死んでしまいました
RPGツクール。
中学生の時にツクール95に出会ってから、俺の人生は激変した。
誰でも気軽にRPGを作れる、夢のソフト。こんな物が、世の中に存在したのかと驚き、感動した。
その後、ツクール2000が発売し、ツクール黄金期に突入する。高校生になった俺は、勉強や部活もそっちのけでツクールに没頭した。
数々の名作をプレイし、自分もまた数々の作品を生み出し世に発表した。中には五分で作ったかのようなクソゲーもあったが、それがまた楽しい。
作品をプレイしてくれた顔も知らない人々から感想を貰えた日は、心が華やぎ踊った。まさに人生の絶頂期。楽しかった。幸せだった。
あれから十数年間の時が過ぎ、俺は三十路になった。
そして、無職になった。
勤めていた会社は、いわゆるブラック企業という奴だった。上司のパワハラ。規格外なサービス残業。貰える給料は雀の涙。それでも、がむしゃらに働いた。それが会社のためであり、自分の実力になると信じて。
しかし、俺は次第に疲弊しついに限界を迎えた。それが、つい昨日のことだ。
緊張していた糸がプツリと切れたように会社に行きたくなくなり、死のうと思った。それはもう突然に。
死のうと思った俺は、身辺整理をはじめた。人様になるべく迷惑をかけないように、家の物は全て捨てる。家具も、衣服も、雑貨も、全て。
ゴミ袋にまとめていくうちに、俺は一冊の雑誌を見つけた。
それは、十数年前に刊行された名もない出版社の出した、ゲームソフトを特集した雑誌。俺の作ったフリーゲームが特集された雑誌だった。当時はそういう雑誌が多く、人気作ではなくても掲載されることがあった。俺のゲームも、三冊ほどの雑誌に掲載された。
掲載されたゲームは、『Latia Chronicle』というRPGツクール2000で作ったゲームだ。
ラティア王国という国を冒険する、ファンタジーRPG。主人公はラティア王国に住むとある16歳の男、アルードラ。通称アル。
ある日、アルが森を散歩していると、女の子が倒れているのを見つける。彼女はラティア王国の王女、シルフェリア。
ラティア王国は、その時未曾有の危機に瀕していた。古に封印された魔人王を復活させようとしている闇の教団が暗躍し、世界を滅ぼそうとしていたのである。ラティア王城は魔人教団に占拠され、シルフェリアの兄であった国王は死んでしまう。何とか逃げ出したシルフェリアも、瀕死の状態だった。
アルの介抱でシルフェリアは回復する。そして、二人は魔人教団から国を、世界を救うために旅をする。
当時の記憶が徐々に蘇ってくる。
素材を集め、絵を描き、音楽や効果音を選んだ時のこと。ストーリーを考え、キャラクター同士のやり取りを作り、敵を配置し、物語を完成させた時のこと。バグが見つかった時のこと。そして、感想を貰った時のこと。
全てが、懐かしい。
輝いていた時代が、俺にもあった。
……死ぬのはやめよう。
とりあえず飯でも食って、腹ごしらえをして、そしてツクールでもやろう。
そう思って、財布を持ってコンビニへ行くために家を出た俺は……。
……トラックの引かれて、あっけなく死んだ。