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間違ってないよな。

「ふうん……」


 シュシュがオレの体をじろじろと見定めるような目を向けてくる。

 咄嗟に、胸元を隠した。

 対する彼女は一片の淀みもなく、恥じらいもなく、すべてが曲線でできているかのような女性らしさの権化ともいうべき体をオレに晒している。


「な、なんだよ、シュシュ」


「来ようともしなかった大浴場に、今更来た理由はなにかな、と思いまして」


 彼女がずいと一歩、オレに近づく。

 挑発的にオレを見下ろして、腕組みしたら大きな乳房がはずんだ。


「別に……。来たって、もう変じゃないんだ。オ……私、これからはこうやって生きてくから」

 

 周囲の目もあったから、曖昧な言い方だったけれど、シュシュにはしっかり伝わったようだった。

 女としてちゃんとするよ。

 シュシュは一瞬目を丸くしたけれど、すぐに余裕のある表情に戻った。


「そう」


 わざとらしく、腰を曲げて、下からオレを覗き込んでくる。

 気恥ずかして、目線を反らした。

 シュシュの体を見ることが、なのか。それとも自身の体を見られることが、なのか。

 もうよく分からなくなっていた。


 シュシュは自分の体をあんなに見せつけて恥ずかしくないのかな。

 彼女だけは、オレが男だった頃を知っているはずなのに。


 あれ? 今のオレは同性なんだから別に恥ずかしがるほうがおかしい。

 でも、なぜだろう。オレは恥ずかしいままだ。ここには女性しかいないはずなのに。

 シュシュの体に萎縮して、ますます体が小さくなった気がする。タオルを痛いぐらいに、胸に押し付けて隠している。


「何。言いたいことあれば、言えば良いでしょ」


 目をそらしたまま、自分でも意識していないつっけんどんな声が出た。


「何怒ってるのよ。あなたらしくもない。でも、そうね。言いたいことはあるわ。何をそんなに恥ずかしがっているの。決めたのなら、もっと堂々としたらどう? はっきり言ってあなた浮いているわ。本当に望んでいることなのかしらね」


「……う」


 不意打ちを食らったような気がして、言葉に詰まった。

 オレ以外にも体を隠す女子は、少なくない。

 シュシュが言いたいのは、そういうことじゃなくて、表れている態度とかもっと本質的な事を指摘されているように感じた。


「シュシュちゃん。エカルテは始めてこの時間帯に来たんだし、緊張してて当然だよ」


 間に入ってきたシエルが最後に「ね?」と笑みを浮かべて言う。

 情けないけれど、すごくほっとしたのだ。ようやく胸を隠す手の力が抜けて、シュシュの目から逃れられた気がした。


「シエル、やっぱりあなたも着いてきてあげてるのね。まるで保護者ね」


「一緒に来ただけだよ」


「そ」シュシュがくるりと踵を返す。まんまるなお尻が目に飛び込んだ。そこも、オレとは全然違う気がした。「わたくしはもうあがるから。ごゆっくり」


「シュシュ!」


 オレの返事を待たずしてシュシュは言い捨てて、さっさと行ってしまう。

 シエルと目を合わせると彼女は困ったように目尻を下げた。


「もう、シュシュってばなんなんだよ。シエル、ごめんね。シュシュが変なこと言って」


「うん? どうしてエカルテが謝るの? 別に変なこと言われたとも思ってないし」


 うっかりしていた。シュシュといとこの関係にあることをシエルには言っていない。

 オレが王子だったことも、だ。


「うん。そっか、それなら、良いんだ」


「エカルテ、入ろう。久しぶりに一緒にお風呂に入るね!」


「うん。子どものとき以来かも」


 オレは胸元のタオルを手に持ち替えて、シエルの後を追った。

 女としての体をさらけ出して、歩いていく。

 自分の体は他人と比べて、やっぱり貧相に見えてしまう。違うって思ってしまう。


 胸が苦しい。

 オレの体なんて誰も見ていないって頭では分かっているはずなのに。

 恥ずかしくて、頭の中が熱かった。恥ずかしいのは、なんでなんだろう。

 この違和感もいつかは消えるのだろうか。


 シュシュ。それでもオレは女になることを望んでるよ。

 だって、オレは、今の生活が好きだ。

 失いたくないものが、いっぱいできた。

 オレが女だったからできたものだ。

 

 他人(ひと)と同じになって、溶け込んで、女になって、大人になって。

 そうしたら、自信を持ってフェッテに言うんだ。

 オレはもう、女になったんだって。王子にも男にも戻らないって。

 間違って、ないよな。

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