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ご褒美を貰うことになりました

「セドリクス。今後また、正式な発表があるとは思うんだけど」


 四人でお母様の回復を喜び合い、一息吐いたところでお父様がそう切り出す。


「君を王太子に指名しようと思ってる」


 なるほど。まだ八歳なのに、早いな。

 まぁ、当然の流れかもしれない。勇者ラティアはこの国の絶対者。神の加護を受けて戦った者。神の啓示を受け、王妃の病を治した王子であれば勇者ラティアと神への敬意を表すという意味でも、王太子に指名するのは自然だ。

 セドリクスは遅かれ早かれ王太子に指名される。セドリクスとして生きていく以上、これは避けては通れない道だ。今指名されても、特に不都合はないだろう。


「ありがとうございます。王太子として恥じのないよう精進していきます」


 俺は素直にお礼を言った。


「おめでとう、セドリクス」

「おめでとうございます、お兄様! わたくしも嬉しいです」


 お母様とシルフェリアも柔らかい微笑みを浮かべて祝福してくれる。二人とも女神のように美しい。ここは天国か。お母様最高。妹最高。


「それと。今回の功績を讃えて、君に褒美を与えようと思っている。何か欲しい物はあるかい?」


 欲しい物。

 そう言われて、考える。

 俺が欲しい物は、ただ一つ。みんなで生き残れる幸せな未来。でもこれは、お父様にどうこうできる物ではない。

 しかし、国王直々にくれる褒美は貴重だ。ここは、多少無理を言っても許される場面だろう。何しろ、俺は王妃の命を救っているのだから。


 さて。お父様に頼みたい物は、二つある。通常、こう言った場面で複数の願いを伝えるのはマナー違反だ。どうしたものか。

 一か八か、言ってみるか。


「お父様。大変失礼なのですが、頂きたい物が二つあります」

「何だい? 私に与えられる物であれば、いくつでもあげるよ」

「ありがとうございます。では、失礼ながら」


 お父様はおっとりした優しい人なので、褒美を二つねだっても怒ったりはしない。俺の頭に手を乗せて、穏やかに微笑んでいる。


「一つは、私に剣の師匠をつけて欲しいのです」


 ラティクロで、セドリクス・ラティアは規格外の(クリストファ)化け物(ー・シータ)を除いた中で世界最強の剣士だった。しかし、作中でそうだったとしても、その設定にあぐらをかいて何もしなかったら、同じようになれるわけがない。

 実際、八歳の俺は剣の稽古などしていないし、正直その辺のゴロツキのだって負けるくらいの雑魚だ。

 来るべき死亡フラグをへし折るために、武力は必要だ。


「もう一つは……同年代の友人が何人か欲しいのです。できれば、ラティア首都以外のことをよく知っている貴族の方で」


 こちらは、死亡退場を回避するための布石だ。

 お父様の死亡退場の直接的原因であり、俺の死亡退場の原因である魔人教団と繋がりがあるリディア公爵家の状況は、よく知っておかなければならない。


 セドリクスと同い年で貴族。それも、王太子の友人としてふさわしい身分の侯爵家以上の家柄の貴族は限られている。ラティクロで仲間キャラクターになる、エリック・バレンナとアリアーネ・リディアだ。

 ここでの本命は、リディア公爵家の令嬢であるアリアーネ。


 何人かと言ったのは、一人であればお父様は間違いなくエリックを呼ぶと思ったからだ。

 エリックは同性だし、バレンナ公爵はお父様の親友だから。


 お父様は、難しい顔をしている。

 やっぱり、一度に二つのお願いをするのは失礼だったのだろうか。


「セドリクス」

「は、はい」

「そういうのは、ご褒美とは言わないよ」


 お父様は真剣な顔で俺にそう告げる。


「剣の師匠は探しておくし、お友達が欲しいなら年の近い子息や令嬢のいるバレンナ公爵家とリディア公爵家に声をかけておこう。でも、師匠とお友達がご褒美って! そういうのは当たり前だから! もっとこう、すごいお願いとかないの!? 自分のお城が欲しいとか!」

「え、いえ。お城はいらないです」


 お父様やお母様やシルフェリアと離れて暮らすのはダメだ。俺がいない間に何かあったら困る。


「じゃぁ、ケーキ食べ放題したいとか!」

「ケーキは一つか二つで十分です」


 それ以上食べると、胃もたれしそう。

 お父様はどうしても他の褒美を言って欲しいのか、悔しそうな顔で考えている。


「あとは……ぞ、ゾウを飼いたいとか……」

「逆にそんなお願いをされたら困りませんか、お父様」

「た、たしかにそうだけど……」

「あ」


 ゾウを飼いたいがご褒美になるのであれば。


「でしたら、ゾウではなく猫を飼わせて下さいませんか?」

「猫?」

「はい」


 猫を飼う許可を貰えれば、マーラベットを堂々と飼える。まぁ、マーラベットは許可を貰ってなくても元々堂々としていたけれど。


「いいけど、猫くらいだったら別にご褒美じゃなくても……」

「ふ、普通の猫ではないのです! この前拾ったんですけれど、たまに喋るし、割と大きいちょっと変な猫なのです!」

「そうなの? 今度見せてね」


 お父様は変な猫だと言うと納得したのか、穏やかに微笑んでいる。


「あっ、でも国王として褒美を与える時に拾った猫を飼うことを許可するだけじゃ格好が付かないから、正式な場で与える褒美は何か別の物ないかなぁ?」

「……」


 多分、お父様は人に何かをあげるのが好きな人だ。


「じゃぁ、勇者ラティアの聖剣エターナルを下さい」


 俺は半ばヤケになって、国宝である聖剣を褒美に選んだ。ラティクロでは、魔人教団と戦う直前に手に入るシルフェリアの最強装備だ。軽くて扱いやすく、剣身で魔法を跳ね返すことができる。

 そんな大事な物、くれるわけないけど。


「わかった! 用意しておくね!」


 お父様は目を輝かせて喜んでしまった。

 嘘、だろ。くれるのか、聖剣。


 そこで、ハッと思い出す。


 そういえば、ラティクロではセドリクスが死んだと思われる場所から聖剣が見つかり、勇者ラティアや歴代の国王たちの遺志を継いでシルフェリアが戦うと言うストーリーだった。

 そうか。聖剣エターナルは、セドリクスの装備品だったんだな。じゃぁ、貰っても問題ないな。


 ……いや、問題あるだろ。

 国宝だぞ。

 剣も扱えない八歳の子供だぞ、今の俺。


 お父様は満足そうに笑っている。

 今更やっぱり別の物でとは言えなかった。

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