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主人公と出会いました

 クリストファーが帰った後、ほっと一息ついてもう一度眠ろうと思った時。俺の横で、何かがもぞもぞっと動いた。

 どきっとしながら横を見ると、黒い毛が見えた。

 なんだ、マーラベットか。驚かせやがって。俺が寝ている間に布団に潜り込んでくるなんて、可愛い奴め。

 ……。

 いやいやいや。

 マーラベット、ソファーにいるし! 呑気に臍を天井に向けてひっくり返って寝てるし!

 なんだ、これ。多分生き物なんだろうが、一体何者なんだ。

 俺は恐る恐る布団を退ける。

 そこには、俺と同じくらいの年頃の黒い長髪の子供が寝ていた。性別はわからない。髪が長いし、女の子だろうか? でも、この世界は髪が長い男もたくさんいるしな。

 誰なんだろう、こいつ。

 王子の布団に潜り込むとか、不敬にも程があるだろう。下手したら処刑だ。相手が元社畜でバリバリ庶民の前世を持つ俺だったか良かったものの。まったく。


「おい」


 俺は子供の頬をぺちぺちと叩いて起こす。


「ん」


 子供は起きるどころか、俺に抱きついて頭を擦り付けてきた。マーラベットもびっくりの甘えん坊だな。

 なんだこれ。どうしたらいいんだ。俺も魔力が枯渇してて眠いんだぞ。

 もういっそ眠ってしまおうか。いや、でも気は抜けない。こいつが俺を殺しにきた子供の暗殺者という可能性だってある。ちゃんと追い出してから寝なければ。


「おい! 起きろ!」


 俺は子供の髪を引っ張って無理矢理起こした。


「んあー」


 子供は目を開けて俺を見る。炎のように赤い目に俺の顔が映った。

 赤い目。珍しい。この世界は勇者ラティアの血筋のせいか、青い目をした人が多い。他の色の目は割と特徴的だと言える。

 中でも、赤い目は……特別な意味を持っている。魔人や魔物の象徴……。邪神であるマーラベットの目の色も赤い。人間に生まれれば、迫害の対象にすらなる。たかが目の色だと言うのに。家庭教師の授業でそれを知った時、俺は激しい憤りを感じたことを覚えている。

 目の前の子供も、そういう目にあってきたのだろうか。


「きれい」


 子供は俺を見てそう言うと、近づいて来て俺の髪を口に入れた。


「おい! やめろ! 髪の毛食べるな!」


 再び子供の長い髪を引っ張ってやめさせると、子供は何が悪いのかわかっていないような様子で首を傾げた。普通、人様の髪は食べちゃダメだろう。

 人懐っこいを通り過ぎてヤバイ。恐れを知らぬというか。迫害して育ったらこうはならないだろう。そこは安心点ではあるのだが、困る。


「すき」


 子供は怒られたことも理解できていないのか、無邪気に俺に擦り寄ってきた。……まぁ素直なのは認めてやろう。

 仕方がないので、俺はマーラベットにするように子供を優しく撫でてやることにした。


「私の名前はセドリクス・ラティア。君は?」

「んー……ある」

「そう、アル」


 ん? アルだって?

 アルって、まさかアルードラ・ネロ? ラティクロの主人公の?

 ……そういえば主人公アルは魔人だから目は赤いし、髪は黒くて長い。子供をよく見ると、アルを小さくした感じだ。

 何でアルがこんなところにいるんだ。

 アルは確か、クリストファーに拾われて弟夫婦の養子として育てられていたはずだ。ということは、クリストファーか。クリストファーについてきて、置いていかれたのか。


「せろりすす」

「……」


 なんだ、セロリススって。もしかして、セドリクスって言いたいのか。全然言えてないぞ。俺はセロリの仲間か。


「セドリクスだ」

「せろ……せろり……す!」


 アルは一生懸命言っているが、どうしても俺をセロリにしたいらしい。

 なんでサ行とかラ行とか微妙に発音が難しい行ばっかり言えて、ドリクが言えないんだ。


「もういい。セスで」


 ドリクのことは諦めよう。セロリにされるよりは、最初と最後だけでも言えた方がマシだろう。

 ちょうど、クリストファーからあだ名を考えておけと言われていたし。


「せす」

「よし、ちゃんと言えたな」

「せす、いいにおい。すき」


 アルは俺の首筋に顔を埋めて、匂いを嗅ぎ始めた。いちいち距離感が近い奴だ。

 これ、どうしよう。次にクリストファーが来るのは三日後だ。それまでに気付いて引き取りに来るだろうか? それとも、送り届けた方がいい? もしかして、自分で帰れたりとかする?


「アル。君、家はどこなの?」

「いえ? えっと、くりすんとこ!」

「そう。クリストファー様は先に帰っちゃったみたいだけど、一人で帰れる?」

「くいすとはー?」


 アルはきょとんとした顔で首を傾げる。クリスは言えてクリストファーは言えないのか。連続する長い単語が言えないのかな。いいにおいは言えるみたいだけど。同い年にしては、知能が低い。六歳のシルフェリアだってもっとしっかり話す。魔人だからだろうか。


「ここにすむ」

「は!?」


 アルが思いもよらぬことを言ったので、俺は驚いてつい変な声を出した。


「ダメだよ。お父さんとお母さんが心配するでしょ」

「せすといる」

「おい何すんだやめろ」


 アルは俺のパジャマの中に入ってきてそのまま寝た。引っ張り出そうとしても、腰に腕を巻きつけて動こうとしない。


「はぁ……」


 仕方がないので、俺はクリストファーにアルが城にいることを知らせる手紙を書き、呼び鈴で兵士を呼んで届けるよう伝えた。

 アルはぐっすり眠っている。

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