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友人

 コンテナを引くCr-2は徐々に軽くなっていた。担当する各ポイントに、それぞれのコンテナを運搬し終わっていた。

 そして再び第二防衛基地へ帰還し――

 しかしその考えははCr-2の中に響く警報音によってかき消された。

 原因は飛来物だ。


 「正確過ぎんだろ」


 蟲の攻撃と判定したコンピューターは、自動で速度と角度と着弾点を演算、搭載された防御用の榴弾を発射して飛来物を木っ端微塵にする。

 しかし、これが意味するのはただの攻撃というものではない。


 「ゆき、今蟲はどの辺だ?」


 島田に問いかけるとしばらくして、


 『今第一防衛線を突破されたわね』

 「遠距離攻撃されてる」


 そう告げると、少し慌ただしくなる音が聞こえた。


 『確認したわぁ……これだから未確認の蟲は厄介なのよね』

 「五十キロの正確な狙撃なんて聞いた事がない」

 『そうねぇ、しかもこれが限界値かどうかも分からないわね』


 橋宮は装備の確認をした。今から基地に戻っていては遅い。トーキョーを射程に収めている可能性のある蟲は早く殺さねば。


 「殺虫剤が百本。アサルトライフルが三百発。本当に軽装備だ……」


 正直に言うと足りなさすぎる。本隊からの伝達だと蟲はおよそ千体ほどだと言う。

 しかし、


 『ちょっと、かいとくん!?』

 「すまんゆき。今は時間が惜しい」

 『ペラペラの装甲と貧弱装備で行くつもり? 死に急ぎだわ』


 反対する島田との通話を一方的に切り、Cr-2を動かした。

 軽くなった車体は先にも増して速度が出る。障害物を軽々と越え、目的地まで直進する。幸い、ダンゴムシがコンクリートを食べた道が真っ直ぐに続いていた。

 しかし、何より作戦が無い。恐らく予備隊も出撃命令が出るだろうから、それまでここで押さえ込みたい。

 殺虫剤を手に取った。これは蟲に刺して使うものだ。ものの一分で絶命する強力なものなのだが、発射するものも無いので手で投げるしかない。

 しかし橋宮は投げる事については一流だ。

 腕の筋肉全体に能力が発現した橋宮は、言ってしまえば弓のようなもので、手で持てるものは基本的に投げる事が可能だ。


 「やるしかねぇ……」


 Cr-2のキャノピーを開けて外に飛び出た。先に聞いていた情報だと蜂のようだという事だったが。


 「小さ過ぎる……!」


 空を低空で飛行する蜂は、通常ヘリコプターとほぼ同等の大きさだが、これはその半分にも満たない。下からは不利だ。

 と、そこへ一人の男がやってきた。


 「はーしーみーやー!」


 荒れた土地を全速力で走ってくるのは――


 「……! レイ!」

 「久しいな橋宮ぁ!」


 大きく跳躍して橋宮の前に降り立ったのは、目にかかるサラサラな茶髪をかき上げる好青年、垣倉(かきくら)レイだ。橋宮とは訓練生の同期で、別隊だが仲良くしている友人だ。


 「どうしてこっちに?」


 来てくれるのはありがたいが、そもそもレイの担当はこちらではない。


 「そりゃお前が心配になったんだよ!」


 いつも通りの明るさと声の大きさで答えるが、そんな理由で仕事を放棄されても困る。


 「いや、なんかこう、あるだろ」

 「え、あー……実際のところはゆきに言われてさ」


 彼は島田とも同期だった。橋宮と仲が良かったレイは、彼の友人の島田とも仲が良く、時々連絡を取っている。


 「ゆきが? どうして」

 「なんか、手ぶらで行ったから援護してって。俺の代わりにふーくんとそらくん? に仕事を引き継がせるからってさ」


 橋宮は心の中で新人二人に手を合わせ感謝しつつ、島田が意外な行動に出た事に驚いた。

 彼は案外堅物で、仕事に関しては妥協を許さないはず。


 「ま、そこまでされて燃えない橋宮じゃないだろ?」

 「……まぁね」


 空を見上げた。無数の蟲が五月蝿(うるさ)く羽を羽ばたかせて飛んでいた。

 橋宮は足元に転がっていた石を手に持ち、それを空の蟲に投げた。投げられた石はそのまま蟲の羽を打ち抜き、穴を開ける。そして穴の開いた羽で姿勢が保てなくなって、蟲は勢いよく地面と衝突し、撃沈。


 「本当はこうやって一つずつ落としていこうかなって。死ななくても毒で追い討ちできるし」

 「なるほど! そこに俺が来たと言うことか! グッジョブ俺! それで?」


 親指を立てて喜ぶレイは、橋宮の作戦の続きを催促した。


 「でも落ちてくるの確認しなきゃいけないし、生きてたら刺しにいくのも面倒だから、俺がレイを投げてレイが上で毒を刺してくれたら」

 「ん? 俺がやるの!?」


 驚愕するレイに橋宮やニカッと笑って、


 「まぁ半分は俺がやるけど」


 嫌そうなレイを無視して、ささっと毒針を渡した。





 「それじゃ、頑張って」


 レイを担ぎ、腕全体に力を加える。大きく振りかぶると、目標の僅か横を目掛けて思い切り投げ飛ばした。

 投げ飛ばされたレイは悲鳴と共に綺麗な放物線を描くと、蟲の背中に着地。小さいが僅かな足場を見つけてしがみつく。

 まずは自衛用のアサルトライフルで頭を撃ち抜いて数を減らしていかなくてはならない。見える範囲でおよそ三十体ほどだろうか。一発で死んでくれればいいのだが。

 レイは足場用の蟲の頭部に弾を撃ち込んだ。


 「チッ……やっぱ頑丈だぜ!」


 もう数発撃ち込むと、徐々に蟲の高度が下がっていく。効いているのだ。

 そしてレイは素早く別の蟲に乗り移る。そう、彼の能力は足に出ており、高い跳躍が持ち味だ。

 そして飛び回るレイに蟲が攻撃を仕掛けてこないはずがない。のだが、レイに一向に攻撃が来ない。それは――


 「レイ! 早く! キツくなってきた!」


 そう、下にいる橋宮だ。彼が常にレイを向く蟲に石を投げて気を引いているのだ。


 「分かってる! ちょっと待ってろ」


 レイは慣れたように次々と撃破していく。空中を跳び回り、時には着地せず頭を射抜く技まで披露する腕前。

 これが出来るのは、彼の飛び抜けた身体能力と、体幹と技術、そして空間認識能力の賜物だ。

 そして、


 「あと一匹……!」


 最後の一匹に飛び乗ると、残り僅かな弾丸を撃ち切って飛び降りた。

 下には腕の使い過ぎでスタミナ消費し切った橋宮が倒れていた。


 「流石、世代ナンバーワンヒューマンだ」

 「それ言ってるの橋宮だけだからな」


 そう言ってお互いに拳を突き合わせていると、突然耳から痛いぐらいの高音が響いた。


 『かいとくんもレイも無事だったのね!』


 音の主は島田幸先だ。だが、彼はそんなに声は高くない。


 「ゆき、俺ブロック掛けてたんだけど」

 『あら、わたしのハッキング力を忘れたのかしらぁ?』

 「無理矢理突破したせいで鼓膜が破れそうだ」


 小さく笑うと、隣にいたレイも同意見だと言うふうに深く頷いている。


 『そしてよくあの装備で片付けたわね』

 「当たり前だよ」


 もう一度レイと握手する橋宮だったが、


 『でもかいとくん。あなたは指揮官の命令に背いた違反があるわぁ。早く安全に帰還なさい』


 その言葉を最後に通話は切られ、レイも静かに手を離し、肩をそっと叩いた。


 「まぁ、達者でな」


 そう言い残して、レイは走り去っていく。


 「ちょっと、待ってくれ! 俺の功績は!?」


 後に戦場カメラマンが捉えた、戦場に一人で頭を抱える男が立っていた、という曰く付きの写真が出回るようになった話は、ここに書き納めておこう。

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