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お母様を救うことにしました

 誰も死なないストーリーを目指すことにした俺は、まずお父様に会うことにした。

 というのも、俺同様、お父様にも死亡フラグが立っているからだ。

 お父様の死亡フラグは、俺よりも早い。九年後のリディア公爵の謀反で、お父様は暗殺される。

 勿論、誰も死なないストーリーを目指す俺にとってはへし折らなければならない死亡フラグである。


 前世の記憶が戻ってから会うのは初めてだが、今世の記憶によると現在お父様はとても忙しいらしい。王妃であるお母様が病で倒れてしまったからだ。

 子供である俺やシルフェリアでも容易に会うことは出来ず、大臣を通して謁見を申し込まなければならない。


 謁見を申し込んだ俺は、大臣と一緒に赤い絨毯の敷かれた廊下を歩いて行き、玉座の間で待機する。


 そういえば、ラティクロでは母親の話はほとんど出てこなかった。シルフェリアが六歳の時に病で亡くなったと、どこかのシーンで言っていた気がするが。

 シルフェリアは、現在六歳。もしかして、今かかっている病が原因で命を落とすのでは。


 まずい。早くも俺の誰も死なないストーリーに、死亡者が出てしまう。

 お父様の死亡フラグをへし折るのも大事だが、まずは早急にお母様の死亡フラグをへし折らなければ!


「セドリクス王子殿下? お顔色が優れませんが、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません」


 お母様の死亡フラグに気付いてしまい顔面蒼白になった俺に、心配してくれた大臣が声を掛けてくれる。


「王子殿下もお辛いでしょう。お母様がご病気になられ、お父様はご多忙で。お寂しい思いをされているでしょうね」

「国のことを思えば、寂しいと言っている場合ではありません。私も少しでもしっかりして、早くお父様をお手伝いできれば良いと思っています」

「さすが、セドリクス王子殿下。さすが、初代国王勇者ラティア様の生まれ変わりと言われているお方ですね」


 大臣は俺を褒め称える。

 確かに俺の回答は、八歳の子供としてはしっかりしている。前世の記憶があるから思いついた台詞だが。

 そんなに褒められると、むず痒くなってくるぞ。


 しばらくすると、お父様……国王陛下が来て、玉座に座る。

 細身で優しい雰囲気をした男性で、長い金髪を一つに束ねている。女性と間違えてしまいそうなくらい美しい人だ。ただ、忙しいせいか表情には疲れが見て取れる。


「久しぶりだね、セドリクス」

「お久しぶりです、お父様。お疲れのようですが、体調はいかがですか?」

「うん、大丈夫。ちょっと忙しいけど、みんなも助けてくれてるからね」

「そうですか。あまりご無理はなさらないで下さい。大丈夫だ大丈夫だと思っていても、無理をしすぎていると心は突然ポッキリ折れる物です」


 前世の俺がそうだったように。


「面白いことを言うね、セドリクスは。でも、大丈夫だよ。君の顔を見たら、また元気がわいてきたかたね。おいで」


 お父様はか細い膝を叩いて俺を呼ぶ。膝に乗れと言うことだろうか。あんな華奢な膝に乗ったら折れないだろうか? まぁ、今俺は八歳の子供だし大丈夫か。

 遠慮がちにお父様の膝に座る。温かくて、なんだかいい匂いがする。

 お父様が俺の頭を優しく撫でてくれると、なんだか少し泣きそうになって俯いた。人の温もりと優しさを感じる。この人を死なせたくない。心からそう思う。


「本当に無理はしないでくださいね。ご飯は三食食べて、最低六時間以上は眠るのです」

「心配してくれてるんだね。ありがとう」

「何かあったら、私がお父様を守ります」

「それは頼もしいなぁ」


 そのためには、来たるリディア公爵の謀反に向けて、誰よりも強くならなければならない。誰よりも。


「ところで、今日は何か用事があって来たのかい?」

「あっ、はい。最近、お母様のお加減はいかがかと思いまして……」


 お母様の体調を聞くと、お父様の顔色が悲しげに陰る。思わしくないのか。

 俺やシルフェリアは、お母様の体調について詳しく聞かされていない。ただ、ご病気で寝ており自室で休んでいるので会えないとだけ聞いている。


「お母様に会わせて下さいませんか?」


 幼い俺とシルフェリアは、お父様や城の人たちに任せて祈ることしかできないと思っていた。しかし、今の俺は違う。前世の記憶があれば、お母様を助けられるかもしれない。


「ごめんね、セドリクス。それはできない」

「私が子供だからですか?」

「そうではないんだ……」

「では、何故」


 お父様は苦しそうな顔をしている。困らせているのはわかっている。

 でも、お母様を救うためには情報が必要なんだ。


「落ち着いて聞くんだよ」


 俺の真剣な様子に折れたお父様は、ため息を吐いてから話し出す。


「お母様は、透明病と言う病なんだ」

「透明病、ですか?」

「その病気にかかると、次第に体が透明になっていき消えてしまう。原因はわかっていない。もしかしたら、伝染病の類かもしれないと医者は言っていた。……君たちにも移ってしまう可能性があるんだ。だから、会わせられない。これは、お母様の意思でもある」


 俺はその病を、知っていた。

 ラティクロで、シルフェリアは体がどんどん透明になっていく透明病にかかってしまう。そこで一時パーティーから離脱し、療養することになってしまうのだ。

 シルフェリアを助け、また一緒に冒険するために主人公のアルは透明病の治療方法を探す。その治療方法は、確かアルの使い魔である闇の猫マーラベットが知っていた。

 オズワルド公爵領の魔吸石鉱山の頂上に咲くユーフォリアの花を手に入れて、マーラベットに調合してもらうと透明病の特効薬が完成するのだ。


「わかりました」


 透明病は伝染病ではない。遺伝子疾患だ。

 しかし、それが解明されていない現在でそう主張しても、子供の戯言だと流されるのがオチだろう。


「私は、お母様が一日も早くお元気になることをお祈りしています。今日はお忙しい中、会ってくれてありがとうございました」


 健気な笑顔を作ってお父様にそう言って、膝から降りてお辞儀をする。


「また会おうね」

「はい! 今度はお母様とシルフェリアもみんなで会いたいです!」


 お父様は悲しそうに微笑んで俺に手を振る。

 子供の無邪気で健気な、実現不可能な夢だと思っているのだろう。

 俺は必ず、実現させてみせる。



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