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幕間

 その日、颯太の姿はトレーニングルームにあった。

 と言うよりか、ほぼ毎日、任務が無い日はここに入り浸っていた。

 あの日からだ。久しぶりに政府から避難命令が発令されたあの時、颯太は戦場で死の淵を歩いていた。

 あと一歩踏み出したら死んでいた。あと一秒走らなければ死んでいた。あと一瞬気が付かなければ死んでいた。

 そんな戦場で、無力さを知った。


 颯太は額の汗を拭う。タオルは三枚目、栄養ドリンクは既に五本は開けた。それでもなお、足りないのだと身体を鼓舞する。

 この一月で体重は増えたが身体の傷は減った。それなりには成果は出ているらしい。

 だが、ふと思い出すのは仲間の叫ぶ声だ。今も耳に響く。

 そんな過去を忘れないようにしているのだが、いつまでも過去に足を引っ張られるようではこの世界は生き抜けないのは百も承知だ。入隊から濃厚な三ヶ月が経って、前を向く勇気を知った。

 そんな、初夏のトレーニングルームだった。









 「どうしても言えないわけねぇ?」

 「……」


 重い空気が漂う基地内の部屋に、二人の男が睨み合っていた。


 「言うことはない。もういいか」

 「ダメよ。らいちゃん、あなた何を知っているの?」

 「チッ……説明はしねぇ」


 雷電は睨みをきかせ、出入口を塞ぐ島田の足元に、とある物体を転がした。

 カラカラと乾いた後で地面を滑るのはハンドガンだ。


 「……アメリカ製のリボルバー……」


 島田は眉間にシワを寄せた。

 現在銃の所持を認められるのは警察、対蟲戦闘員及び特殊戦闘員のみだ。それ以外の人間の銃の携帯は犯罪になる。そして何より今使用されている銃は全てトーキョー製であり、外国製のものはそれこそ裏社会で出回るもの以外には無いはずなのだ。


 「ヤシマ工業の規定では携行可能なのはBsシリーズのBs-3のはずよねぇ?」

 「……」


 そう言って島田がそのリボルバーを拾おうとしたとき、島田の身体は強く地面に引き付けられた。そして今まで目の前にいた雷電の姿が真横にある。銃は……無い。


 「なんのつもりかしら」

 「頭のいいてめぇなら分かるよな?」


 銃は雷電の手に握られ、その銃口は額にぴったりと付けてある。それに、腕と脚に能力を持つ雷電に対して島田はどこにも能力が無い。抵抗すると言う選択肢は無いのだ。


 「……分かったわぁ。口外しないわ」

 「当たり前だ」


 雷電は握っていた銃を下ろして、腰のポケットに雑に突っ込み、島田から手を離した。

 それから雷電は無言で扉を開けた。


 「もし!」


 島田の突然の発言に雷電が足を止めた。


 「もし私が誰かに言ったら?」


 雷電はゆっくりと振り返った。


 「その時は……自分の命が無くなると思えばいい」

 「でもらいちゃんも同じリスクを背負って」

 「なぁ島田ぁ」


 島田が言い切る前に雷電が口を開いた。


 「何か勘違いしてねぇか?」

 「……勘違い?」

 「まさか俺が一人で勝手にやってると思ってねぇか?」

 「……誰なの。裏に誰がいるの」

 「さぁな。一つ忠告しておくと、例えこの事を誰かに言ったとして、てめぇは俺を道連れには出来ない。事実も、てめぇの存在も揉み消されて終わりだ」

 「…………」


 雷電は薄く笑って部屋を出て行った。

 島田は雷電の足音が聞こえなくなるまで固まったままだった。

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