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集結!

 「防衛ライン割られます!」

 「こちら【eagle】、主力砲損壊! 突破されます!」

 「応援はまだか! 死ぬぞ!」


 第二防衛基地の管制室では、サイレンと共に狩人の叫びが部屋を震わせていた。鳴り止まない警報音に悲鳴のような通信が混ざる。

 どこの隊もかなりの損害を受け、戦闘不能まで追い詰められていた。


 「くそ! 両翼はもう無理だ。戦線が保てない! おい島田ぁ! 【crow】は何をしている!?」


 島田は通信機を切り、上官に向いた。


 「【crow】は現在ここで待機しております。出撃させますかぁ?」

 「……いや、いい。まだ砲撃隊で押し切りたいが……雷電は?」

 「居ませんが、我らも手練れですよ。ご心配無く」


 そう言って再びモニターに向かう島田だが、正直押し切れるとは思っていなかった。

 初めは雑魚が増えただけだと考えていたが、数百の蟲が同時に攻撃を放ってくる。一つ一つが小さくとも、数で押してくるのは非常に厄介だった。さらに追い討ちをかけたのは、その攻撃が毒を伴っており、被弾した人の命をジワリジワリと削っていたのだ。

 そして徐々に手足が痺れ、舌が麻痺し、やがて動かなくなる。そうしているうちに蟲に食べられる。


 「あと五十キロねぇ……」


 蟲の位置からトーキョーの防御壁までの距離だ。恐らく既に避難命令が発動し、屋外の人間は地下に行っただろう。


 「かいとくん、準備は?」

 『大丈夫だ。全員完了している』

 「了解」


 島田は上官を呼んだ。


 「【crow】と機甲部隊出撃します」

 「ポイントは」

 「旧小田原周辺に展開します」

 「ダメだ! 言っておくが、ワシはまだ貴様のことを信用しとらん。また、潰す気か」

 「……あの時とは違いますからねぇ」


 上官の眉間に皺が寄った。鋭い目つきでこちらを射抜こうとしている。


 「雷電のおらん【crow】に用は無い。指示を待って」


 丁度その時だった。

 静かだった通信機から僅かなノイズが溢れた。


 『島田か!』

 「らいちゃん! 丁度よかったわ!」


 通信相手は雷電だった。上官は僅かに口角を上げ、嘘のような言葉を吐いた。


 「ふむ……【crow】と機甲部隊の出撃許可を出す。くれぐれも使い潰すなよ」


 彼はそう言うと靴を鳴らして消えていった。

 しかし島田はそんな姿に目もくれず、


 「らいちゃんは」

 『あと三分よこせ』

 『ゆき! 指示を』


 ゆっくりとマイクを握った。モニターに映る隊員の心拍数は高くない。新人二人も慣れてきたのか。

 そして、


 「チームコード【crow】、出撃」







 Cr-2の起動音と共に、室内のライトが灯る。モニターが外の景色を映し出し、安全装置が作動。


 「さて行くぜ。休日出勤だがな!」


 橋宮はそう皮肉って、アクセルを入れた。もちろん全開だ。

 狭い格納庫から急発進するため、タイヤが擦れる音が響き渡る。軽量化のために無駄な部分を省いたCr-2は、防音効果も低いので、音が鼓膜をダイレクトに振動させた。

 そして発進。座席にめり込むような感覚を味わうほどの重力加速度に、


 「うぇ……」


 後ろに座る空が沈む身体から空気を漏らした。

 訓練生の時に体験するが、新人二人は実地で初めての経験になるので、なかなかキツいのではと橋宮は思っていたが、颯太の方は意外に余裕そうだ。


 「空、苦しいか?」

 「いえ、なんでもない」


 今の今まで引きつらせていた顔を一瞬で戻した空がしれっと答える。が、顔が少し青かった。


 「無理はするなよ」

 「いえ、どっかの誰かみたいに職務怠慢になりたくないので」


 などと軽口を叩いていると、その薄い装甲の向こうから何かが近付いてくる音が聞こえた。


 「蟲ですか!?」


 いち早く気が付いた颯太がモニターを確認する。

 小さく見える姿に、一瞬雷電かと思ったが彼は桃色の髪をしていない。

 つまりあれは、


 「君たちには説明していなかったね」


 メインモニターから目を離さない橋宮は、見なくとも確信しているようだ。


 「リラは生きている。あれは人じゃない」


 言い切った橋宮は、さぞかし驚くだろうと、彼ら二人の反応を内心ワクワクしながら待ったのだが、二人から特に反応は無い。


 「あれ、今の驚くところじゃ?」

 「橋宮さん、俺たち少し前に確認してます」

 「えぇ!?」


 落胆した橋宮を横目に、颯太はもう一度確認した。間違いない。そしてこちらに来ているようだ。


 「あともう一人くる」


 そう言う橋宮は視界の右端から地図を開き、座標を確認した。

 高速で追いかけて来る赤い点は、時間が経つほどに速くなって、


 「来るぞ〜」


 すると、Cr-2の横を高速で駆け抜ける物体が確認できた。そして、腹の底に重く響くような衝撃波が遅れてやって来る。


 「雲切雷電が化け物だと言われる所以、超音速だよ」


 音をも置き去りにするスピードを持つ、彼が最強の名を欲しいままにする理由の一つだ。


 「これで、【crow】全員揃ったな!」


 後ろを振り返り、ニカッと橋宮が笑った。


 「俺たちで全部潰す。いいな?」

 「……はい!」


 威勢の良い返事と共に、橋宮、空、颯太を乗せたCr-2は戦地を駆け抜けていった。

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