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何でも屋を呼びました

 マーラベットを呼び出してすぐ、俺はクリストファー・シータに宛てた手紙を書いた。

 それを兵に持たせ、城に来るようお願いした。命令ではなく、お願いだ。命令だと言ったら、あの男は来ないだろう。絶対に。

 手紙の内容は、こうだ。


「クリストファー・シータさま。

 はじめまして。ぼくはセドリクス・ラティアと言います。お城に住んでいます。

 今、ぼくのおかあさまが病でくるしんでいます。とても悲しいです。

 お母様の病をなおすために、ユーフォリアの花がひつようです。でも、遠いお山にあってぼくではとりに行くことができません。

 どうか、力をかしてください。おねがいします。

 ぼくにできるお礼はなんでもします。ためておいたおこづかいの5万Gはぜんぶあげます。

 ぼくも妹のシルフェリアも、猫のマーラベットもクリストファーさまがお城に来てくれるのを待っています。

 セドリクス・ラティア」


 我ながらいい出来だ。

 子供の無邪気なお願いと見せかけながら、依頼内容、お金は5万Gしかないこと、猫のマーラベットがいることをしっかり盛り込めている。

 あとは、マーラベットと一緒にクリストファーを待つだけだ。



✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎



「おい、ガキ。俺を呼んだのは、お前か?」


 クリストファーはすぐに来た。

 ……窓から。いや、ここ三階なんですけど。

 さすが、規格外男。登場の仕方も規格外だ。


 やや長めの真っ青な髪を一つに束ねた、ガラは悪そうだが美しい男だ。年齢は二十代後半くらいだろう。この世界にはイケメンしかいないのか。乙女ゲームかってほど、イケメンしかいないぞ。

 羽織っている茶色のマントが、窓から吹き込む風で揺れる。

 窓の外に、彼が乗って来たと思われるドラゴンが停まっていた。本物のドラゴン、でかい。


「はじめまして、クリストファー様。私の名前は、セドリクス・ラティアです。こっちは、猫のマーラベット」


 俺はクリストファーにマーラベットを見せる。腋に手を入れて持ち上げたので、マーラベットはびっくりするくらいびよーんと伸びた。

 クリストファーは目をまん丸にして、マーラベットを凝視した。そして顔を背けて、口元を手で覆い、ぷるぷると体を震わせている。


「ゔぁゔぁゔぃー!」


 掌で口を押さえ付けて、言葉にならない声を上げた。完全に不審者だ。


「ごほん。で、俺はユーフォリアの花を採ってくればいい訳だな?」


 クリストファーは咳払いをしてから、態度を整えて依頼に関する話を始める。


「はい。お願いできますか?」

「お願いできるかできないかは、報酬の交渉をしてからだ」


 ……ですよね。


「お金は、払います……。貯めておいたお小遣いは、5万Gあります。足りなければ、これから一生分のお小遣いをクリストファー様に差し上げます」

「あのなぁ。ガキからそんなチンケな金額巻き上げる趣味はねぇよ」

「でしたら、何をお支払いしたらよろしいのですか? 私はどうしてもユーフォリアの花が必要なのです!」


 俺は必死に懇願し、クリストファーにすがりつく。

 すると、クリストファーはゆっくりと指差した。……マーラベットを。

 計算通りだ。


 そう。このクリストファー・シータという男は、規格外の化け物で金の亡者の癖に、動物さんが死ぬほど好きなんだ! 自宅の庭に『クリスの動物王国』という牧場を作って色んな動物を飼い、何でも屋で稼いだ金は全部動物さんたちのために使っているのだ。

 勿論、猫も大好きだ。マーラベットを餌にすれば絶対に釣れると思っていた!


「……触ってもいいですよ」

「いいのか!?」


 マーラベットをクリストファーの方へ差し出す。

 クリストファーは宝物でも受け取るかのようにマーラベットを大切に抱き、優しく頭を撫でている。


「ゴロゴロゴロゴロ」

「ゴロゴロ言ってる……!」

「クリストファーって言ったな?」

「猫ちゃんが喋った! 可愛い!」

「ユーフォリアの花を採って来てくれたら、いつでも僕に触りに来ていいぞ!」

「わかった! 俺、猫ちゃんのために絶対ユーフォリアの花を採ってくる! 大船に乗ったつもりで任せてくれ!」

「おう。じゃぁ、行ってこい!」

「行ってくる!」


 マーラベットは事前に教えておいた通りに、クリストファーに報酬の提示を行う。俺から言うより、マーラベットから言った方が効果があると思ったから頼んだ。

 マーラベットの言葉が効いたのか、クリストファーはひとしきりマーラベットを可愛がってから勢いよく窓から出て行き、ドラゴンに乗って空の彼方に消えた。


 その一時間後。クリストファーはユーフォリアの花束を持って帰ってきた。また窓から。

 思った以上に早い。


「ユーフォリアの花だ。俺と結婚してくれ」


 マーラベットの元へ行き跪いたクリストファーは、花束を捧げながらプロポーズした。……愉快な奴だなぁ。


「結婚は断るが、触っていいぞ」

「わーい! もふもふだねー、マーラベットー。マーちゃぁん。はにゃにゃーん」


 クリストファーはマーラベットの腹に顔を埋めながら撫で回している。

 俺はクリストファーの手からそっとユーフォリアの花束を取り、枯れないように花瓶に挿した。

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