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なん……だと……

 仰々しく後悔交じりにため息を吐くと、ガチャンと扉が開いて静寂を破った。

 俺はその扉から姿を現した人物を視界に入れた瞬間固まってしまった。


「なん……だと……」


 自分の目を疑った。

 こんな話一言も聞いていない。決めた! 後でおっちゃんを問い詰めるとしよう。

 なんで、一般人の俺の目の前に、アイドル声優として最前線で活躍している飛鳥遥さんが降臨しているのか。

え、ヤバ……。ホンモノ? マジモン?

 Vネックの白いブラウスは鎖骨ラインを綺麗に見せ、袖口の広がった透け感のあるデザイン。白の四連ボタンがアクセントのタイトな膝下丈の黒のデニムスカートはウエストラインが高く見え、スタイルをより一層際立たせており、女の子らしい印象を与える。


「はじめまして、今回『青春ナイン』のヒロイン、水無月春菜(みなづきはるな)役を務めさせていただきます飛鳥遥です。よろしくお願いします」

 

 ふわりと香る甘いにおい。まるで、目の前に色とりどりの花束を突き付けられた感覚……いや、その辺の花とは比べ物にならないその容姿と声。

 緩やかにウェーブがかった長い黒髪は、高い位置で一つに纏められている。彼女が何かしらの動作をする度に、連動するようにそのポニーテールが揺れる。


「え、えっとはじめまして、高田彼方です。えー、あー。えっと話は聞いていると思いますが、叔父の高田先生の代役でパーソナリティを務めることになりました。よろしくお願いします」


 緊張しすぎわろた。


「マネージャーから話は伺っております。今回は初回なのであまり気負わず肩の力抜いて行きましょう。私もなるべくフォロー出来るように努めてまいりますので」


 飛鳥遥さんのクリクリとした大きな瞳に柄にもなく怖気づいてしまう。ホンマに俺と同い年なのかさえ疑ってしまうほどには人としてのつくりが、経験値が圧倒的に違うと感じさせられた。


「ありがとうございます。まさかあの飛鳥遥さんとラジオ出来るとは聞かされてなかったので驚いてます」

「私も高田先生の代役と聞いてどんな方なのか気になっていましたが、まさか親戚の方だったとは……失礼ですが今おいくつですか?」

「十六、明日から高二です」

「え! では私と同じですね! ちょっと安心しました」


 そう言って飛鳥遥さんは大げさに胸をホッと撫でおろしながら向かい合うように座った。

 なんか普通に喋れているな……いや、気のせいか。

 それにしたってオーラあるな、そりゃ人気声優だから当然かもしれんが。


「台本の方には目を通されましたか?」

「えぇ、まあ一応は」

「そうですか。じゃあ私も今から目を通しますので簡単な打ち合わせをしながらチェックしていきましょうか」

「ぜひ、助かります」


 部屋の時計を見ると収録時間まであと三十分を切っていた。


 ◇


 おっちゃんの影響もあってか、俺は割とオタクだ。見かけや言動と合わない? うっせえ! 人を見かけで判断すんな!

 おっちゃんの初めて売れた漫画『青春ナイン』は、大体三年前にこの世に誕生した。まだ中学生だった俺は、金の欲しさにおっちゃんに頼み込んで、漫画の簡単な手伝いや身の回りの管理のバイトをさせてもらっていた。

 そうやって必然と、今まで縁の無かった漫画やラノベ、アニメの知識は増えていった。

 それから数ヶ月、色々な作品を漁っている時に、この飛鳥遥さんという声優を知り、気づけば所謂彼女のファンとなっていたのだ。

 演技が上手いとか声が良いというのもモチロン前提にはあるが、俺が惹かれたのはそういうのではなかった。

 俺と同い年。これだった。同じ年に生まれたはずなのに彼女は既にスターになっていた。それが凄くて尊敬と嫉妬を同時に見出した。

 そんな俺が尊敬する人ランキング第二位の飛鳥遥さんが、凡人である俺の前に座っていることには違和感だらけだ。


「さて、こんなところですかね」


 チェックを終え、飛鳥遥さんはパタンと台本を閉じて大きく伸びをする。


「そうですね、ありがとうございます飛鳥遥さん」

「いえいえ、それとフルネームだと呼びにくくないですか? 同い年ですからあまり気を遣わなくても大丈夫ですよ?」

「じ、じゃあ飛鳥さんで……」

「はい。それじゃ本番までもう時間ありませんがよろしくお願いします。高田くん」

「こちらこそよろしくお願いします」

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