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激戦再び(終)

 「今回も上手くいったな」


 慌しく切り替わるモニターの前で禿頭の男が言った。彼は自慢の髭を触りながらモニターで戦況を確認する。


 「右翼前方が壊滅した時は少し驚いたが……さすがはヤシマの連中だ。リカバリーが強い」


 そう言って男はくるりと島田の方を向いた。


 「なぁ、島田ぁ……君もそう思うだろ?」


 島田は全く目を合わせず、


 「そうですねぇ。もう少しまともな指揮官なら右翼前方の戦力を欠かずに勝てたでしょうがね」


 そう言ってからチラリと目を合わせた。

 すると男は眉間にシワを寄せて、島田を睨みつけた。


 「私のことを言っているんじゃないだろうね」

 「さぁ? あと、私は誰かと違って忙しいので話しかけないでもらえますかねぇ」


 視線をモニターに戻し、書類作成を始める島田に男は舌打ちをして消えていった。


 「……今回は流石に肝が冷えたわねぇ。まぁ、【crow】が死ぬわけないんだろうけどね」


 呟いた声は誰にも聞こえなかった。







 比較的安全な左翼側から迂回して後方に帰還した颯太一行だったが、戻ってから聴いたのは助けを求める声では無く、作戦終了の歓喜の声だった。見えていた煙は味方の砲撃だったらしい。


 「やっと終わった……! 死ぬかと思ったな」


 そう言って倒れ込む空の足はひび割れて血が滲み出している。所々打った箇所は青くなっていた。

 そして颯太もそれは同じことで、常に外してはならない一発を撃ち続け、精神力と集中力がほぼ皆無だ。

 ただ、そんな歓喜の声の中、一つ二つと動いていく輸送車の数が今回の悲惨さを物語っている。

 死体回収班が次々と黒い袋を輸送車に積んでいく。その袋はおおよそ人一人分と言ったところか。何が入っているのかは言わないが、その数は計り知れない。


 「他のみんなも大丈夫そうで良かったな」


 空は視界の左端にある【crow】メンバーの心拍数表示を見て安堵の息を吐いた。普段と変わらない数値でデータが更新されている。


 「でも、今回は……」


 颯太は目の前の景色から視線を外した。

 視界の先に居た男は死体回収班に運ばれていく同胞を見て、暴れ狂った挙句、自害用ナイフを喉に突き刺したのだ。医療班がすぐに止血を試みたが、ダメだったのだろう。首を横に振っていた。


 「早く戻ろう。生きた心地がしないんだ」


 颯太は、そう言って立ち上がった空の肩を支えた。筋肉がボロボロになり、まともに歩けるような状態じゃないのだ。


 「くそ……雷電は毎回これに耐えてんのかよ……化け物か」


 そうして、ボロボロの二人はCr-2の待機所に行くのだった。







 「久しぶりの乗り心地はどうだった?」

 「最悪……死ぬかと、思った」


 少し前を歩く霞の揺れる髪が砂埃で汚れていた。


 「帰ったら風呂でも行くか?」

 「……うん! あ、そういえばね、新しいスイーツのお店見つけたんだけど……」


 スイーツのことを話し出すと止まらない霞は、時々足を止めてこちらを振り返るのだ。


 「それでね、イチゴが溢れるぐらい乗ってて……」

 「うん、聞いてるよ」


 歩くスピードは遅い。太腿に食らった弾のせいで上手く歩けないのだ。一歩を踏み出すたびに激痛が走る。

 Cr-2の要請をしたが、重傷者も多い上、地形が変わり過ぎて辿り着くのが難しいと言われたのだ。

 荷物は輸送車両に乗せてもらったが、人は載せられないらしく断られたためにこうして歩く羽目になっている。とは言え、こうして霞との時間を過ごせるなら文句はあまり言えないが。


 「いつか、行けるといいね!」


 振り返り立ち止まった霞が笑った。

 どうやら人の笑顔は心を癒す効果があるらしい。







 「今回もリラの出番無かった!」


 死体回収班の輸送機の助手席で手足をバタつかせる可愛い少女が嘆いた。


 「こんなに頑張ってお仕事したのにー!」

 「まぁまぁ、出番が無いことは良いことッス」


 そうなだめるのは運転席に乗る少年だ。長い前髪で目を隠し謎の雰囲気を醸す彼だが、中身は至って普通の少年なのだ。


 「そうだけど……リョーマは仕事したいんじゃないの?」

 「そうッスけど……あと僕はリューマって何回言ったら覚えてくれるんスか? 漢字が龍馬だからって……」

 「やだやだ! 覚えたくない!」


 助手席で大暴れするリラを横目に、聞こえないぐらいの小さな溜息をついた。

 こんな子供みたいな精神をして死体回収を生業とするのは酷なことだ。今は機械化が進んであまり人が職業に拘らなくなった。どこに行っても同じ給料だからだ。かと言ってこの仕事は……。かくいう自分もそうなんだが。


 「どうしたのー? あ! リラのことイヤらしい目で見たんでしょ!」


 「こわーい」と黄色い悲鳴を上げる助手席の生物を片手で黙らせて、運転に集中した。

 この後ろに乗る何十人という人の命を、家に帰してあげなければいけない。使命だとも言える。せめて骨は家族の届くところに埋めてあげたいのだ。


 「こちら死体回収A-8班」

 『こちら管制室。A-8班は積荷を降ろした後、格納庫3Bに向かってください』

 「了解」


 管制室との簡単な事務連絡を終わらせ、本格的にアクセルを踏み込んだ。


 「それじゃ帰るッスよ〜」

 「おー!」


 隣で元気に叫んだリラの声と、仲間の声が聞こえた気がした。

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