十二月教
大損害を受けた防衛戦から三日が過ぎた。
被害が出るのは毎度のことで、これからも隊員は減り続け無人機を擦り減らすのは分かっている。賛否はある。全機械を自動化出来れば人の命を減らすことを防げるのだが、そうはいかない。資源は有限なのだ。
そして、この若い隊員たちもローテーションの関係で今回は出撃が無いものの、ヤシマ工業第二防衛基地内の車庫で出撃の準備を進めていた。
「また雷電休みなんですか?」
「まぁね」
そう聞くのはツンツン頭の青年、白矢空だ。そして空の質問にため息を付いたのはこのチームのリーダー、橋宮海斗だ。橋宮はCr-2という輸送機を起動させつつ、無線機に流れ続ける戦況に耳を傾けていた。
『こちら鏑矢中隊、目標の後退を確認』
『こちら矢崎小隊も目標の後退を確認』
どちらも最前線の部隊だ。今回はほぼ圧勝と言えるだろう。
蟲は人を食うために攻め続けるが、中には頭の良い蟲もいる。ある程度群れが崩れると撤退するという人間じみた行為をするのだ。
「今回は楽勝みたいだぞ」
「良かったですね!」
答えたのは空の同僚、風間颯太だ。サラサラヘアーをかき上げて笑った。空も小さくガッツポーズを見せた。
「連チャンで出撃は身体壊れるから……」
『緊急、緊急』
橋宮が言いかけた時、突然無線機から焦ったような声が届いた。
『目標が中心部に合流しています! 位置はヤシマ工業第二防衛基地真正面の約三十キロ先です! 至急遠距離火砲とランペイジの起動準備をお願いします!』
橋宮は眉をひそめた。
中央を無理矢理突破してくるなどこれまで聞いた事がない。
「今ランペイジの起動準備って……」
颯太は青ざめた顔で訊き返した。
ランペイジと言うのはヤシマ工業が誇る超遠距離火砲の愛称で、運用から九年経った今でも動いたことがない代物なのだ。つまりそんな代物を動かすということは、最悪の事態が起こる可能性があるということだ。
しかし今は頭を動かす時では無い。
「緊急出撃だ。各員準備完了させてそれぞれCr-2内で指示を待て!」
橋宮はそう叫んで自分のCr-2を起動させた。
*
『目標は幅二〇〇メートルの群れで突っ込んでくるわ。前線部隊は撤退済み、後方支援部隊は後ろに下げて迎撃準備完了よ。行きなさい』
「了解」
颯太はCr-2を起動させた。操縦席の照明がつき、操作パネルが光り出した。電力供給のプラグが外れ、車庫の耐衝撃シャッターが音を立てて開いた。
四対のタイヤが静かな駆動音と共に走り出した。
続々と出撃するCr-2の後ろをついて行くように、颯太と空が乗る機体も動く。
後ろには固定の遠距離火砲を乗せている。これを目標ポイントに配置させるのが仕事だ。
車庫から出る前、整備士が並んで敬礼をしていた。外からは見えないが、二人も敬礼を返した。
正直行くのは怖い。死ぬかもしれないと思うことも何度もあるし、目の前で人が死にゆくのも何度も目にした。今の今まで動いていた生命が突然終わりを告げるのだ。黒い袋に包まれ運ばれて、家族の元に帰るときには骨になっている。
それでも、自分を犠牲にしても守りたいものが後ろにいる。
帰りを待つ人たちがいる。
「さぁ、行くぞ」
そして、突然操縦席が大きく揺れた。外に出たのだ。
機体の平衡補正機能が作動し、操縦席の揺れは無くなった。が、先ほどとは違い、フルパワーの駆動音が鼓膜を小刻みに振るわせる。装甲は最低限に抑え、出せる全速力でポイントに向かうCr-2の列は長く長くなっていった。




