですよね、主に部活系が顕著に表れますよね」

「じゃあ、この『青春ナイン』は結構ド真ん中じゃないんですか?」

「そうなんですよ! それにちゃっかり会話の合間に『青春ナイン』の見どころも入れるなんて、赤髪くんも成長しましたね。百回の練習より一回の実践が人を何倍にも強くしてくれますね。お姉さんは嬉しいです」


 首を傾け、微笑む飛鳥さんの姿に悪い気はしなかった。


「はい、そして最後は告知コーナーですね。原作の『青春ナイン』は、現在十二巻まで発売中でーす! 皆さん、是非お手に取ってください。以上」

「え、それだけ?」

「はい、まだ第一回目なので特にはないです、ちゃんと台本みてくださいよー」

「あ、ホントっすね」


 最後の締め雑すぎやろ。


「さてさて、ここまでお送りして来ましたが、そろそろエンディングの時間になってしまったようですね。初のパーソナリティということで如何でしたか? 赤髪くん」

「長いようであっという間だった気がします。正直何喋ってたかあんまり覚えてないっすね……」

「フフッ、なかなか難しいですよね。ラジオの収録中は音でしか皆さんに伝わらないので、ずっとテンション高くないといけないですし、なによりも面白くないといけませんから。でも裏を返せば、面白ければ何をやってもいいんですよ」

「参考にさせてもらいます」

「それともう一つ、実はホントに怖いのは終わってからなんですよ?」

「え、なんすか? 脅さないでくださいよ」

「ネットってすごいんですよ、感想とか評判がダイレクトアタックしてきますからね。ライフで受けることになっちゃいます」

「なるほど」


 ヤバ、急に嫌な汗出てきたわ。


「特に炎上とか炎上とか……豆腐メンタルには辛いです」

「さっき誰かさんに炎上の種蒔かれましたけどね!」

「わ、ひどーい! そんな人がいるんですか?」

「アンタだよ!」


 あ、また一瞬ニヤついた。


「赤髪くんもなかなか切れのあるツッコミが出来てきましたね、良いですよ。よし! じゃあ最後に、未来ある若者に意気込みを聞かせてもらおうじゃないか!」

「素人が何言ってんだって感じですが、声だけで伝えるという難しさを改めて痛感しました。次回はもっと堂々とやれるように心がけます」

「何事も経験が大事ですからね。私は赤髪くんとこうやって収録出来て楽しかったですよ」


 ……。え、何この不意打ち、ズルいやろ。そういうとこやぞ。

「あれ? どうしました?」

「あ、いやなんでも……」


 一瞬の頬の緩みを見逃さず、飛鳥さんはニヤニヤと顔をのぞかせ、愉快そうにしている。


「もしかして~、今ので惚れちゃいました? でも私にガチ恋してもダメですよ? 私はみんなの飛鳥遥ですから。はい、ということで楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうのが、非常なる現実です。さて、名残惜しいですが、あなたと共に青春を、『青春ナイン~目指せ! 遥か彼方へ~』の提供。パーソナリティは、私飛鳥遥と」

「赤髪がお送りしました」

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