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抜かされる身長。

「良いか。見てろよエトワル、シュシュ。この杖すごいんだよ」


 アントルシャが空に向かって杖を突きつけた。


「やめときなよ兄さん。お父様に叱られるよ」


「うるさいな、エトワル。僕だって魔術の制御ぐらいできるんだ。いつもそうやって見下した目をしてさ。気に入らない」


「……ごめんよ。そういうつもりはないんだ。でも本当に杖は、危ないから。やめておこうよ。バレたらお父様やお母様、それにフェッテにも叱られるよ」


「平気だって言ってるんだ! 試しにちょっと打って見るだけだから!」


 あの日も、エトワルはわたくしを助けてくれた。

 王宮で開かれたパーティに退屈したわたくし達は、使用人達の目をかいくぐり、庭に抜け出していた。

 エトワルの兄であるアントルシャが、杖をこっそり持ち出したあの日。


 制御しきれなかった魔術がわたくしに向かって飛んできた時、彼はかばってくれた。

 右手に大きな傷ができ、血が止まらなかった。

 それでも彼は、


「シュシュ、大丈夫? 怪我、してない?」


 わたくしの方を心配していたのだ。自分のほうが、よっぽど重傷なのに。

 あの日から、わたくしは――


……。


「ヴァロッテ君! 大丈夫!?」


 大声に、顔を上げた。

 ヴァロッテが倒れていて、アルノーたちが必死に背中を擦っているも、ヴァロッテはうつ伏せに倒れたまま反応がなかった。

 彼らの顔面はさあっと蒼白になっていく。「ま、まさか、死……」


「大丈夫。ただの魔力の使いすぎだよ。今行くよ」


 オレはシュシュから目を反らし、歩こうとする。

 彼女は座り込んだままオレの手を掴んだ。きっと睨んでいるんだろうなと思う。


「エトワル、お待ちなさい! あなた、エトワル・アン・アポテオーズなのでしょう!」


「私はエカルテ・シルフィードだよ。エトワルなんかじゃない。長くなるなら後にして。ヴァロッテを助けなきゃ」


 そう言って、彼女の手を解く。

 もう、エトワルなんかじゃない。

 仮に男に戻ったとしても、王宮に戻る気なんてない。

 

 なぜ彼女に察知されたのか。それを考え直す必要はあるけども。シュシュがそれ以上何も言ってはこないのは、ありがたかった。


「エ、エカルテ……どうしよう」「俺たち、ヴァロッテが死ぬなんて、思ってなかったんだ……!」


 アルノーとサディは相変わらず口元をわななかせ、涙目になっていた。


「いや、死んでないから。ちゃんと人の話を聞いて。無理やり魔力を引き出され過ぎてだけで、命に別状はない。補充してやれば大丈夫だよ。ねえ、突っ立ってないでヴァロッテを仰向けにしてくれない? 私一人じゃ重くて無理なんだ」


 なんで言い切れるかって、うちのアホ兄貴が同じ事を起こしたからだ。

 あの時対処してくれたのはフェッテだけれど、オレにも同じことができるはずだ。

 そう言えばあの場にはシュシュも居たな、とふと思い出した。


「う、うんっ」「わ、わかった!」


 彼らは存外素直な表情をして、ヴァロッテをごろりと仰向けにしてくれた。 

 少しきつい口調だったかな、とも思う。


 目の前で友人が倒れれば、そうなるよね。

 彼らだって11歳そこらの子供なんだから取り乱して当然だ。

 とは言え、メリアへの仕打ちは許されないし今回がいい薬になってくれればいい。

 あ。オレなんだか大人っぽい。


「さて」


 ヴァロッテを見下ろすと、苦悶に顔を歪めていた。

 オレは腰をかがめて、ヴァロッテの胸元に手をやる。

 魔力を産出する器官である、第二心臓に魔力を注ぎ込んでやるのだ。

 数分、そうしていただろうか。


「う……」


 ヴァロッテの表情が和らいでくるのが、目に見えて分かった。

 やがてぱちり、オレと目が合った。しばらく大きな目をぐりぐり動かして辺りをうかがって、それから、


「エカルテ!」


「うわっ」


 がばっと上半身を起こし、敵意のこもった目を向けて来た。

 びっくりした。

 

「ヴァロッテ君、エカルテが助けてくれたんだよ」「そ、そうだよ! やばかったんだから!」


「エカルテが……?」


 ヴァロッテは二人の友人の顔を見比べる。それから、少しずつ思い出したのか、恥ずかしそうに顔を覆った。「お、俺……。杖で……! 倒れて……!」


「ま。元気そうだし良かった。じゃあね」


 後は大丈夫だろう。そう思って立ち上がると、またもや手を掴まれる。

 胃がぎゅっとした。この子の目が苦手なんだ。ギラついてて。

 


「なんで、助けた! 俺は、お前に、あんなことしたのに」


「なんでって。ヴァロッテが倒れたままだと、色々とまずいからだよ。あの二人が応援でも呼んだら、先生にもばれるだろうし。後はうまく処理してよね。

 言っとくけど、魔術使ったの先生にばらしたら、ヴァロッテのことも言うから。後、手、痛いんだけど」


 脅しも含めて、じろ、と彼を睨んでやる。目つきの悪いこの顔だ。

 彼はさぞびびったのか、ぎょっと目を見開いて「あ」と慌てて手を離した。


「……ネッカーの樹は、高台に登ったところに生えてるのを見た」


「いいの?」


 ヴァロッテを振り返ると拗ねたように顔を背けられた。「早く行けよ」


「場所がわかってよかったねえ」


 相変わらずのんびりした口調でフリックがオレに微笑んだ。


「ちょっとお人好しすぎるんじゃない? 放っておけばいいのに。もう一発ぶん殴るとかさ!」


 レーネが憤慨するのをかわしつつ、ふと。


「って。高台!? レーネ、高台って言ったよ、ヴァロッテのやつ!」


「げっ。無理、まじむり。どんだけ歩くんだよ!」


「さあ、頑張って歩こうね!」


 にこにこ顔のシエルと、


「おんぶ、しましょうか?」


「あ。前みたいに、いざってときはぼくも背負うよ」


 同情的な目を向けてくるメリアとフリック。

 さ、さすがに恥ずかしいかな。

 9歳のときと比べて、色々成長してるもの。


「よっしゃ頼んだ!」


 レーネはあっさりメリアに抱きついていく。「うおー。めっちゃいいにおいする!」


「は、恥ずかしいです」


「レーネ! 裏切り者!」


 オレが叫ぶとレーネはにやり、と口の端を上げた。

 この世渡り上手さんめ。


「エカルテは、どうする?」


 フリックは相変わらず穏やかに表情一つ変えない。

 フリックにはまだ男女の意識とかないのかなあ。

 私は普通に恥ずかしいんだけど。


「いい。頑張る」


 そう答えた。


「じゃあさ、わたしがおんぶしようか!」


 シエルが横に並んで、肩をぽんぽんと軽く叩、にへらと笑う。


「シエルは身長的に無理なんじゃないかな……。って別にまだ大丈夫だよ!」


「そっか。もっと大きくなりたいなあ。エカルテをおんぶできるぐらいに」


「私はおんぶされることがないぐらい、体力つけたいよ……」

 

 シエルにも、フリックにも、身長を抜かされていることに、今更ながらに気づく。

 うおお。

 もっと伸びろ、私の身長!

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