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わからねえよ②

昨日書ききれなかったので続きです。

 フリックは優しい。だから、オレが何も決められないでいるのに、「大丈夫」って言ってくれた。「子供でいい」って言ってくれた。

 ヴァロッテの言ったとおり、裏で傷ついていたとしても、彼は表にださない。いつまでも、子供なわけがないのに。


「お前ら、さっきからちらちら見えてんぞ」


 ヴァロッテが半笑いで指差した方を振り返ると、講堂の壁からシエルとフリックの頭が見えた。

 シュシュまでいるし。


「ヴァロッテ、ごめん。君が振られるところ見てしまったよ」


 フリックがばつ悪そうに苦笑いを浮かべて、その後から彼女らも出てくる。

 一様に、どこか照れくさそうな表情を浮かべていた。


「いいさ、別に。どうせエカルテが心配だったんだろう?」


「まあね」


 ヴァロッテがフリックの肩を叩いて、歯を見せて笑う。フリック自身、どこか慣れた様子でそれを受けているのが、意外だった。

 フリックとヴァロッテ。仲、いいんだろうか。いつのまに? それともこれが普通のやりとりなの?

 男子の友情ってよくわからない。


「で。お前はこのままか? せっかく俺が発破かけてやったのに」


「そうだよ。ぼくはこのままだ」


 フリックが否定しない。その事に、胸の奥が刺されたように痛かった。


「あっそ。俺は正直許せないけどな」


「心配ありがとう。だけど言い過ぎだし、大げさすぎるよ。ところで君の方こそ大丈夫?」


「うるせえよ。あーあ。糞みたいな人生だ。人生がつまらない。何も思い通りにいかねえ」


「そんなもんだよ」


 ヴァロッテのことは、はっきり言えば嫌いだ。

 お互いどうしても上手く付き合えない。私が彼を許せないように、彼も私が許せないのかもしれない。彼の放った言葉すべてが、私を傷つけるための武器だったとは思えないのだ。もしかしたら、フリックのための言葉だって含まれていたのかもしれないのだ。


「…エカルテ。ヴァロッテの言ったこと、気にしないでね」


「……うん」


 フリックの顔を見るのがなんだか怖かった。彼のことがどんどんわからなくなっていく。

 私が嫌いな人と仲良くするフリックなんて、見たくない。

 彼にだって友達ぐらいできる。

 それをどうこう思うことなんて今までなかった。

 私にだって友達がいるし、そんなの当然だ。

 

 でも。

 なんで、ヴァロッテなんだろう。他の人なら良かったのに。

 なんで、ヴァロッテが、私が知らないフリックの気持ちを代弁できるんだろう。

 私だってずっと幼馴染なんだ。

 理由もわからず胸がもやもやする。

 今回ばかりは、別にヴァロッテが悪いことなんてないのに。すごく嫌なやつだ私。


 シエルだったら、私をこんな気持にはさせないのに。


 え?

 全身に寒気が走った。脳裏に無意識に浮かんだ気持ちは、あまりに汚くて、傲慢で、最低だった。

 シエルは私と共通の友達しかいない。魔族だから、友達が出来づらいって本人も言っている。

 だけど本当は、シエルが友達を作れないのは、私が原因なんじゃないだろうか。

 今日だって、私がぐずらなければ、彼女はダンスなんてしなかったし、それで他の学年から顰蹙を買うことなんてなかったのだ。


 彼女は明るくて、強い。自らの力で、理解してもらうことを勝ち取っていける人だ。

 私を守っていなければ、友達だってもっとできていたのかもしれない。


シエルもフリックも私をいつのに守ってくれる。今日はメリアにも守ってもらったし、シュシュだってきついことを言うけれど、私のことを考えてくれているんだ。


 私はいつも誰かに迷惑をかけている。 

 思えば生まれたときから、望まれない命だったのだ。

 フェッテに助けてもらって、今私は生きている。フェッテだって、私がいなければ宮廷魔術師としてのキャリアを積み重ねていたんだろう。


 だめだ。どんどん悪い方に思考が落ちていくのがわかる。

 足元が崩れ落ちそうだった。少ない自信がすり減っていく。

 こんなこと思っちゃだめなのに。

 私は、皆の優しさが怖いって感じている。

 優しさに慣れて、慣れ過ぎて、どこまでも貪欲になっていく自分が、怖い。最近、ずっとそうなんだ。

 ずっと一緒に居ることで、初期の輝きは薄れて、くすんだ馴れ合いになって、私は傲慢になって、やがて皆を傷つけるかもしれない。


 いやだ。もう誰も傷つけたくない。

 こんな身勝手な自分のことで、みんなが傷ついているなんて嫌だ。

 あいしかたがわからない私は、きっとひとりで生きるべきだったんだ。嵐のようにいろいろな気持ちが吹き荒れ心の中で、それだけは妙にくっきりと見えた。

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