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あ! 今チビって言った! チビって言う方がチビなんですぅー!

「ブホッ!」

「ゴホッ!」

「グハッ!」

「ったく、寄って集ってナンパなんてしょーもないことすんなよ」


 両手をパサパサと叩いて土埃を落としながら、目の前に転がる三人を見下ろす。

 ホンマにしょーもないな。路地裏でコソコソと、漫画のテンプレかよ。

 俺の名前は高田彼方。職業、普通の高校生。春休み最終日に愛用のバイクを転がしていたら、偶然この現場に遭遇してしまった。


「よぉ、大丈夫か?」

「あ、ありがとうございました」


 鞄を抱えたままうずくまる女はビクつくように怯えながら礼を言ってきた。


「おぉ、気にすんな。あんな奴ら朝飯前やわ」

「お兄さんすごいですね! 大きな人を三人相手に軽々と。えっと、助けてもらって失礼ですけどヤンキー……とかですか?」


 俺を下から上へと見定めるように眺め、そんな質問をしてきた。

 まぁ、無理もない、言いたいことは分かるけどホンマに失礼やな!


「あー、この髪のことか?」


 ワックスで雑にセットした髪をボサボサと搔き乱しながらそう言うと、女はコクコクと頷いた。


「生まれつき、地毛だよ。あー、ちなみにハーフとかでもねえからな? 純日本人」


 好きでこんな風に生まれた訳ではない。親の遺伝にはどうやっても抗えねえんだよ。

 鋭く尖った切れ長な目つき、そして何より極めつけなのは髪色が深紅のように燃え上がる赤色ということ。

 これのせいでいちいち絡まれてしまう始末だ。モテモテだ、悪い意味でな。

 じゃあ、黒に染めろって? アホか! それはなんか負けた気がするやろ! チッ……ただのしょーもないプライドだよ、こればっかりわな。


「おや~? このバイク洗車が必要なのでは? ほら、ここにガムが引っ付いていますよ~? 今ならなんと一万円で俺らが丁寧に洗ってあげまーす!」


 そう、こんな風に……。日常茶飯事だ。主にこういうウザい奴らからは引っ張りだこ……!?

 声のする方へ振り向くと、端に停めていた愛用のバイクがチンピラ三人に囲まれていた。


「うわあああああああ! 何してくれてんねん! 俺の愛車に勝手に触んじゃねえええ!」

「チョーシに乗ってるからだよ! チビのクセにその派手な髪、イキってんのか?」

「あ! 今チビって言った! チビって言う方がチビなんですぅー! 俺は絶賛成長途中なんじゃ」


 俺は、地を勢いよく蹴ってチンピラ共へと飛び出し、距離を詰めていた。

 決してコンプレックスである身長をからかわれた訳ではない。決してな。


「これは地毛やって言っとるやろが!」

「ゲフッ」


 渾身の右ストレートが男の腹を捩じ込んでいく。

 ハンッ、ざまあみろ! 俺の相棒に手を出した罪は重いぞ。


「ヤロー、タダじゃおかねえぞ!」

「挟み撃ちだ!」


 両サイドから飛んでくる拳を両手でガッチリ受け止め、互いの体をぶつけ合った。

 その衝撃でふらつく二人の腹に掌底を打ち込むと、白目を剥けたまま仰向けにバタンッと倒れた。


「いちいちちょっかい出してくんなよ……あぁ、俺の相棒がガムでベトベトに」


 跪いて涙目になりながら、相棒のバイクに吐き捨てられたガムを手で剥がす。汚ねぇ……!


「あの、よかったらこれ使ってください」

「いいのか? おまえ優しいんだな」


 後ろで事を見守っていた女からウェットティッシュを受け取った。


「いや、ただのウェットティッシュですけどね。それにこんな見ず知らずの私を助けてくれたお礼です。と言っても全然見合ってませんけど」

「何言ってんねん、困ってるやつを助けるのに理由も上も下もあるかよ! って、これは受け売りなんやけどな」


 好きな言葉やけどこうやって実際口にすると恥ずいな。もう二度と言わんとこ。


「その人、すごく優しい方なんですね」

「せやな、まじで」

「私そろそろ行かないと……助けてもらってすみません」

「気にすんな。それと、そういう時はすみませんじゃなくてありがとうな」

「はい、ありがとうございました。それでは!」


 さてと、コイツ等が起きる前に俺も帰って春休み最後の日を満喫しますかね。

 トゥルルルルル。

 今度はなんやねん。

 大きく伸びをしてバイクに跨ったところで、スマホの着信がポケットの中から響きだした。


『もしもし』

「どうしたん? おっちゃん」

『おー、よかった繋がった。今空いてるか?』

「構わんけど、なんかあったんか? てか、声どしたん? スカスカやん」


 電話の向こうで少し焦ったような声に内心ドキリとする。


『あー、そんな大事ではないんだが……いや、俺にとっては一大事か。ちょっと彼方に助けてもらいたい事があってな。悪いけど今から言う住所まで来てくれないか?』

「あいよ、今から向かうわ」


 この電話をきっかけに、俺の人生は大きく左右されることになるとはまだ思ってもいなかった。

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