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お母様が元気になりました

 三日後。

 俺はシルフェリアとテラスでお茶をしていた。テーブルの上には紅茶とジャム入りのクッキーが置かれている。その横に、どでーんとひっくり返って臍を空に向けて寝ているマーラベットが。


「ねこさん」


 シルフェリアは、マーラベットを優しく触って微笑んでいる。マーラベットは可愛い女の子に触られて幸せそうに寝ている。

 俺もマーラベットのあまりに無防備な腹を軽く撫でた。


「そういえば、お兄様。神様からお告げを頂いたというのは本当ですか?」

「えっ。それをどこで」

「どこって……。お城中、その噂で持ちきりですわ」


 おう……まじか。そんな騒ぎになっていたとは。


「勇者ラティア様の生まれ変わりで、この国を治めていくのに相応しい神に愛された光の王子だと、皆様お兄様をとても尊敬しているようです」


 そんな、大袈裟な。

 俺なんかブラック企業に勤めていた三十路の社畜の生まれ変わりだし、薬を授けてくれたのは本当は闇の猫だし、どちらかと言うと光の王子じゃなくて闇の王子なのではないかと思うくらいだ。

 でもシルフェリアに「俺は闇の王子です! てへぺろ」なんて言えないし、ここは曖昧に微笑んで適当なことを言っておこう。


「皆様が応援して下さるのはとても嬉しいです。期待に応えられるよう頑張っていきます」

「素敵です、お兄様」


 シルフェリアも柔らかく微笑む。青みがかった銀髪が太陽の光でキラキラと煌めき、シルフェリア自身が輝いているように見える。可愛い。彼女こそ光の王女だ。妹最高。妹万歳。


 シルフェリアの可愛さを愛でていると、テラスに年配のメイドが現れた。彼女は、メイド長だ。


「ご歓談中失礼致します。王子殿下、王女殿下。国王陛下がお呼びです。玉座の間にお越し下さいませ」


 お父様が。一体何だろうと思って、シルフェリアと顔を見合わせた。シルフェリアは、少し不安そうな顔をしている。


「大丈夫。きっといい知らせだよ」


 シルフェリアの不安を拭うように、俺は彼女の頭を撫でて微笑んで見せた。


「すぐに向かいます」

「承知致しました。では、ご案内致します」


 メイド長に誘導されて、俺とシルフェリアは玉座の間に向かう。まだ少し不安そうなシルフェリアの手を握って。

 マーラベットには一応声を掛けたが起きなかったので、そのままにしておいた。太陽の光を浴びてよだれを垂らしながら気持ちよさそうに寝ていたので、無理矢理起こすのも可哀想だ。周囲に控えていたメイドにも、なるべくそっとしておいて起きたら丁重に扱うよう伝えた。


 玉座の間に行くと、お父様と……その隣には、お母様が並んで待っていた。

 白いドレスを身に纏い、青みがかった銀髪を丁寧に結い上げている。お母様は、寝室で見た時と違って体が透けることもなく、しっかりと存在感のある王妃になっていた。


「お母様……!」


 シルフェリアは両手で口元を覆い、目をまん丸に見開いて驚いている。


「お母様! お母様!!」


 そして、お母様が目の前にいるという現実が理解できると、玉座の方へ走って行きお母様に抱きついた。

 母と娘の感動の再会。王族としてはマナー違反だが、その場に彼女の行動を咎める者はいなかった。


 どうやら、薬はちゃんと効いたようだ。良かった。


「お母様。ご回復なさったようで、何よりです」


 俺は王子らしく丁寧にお辞儀をして、回復を喜ぶ言葉を伝える。ほら、お兄ちゃんだしね。三十路の社畜だし、大人の対応をしなければ。


「ありがとうございます、セドリクス。貴方のおかげです」

「全ては神のお導きがあったからです」


 邪神の導きだけど。口が裂けても言えないが。

 マーラベットには、あとでこっそりご褒美をあげよう。


「私からもお礼を言うよ。よくやったね、セドリクス。ありがとう。おいで」

「はい」


 お父様に呼ばれて、俺も玉座の近くに行く。お父様とお母様とシルフェリアと俺。家族四人でこうして過ごせることを喜び合った。


 ……そういえば、前世の俺は家族との絆が希薄だった。

 父は昔ながらの亭主関白な男で家ではいつも偉そうにしていた。母は無関心を装うことでそれに耐えていたが、子育てが終わるのと同時に離婚。離婚後は自由を謳歌していたらしい。俺はブラック企業勤めで毎日帰宅は深夜だったし、両親共に連絡する回数は少なかった。

 前世の俺にも妹がいたが関係は良くも悪くもなかった。俺と同じように創作が趣味だったが、ジャンルは全く合わなかったので共通の話題もあまりなかった。俺は自分のオリジナルゲームを作る一次創作、妹は版権作品などの世界観やキャラクターを使って漫画を描く二次創作が主。しかも、妹は腐女子……いわゆる男同士の恋愛が好きなタイプだった。俺は異性愛が好きだったから完全に畑違いという印象だった。同じオタクなのに。

 今思えば、もう少し可愛がってあげれば良かったのかもしれない。まぁ、相手がそれを望んでいたかは微妙なところだが。


 今世では、家族四人で仲良くできたらいい。穏やかで優しい日々を、四人一緒に過ごして行きたい。


 そういえば、ラティクロを作った当時に、プレイしてくれたという女の子と仲良くなった。ハンドルネームはよっしーさん。妹と同い年だったが、俺は妹よりも彼女と交流することが多かった気がする。と言っても、ネット上の交流だけで会ったことは一度もない。

 彼女が何故か冒頭で死んでしまうセドリクス推しで、セドリクスの設定はよっしーさんとのやり取りの中で増えていった後付けの物が多い。でなければ、冒頭で死んでしまう脇役(セドリクス)には設定も何もなかっただろう。設定が盛り上がって、アップデートで本編に追加になったエピソードもあるくらいだ。言わば、第二の生みの親。俺がこうしてセドリクスの設定を思い出して死亡回避作戦を立てられるのも、よっしーさんのおかげだと言える。

 社畜になってからは連絡を取る機会がなくなってしまったが、元気に過ごしていただろうか。セドリクス推しのよっしーさんのためにも、生き残ろう。


 そのためにも、俺は必ず誰も死なない世界を実現させなければならない。

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