プロローグ
人生とはいつも唐突だ。
そう、これが金に釣られてしまった俺の末路である。まさに自業自得というやつ。
「あー、あー、チェックチェック、マイクのテスト中……感度良好。こちら異常なしです」
机を挟んで、俺が座る向こう側ではスタッフが、見たことない高そうなスタンドマイクをコツコツと叩きながら調子を確かめていた。その動作をまるで他人事かのようにボケーッとアホ面をかましながら眺める。
「そちらのマイクは大丈夫ですか?」
「ん、あぁ……大丈夫……なんか?」
正面のスタッフに倣い、同じように目のマイクをコツコツと叩いて様子を確かめ、疑問形でガラス張りの向こう側にいる大人たちへと視線を向けた。すると両腕を頭の上で大きな丸を作り返してきた。
「問題ないみたいですね、それでは私はこれで退散しますので、あとは音響スタッフさんの合図があるまで少し待機していて下さい」
スタッフはにこりと微笑み、そのまま部屋を後にした。
なぜか無暗に音を出してはいけない気がして、俺一人が取り残されたこの部屋は、文字通り沈黙に支配されていた。
目の前の机には台本が置かれている。対面にも同じ台本があることから、後からもう一人ここにやってくるというのは、自明ではあるが誰が来るかは分からん。てか、二人でやるなんて聞いとらん。ガバガバかよ。
いや、冷静に考えると二人の方が良かったか。俺一人ならいくら生放送じゃなくても放送事故待ったなしやったわ。
そんなことを思いながら仰々しく後悔交じりにため息を吐くと、ガチャンとドアが開き、静寂を破った。
俺はそのドアから姿を現した人物を視界に入れた瞬間固まってしまった。
「なん……だと……」
これが鳩が豆鉄砲を食ったような顔ってやつか。いや、自分の顔見えとらんから知らんけど。
なんで、一般人の俺の目の前に、アイドル声優として最前線で活躍している飛鳥遥が降臨しているのか。
事実は小説より奇なり。とはよく言ったもんだ。
今の状況を誰かに説明したところで、傍から聞いている側は、冗談だと思ったり妄想だと一蹴するだろうな。
実際俺でもそんな話されたら鼻で笑うのがせいぜいオチやわ。
一般人で高校生の俺、高田彼方がなんでここにいるのか、なんで目の前に超人気声優がいるのかを説明するには、一時間前くらいに話を遡らせることになる。
この作品が良いと思ったら評価、ブックマーク、感想やレビューをしていただけると励みになります。
本日は17時と18時に1話ずつ更新します