開戦の兆し②
島田から指示を受けた3部隊は出撃待機していたCr-2から各種装備をおろし、必要な物のみを背負ってトーキョー本部と第二防衛基地を繋ぐ高速貨物に乗っていた。
貨物なだけあって車内はかなり狭く、特に装備を隣に置いているためか息苦しい。
空と颯太は特殊スーツを解除して背もたれというコンテナにもたれかかっていた。
「なんで急にトーキョーに戻んなくちゃいけねぇんだよ……。やるき削がれたわ」
空はもたれかかったまま、呟くように不満をぶちまけた。貨物列車は地下を走行するため、走行音が響いて空の声は誰にも届かない。
特に不満だったのは、島田から何の説明もなく急に戻されたからだ。いや、おそらくは何かしらの理由があると思うのだが、全く何も説明されないというのはかなりストレスになる。
「橋宮さんからも説明がないとは」
「橋宮さんは今島田さんと連絡を取っていると思うよ」
そういう颯太を横目に空は大きく息をついた。別に緊張しているわけではないが、心の中のざわつきが収まらない。しかも毎度のことだが雷電は不在。
「ヒーローは遅れてやってくるってか。実際雷電ってどのくらいの強さなんだ?」
「それは……」
「雷電はトーキョーで一番強いらしいよ」
颯太が話し出す前に遮ってきたのはCrowのスナイパー、夜空ミチルだ。彼女は空と颯太の隣に座り込んだ。
「アイツはIERHっていう国際緊急対策本部の登録派遣戦闘員でさ、トーキョーではアイツだけ。速水とか霜月ですら門前払いっつうバケモン揃いの組織に入れる強さだな」
というミチルの話を聞いても、空と颯太にはよく分からない。特殊戦闘員にはランキングがあって、No.1が雷電、No.2,3が速水と霜月という人だというのは分かっているが、実際的な実力が不明だ。
という空の心を読んだのか、ミチルは話を続ける。
「まぁ言ってしまえば、一人で戦況をひっくり返すぐらいの強さだな。とは言え作戦には参加しないし、連絡はつかないし、引くレベルのシスコンだし、その強さを疑問視する人も少なくない。戦わないのであればいる意味がないってな」
「なるほど」
涼しい顔して答えたが、雷電はそこまでの力を持っているのかと少しだけ鳥肌が立った。あまり戦闘シーンを見たことは無いが、ここまでの雷電はまだ本気で闘っていないというのか。
その強さを有していながら、作戦に参加しないというのはかなり贅沢だなと少しだけ羨ましくなった。自分にもそんな力があれば、というのはないものねだりが過ぎるだろうか。
「そんなことより橋宮さんはどこ行ったんだ?」
空は貨物内を見回した。が、そこには腰を丸める颯太とミチル、それに小さい体をさらに小さくしている霞しかいない。
「あぁ、橋宮なら隣の車両にいるよ。なんだか島田と話し込んでるみたいね」
そう言ってミチルは車両の接続部を指差した。
空は重たい腰を上げて揺れる車両に足を取られつつ、隣の扉を開けた。
「おいおいなに話し込んでんだって……」
「……あぁそらか。いや、ただの作戦会議だよ。みんなにも伝える」
そう言って橋宮はCrowが揃う車両に戻ってきた。
しかし、空は少しだけ違和感を覚えた。作戦会議なら全員の通信を繋いでやればいいではないか。というか普段はそうしている。そう思いながら空も車両に戻る。
「聞いてくれ。今回は四年前の大災害に似ている点が多い。ただまだ確定していないせいか、ヤシマ本隊が本格的に動くことはなさそうだ。俺たちは今から戻って対空防衛システムの援護や、地上戦に備える」
橋宮は至極当然の報告をして地べたに座り込んだ。
すかさずミチルが疑問を呈する。
「いや、トーキョー上空で迎撃じゃなくてもっと手前で迎撃できるんじゃないのか?」
「コオロギ種の妨害波でレーダーに映らない上にトーキョー到着予定時刻があと六百秒しかないみたいなんだよ」
「六百秒?!」
貨物内の全員が息を合わせたかのように聞き返した。
「待て待て待て、六百秒だぁ? この貨物がトーキョーにつくのはあとどれくらいだ?」
空はミチルと橋宮の間に割り込んで、自分が着ている特殊スーツの腕にある液晶をみた。表示はあと六分強。つまり三百六十秒もある。降りて準備の時間を考えたらほぼ同着に等しい。
「まぁ待て。一旦はトーキョーの対空防衛システムを使用して迎撃を試みる。あと、何とかして雷電を探す」
「なんとかって……」
「アテならある」
橋宮はそう言って、自分の所持品チェックを始めた。空や颯太、ミチルも釣られて特殊スーツの調整や装備の確認、使用する銃火器の確認を始めた。
「そういや霧崎さんは……」
そう言って颯太が狭い貨物内を探すと、荷物の隙間に小さい体を縮こませている霧崎霞がいた。
「霧崎さん。そろそろ準備を……」
「ぅー……むにゃむにゃ……」
「いやこの状況で寝る⁈」
まさか寝ていた霞の姿に、貨物内は少しばかりの笑いに包まれた。
*
空や颯太らが高速貨物に乗り込んだのと同時刻、トーキョーの地上ではけたたましいサイレンと共に真っ赤なランプがあちらこちらで点滅し始めた。警戒レベルⅣ以上になると一般市民は地下一階層以下に避難しなければならない。トーキョーの丁度真ん中にある地上と地下を繋ぐ超高速エレベーター(巨大な樹木の様な見た目なのでCentral Treeと呼ばれる)で地下に避難するのだが、普段はエレベーターの半数で稼働しているが、有事の際にはその全てをフル稼働させている。ただし、トーキョーの地上は基本的には一般市民の立ち入りは禁止とされているため、国防関係者および一般隊員・特殊部隊隊員が使用することとなる。
そして、そのトーキョーの地上では一般市民の避難が完了したと同時に、街中に黄色いランプが点滅し、道路や建物の屋上から大量の対空砲が出現する。島田が中央政府に許可を申請していた対空防衛システムのことだが、起動までしたものの実際に射撃があった前例はない。
トーキョーでは特殊部隊隊員到着までの間、後方支援部隊が避難誘導や対空防衛システムの最終確認を行っていた。
「対蟲用障壁ポイントAからSまで展開してください」
「万が一地上戦になった場合を想定するとこの対空防衛システムは邪魔になるんじゃないか?」
などと、このシステムがを実際使用することがなかったため、勝手がわからなかった。
そんな隊員たちに突然通信がはいる。
『こちらヤシマ工業特殊部隊統括指揮官島田より通達。蟲の到着予定時刻は現時刻より百八十秒後。迅速な避難誘導と、後方部隊はそのまま地下一階層以下に避難してくれ。また、これより本作戦のヤシマ工業特殊部隊およびヤシマ本隊後方支援部隊の全指揮権が島田に譲渡されている』
要件を一方的に淡々と伝えられた通信はそのまま返事を待たずに切られた。
ただ、不満を述べる者はいない。というのも、後方支援部隊の構成隊員はほとんどが戦闘経験がない一般隊員もしくは一般市民の軍事関係者しかいないからである。このまま地上にいれば、必ずと言っていいほど死ぬ。特に後方支援部隊には特殊スーツの提供はなく、通常のヘルメットや防弾チョッキ等しか装備がない。それも、安全な後方での物資補給や一般市民の避難誘導が主な任務だからだ。
そうして、後方支援部隊が一般市民の避難誘導と共に地下一階層に避難したところで、トーキョーにとんぼ返りさせられた特殊部隊三部隊が到着した。
到着したと同時に、トーキョー上空で大きな爆裂音と共に地上では対空防衛システムの大砲の砲撃音が鳴り響いた。
「うぉー、始まったな」
空は建物の陰から上空を見上げた。晴れやかな秋の空に、黒くうごめく雲ではないなにか。そこに向けて放たれる大量の鉄の塊。最悪な開戦の狼煙だった。




