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トーキョーif

どこにもないけどどこかにあったかもしれない世界線のトーキョー47区。

作品の内容とはあまり関係無いので、単品でも読めます!

次話から通常の投稿です。

 太陽が少し傾いた頃、校内にチャイムが鳴り響いた。四限目の終了を知らせるものだ。

 そして鳴り終わる前に教室を飛び出す男子が居るのも普通のことで。


 「おい橋宮ぁ! 購買の焼きそばパンとクリームパン売り切れちまうぞぉ!」

 「マジか! 俺の買っといてくれや!」

 「いやに決まってんだろ〜」


 校舎の外から叫ぶ声に反応して教室の中から返事をするのは三年二組学級委員長を務める橋宮海斗だ。そして外から声を張るのは三年一組の垣倉レイだ。学年で名が通るほどのやんちゃ坊主だが勉強も運動神経も良い。そして顔も良く、背が低いことだけに目を瞑れば理想的なのだ! 背が低いことだけに目を瞑ればの話だが。


 「橋宮くぅーん。先に私が焼きそばパン買っておいたから焦らなくて大丈夫よ」


 そう言って、慌てる橋宮に近づいて来たのはロン毛を後ろで束ねた長身の男だ。橋宮の同級生で同クラス。島田幸先といい、ゆっくりとした口調で喋るのが特徴的で、その眼にいけない魅惑を秘めているのもキャラが濃い。

 そして橋宮はこの男から焼きそばパンを貰っていると、廊下を騒がしく走る音が近付いて来た。

 パンっと引き戸を開け放ち、堂々と他クラスへ侵入するのはレイだ。クラスのヤンキーのような奴らの視線を完全に無視して毎回来るのだから凄い。


 「ちょいちょいちょい! 渡したらダメじゃん! ゆきなんで渡しちゃったの!」

 「えぇ〜……だって橋宮くんが可哀想じゃない」

 「チッ……今日こそは橋宮の入学から毎日焼きそばパンを食べ続ける記録が途絶えると思ったのに〜!」


 地団駄を踏むレイの手には十個ばかりの焼きそばパンがあった。

 苦笑する橋宮を横目に、ゆきは質問した。


 「そんなまでして阻止してどうするの?」


 そんな質問にレイは堂々と答える。


 「そりゃもちろん、橋宮の悔しがる姿が見たいからだよ。焼きそばパンを食べられず絶望するその顔が見たいのさ!」


 そう言い放って、ゆきの目を見た。


 「親友だろうと関係無い。俺の愉快のためなら」

 「最低ねぇ……」

 「最低だぞ……」

 「ええ!?」


 二人から冷たい目を向けられたのだった。







 もちろん昼は購買だけでは無い。学食も戦場と化す。人気のラーメンは即売り切れ、不味いと言われるうどんが残る。そしてそれだけでは無い。席の争いもそうだ。たとえ取れたとしても、ヤンキーが横から脅し取ろうとするのが日常茶飯事、時に教師が出動する騒ぎにもなる。

 そして今日の学食も戦場と化していた。

 食べ切ったのに席をどかない学生が揉め合うなか、入り口に一人の人影が現れた。騒いでいた学食内は途端に静まり返り、その姿を見て背筋を凍らせた。


 「おいババァ……例のあれ、早く出せよ……」


 長ランに刈り上げのオールバックで顔に傷を付けた長身マッチョの男が、受け取りカウンターに肘をついた。


 「わ、分かりました……」


 受け付けのおばさんも怯えた顔で厨房へと消えていく。その間、後ろにいた男を突然全力で殴り飛ばした。

 騒然となり、一部の人間が止めに入ろうとしたが、その殴られた男の行動に皆が手を止めた。


 「す、すみません!」


 そう言って土下座したのだ。

 オールバックの男はそれを見下ろし、


 「すみませんだと? 言ったよな……タバコは吸うなって」


 一瞬、聞き間違いかと学食内の全生徒が脳内で再翻訳した。タバコを注意した……のか。


 「タバコは肺に悪ぃ。それに高校生だ……警察のお世話になりてぇのか? あ?」


 そう言って土下座している男の髪を乱暴に掴むのは二年五組雲切雷電だ。

 校内一二を争うヤンキーで、しばしば学校をサボることもあり、自主退学を勧められているという話だ。が、意外にも聞く噂は悪いものばかりでは無いのも不思議なのだ。

 雷電はその場に唾を吐いて例のものを持って待っているおばちゃんに向き直った。


 「あーそうだよこれだよなぁ……あと何分だ」

 「……一分、ぐらい」

 「じゃあもう食えるな!」


 そう言って胸ポケットからマイ箸を出し、そのカップの上に置いた。


 「昼は月清のカップラーメンって決まってんだ」


 そう呟いて、目の前に座るグループを睨みつけた。


 「食ったなら早くどけや」


 そう言って、退散していく人たちの姿に目もくれずラーメンに吸い付いた。



 と、そんな雷電の姿を遠巻きに見る三人の姿があった。


 「ねぇかすみ、やめたほうがいいよ」

 「そうそう、だってあの雲切さんよ? 昨日も駅前で乱闘したって話じゃない」


 そう言って引き留めようとする手を振り切り、今にも飛び出しそうな勢いで雷電の姿を眺める人物は。


 「で、でも……退学しちゃう前に告白、したい」


 乙女の目をした女の子。そう一年三組霧崎霞だ。本当かどうか分からないが、初めて登校した時、上級生に囲まれて困っていたところを颯爽と助けてくれた(霞ビジョン)人物なのだという。それ以来お礼がしたいのだと言うが、


 「で、でもなんて言えば……無難に好きです……? いやいや愛してる……はちょっと重いな……えーと、うーんと」

 「いやお礼言うんじゃないの?」


 横から突っ込むのは霞の友達だが、当の本人には全く聞こえていない。

 と、そんなことをしている間に雷電は食べ終わったようで、律儀に手を合わせていた。


 「ギャップ萌え……もうダメ」


 プシューっと空気が抜けるようにその場に倒れ込む霞は、そのまま気を失うように目を閉じた。満面の笑みを残して。

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