前世を思い出しました
「あっけない! あっけないぞ!」
死んでしまった俺は、思わず叫んだ。
せっかく生きる意志が湧いてきたというのに、死んでしまうとは情けない!
「いかが致しましたか? セドリクス王子殿下」
セドリクス王子殿下? 誰だ、それは。
そう思って周りを見ると、絢爛豪華な広間に、メイド服を着た女性たちや、鎧を着た男性たちが控えている。
なんだ、これは。
おかしいと思って自分の手を見ると、やけに小さかった。子供の手だ。着ている衣服も、中世のヨーロッパのような服装で煌びやかだ。
……はて?
俺は確か、現代日本の片隅に暮らす、ブラック企業の社畜。年齢は三十路だったはずだが。
しかし、俺の脳内には確かに王子殿下としての記憶もある。王宮での暮らし。王子として教育される毎日。人々から向けられる敬意の眼差し。
社畜の俺と、王子の俺。どうも、両方共俺のようだ。
トラックに轢かれて死んだ俺は、どうたやら王子に転生したらしい。前世は社畜、今世は王子。大出世だ。
セドリクス・ラティア、八歳。ラティア王国第一王子。
それが、今世の俺らしい。
美しく輝く白銀の髪に宝石のような青い瞳の俺は、初代国王の生まれ変わりと言われている。残念ながら初代国王ではなく社畜の生まれ変わりだったわけだが。
「お兄様、どうしたのです? 突然大きな声を出して、らしくないです」
今度は目の前から、声をかけられる。
青みがかった長い髪に、俺と同じ青い瞳をした女の子がいる。髪と目の色によく合う、鮮やかな水色のドレスを身にまとっている。
この子は、シルフェリア。俺の妹だ。天使のように可愛い。見ているだけで癒される。こんな可愛いお姫様が妹だなんて、転生万歳。王子万歳。
「ちょっと考え事をしていて」
そう言って曖昧に微笑むと、シルフェリアもつられてにっこりと笑った。可愛すぎて身悶えて死ぬ。
いや、死んでる場合ではない。
これはチャンスなのだ!
社畜として精神を摩耗させ、自ら死を選ぼうとしたが自作ゲームを見てもう一度生きる気力を取り戻したにも関わらず、不運にも死んでしまった俺に与えられたチャンス!
……ん? あれ?
自作ゲーム?
確か、自作ゲームのタイトルは『Latia Chronicle』通称ラティクロ。
舞台はラティア王国。
そして、ヒロインの名前はシルフェリア・ラティア。
俺の名前は、セドリクス・ラティア。
おおう!?
偶然の一致?
いや、でも、よく見ると俺の妹のシルフェリアは、ラティクロのシルフェリアよく似ている。シルフェリアが大きくなったら、ラティクロのシルフェリアみたいになりそうだ。
国の名前だってラティア王国。被ってる。
そういえば、シルフェリアには兄がいて、そいつが国王だったような……。
そして、その国王はゲーム開始前に、死……。
「ぎゃあああああ!!!!」
俺は思わず絶叫した。
死ぬのか?
これはあっけなく死んだ俺へのチャンスじゃなかったのか!? チャンスなのに、またすぐ死ぬのか!?
「お、お兄様!?」
冗談じゃない!
せっかくブラック企業から抜け出し、生きる気力も取り戻せたというのに、死んでたまるか!