表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

5

19の誕生日

それは、異形のモノたちが成人を認める歳―――


その歳を迎えたことで、物語は始まる


オープニングの曲が始まり、次々に現れる攻略対象者たち。

広水 奏音は4月11日に誕生日を迎え、19歳になった。


最高峰の頭脳、エリートが集まる旭院大学。


奏音は大学入試を首席で合格し、入学した。


彼女の専攻は民俗学。


クラスメートに誘われて、民俗学研究会というサークルに入部した彼女は、民俗学にどっぷりはまっていく。


ある日、彼女の前に伝承の中に出てくる異形のモノたちが姿を現す。


異形のモノルートの大蛇の化身である竜我りゅうが

竜我は大学で過ごす奏音の匂いに惹かれたといって付きまとう。


さらにストーリーを進めていくと、多くの分岐があり、攻略対象者を増やしていくことができる。


本来、あたしが奏音と出会うのは大学のサークル活動の中でのこと。

あたしは兄である神林 大和を追いかけて、同じ大学、サークルに入った。


極度のブラコンである梅子は、兄に近づく奏音が許せずに嫌がらせをしていく。

奏音は天真爛漫で、どんな虐めにも屈服しない強さを持っていた。

何をしても泣きもしない奏音は、腹立たしい存在であり、恐怖の対象でもあった。

梅子の嫌がらせはどんどんエスカレートしていき、最終的に梅子はナイフを手にしてしまう。


サークル活動真っ只中で、梅子は奏音を刺し殺そうとして、かばった兄を刺し殺してしまう。


兄と一緒にいたい―――


とっくのとうに、心が壊れていた梅子は、兄のあとを追いかけて焼身自殺をする。

焼けていく尋常ではない暑さを感じていたかと思えば、一気に酸素が燃え上がって、息苦しくなる。


窒息し意識が朦朧とする中で、最期に見たのは恐怖で怯える奏音。

かつて、見たいと望んだ奏音の怯えた姿にようやく溜飲が降りたようで、ホッとした―――



記憶が蘇ってから、何度も夢の中で梅子の視点でゲームを体験してきた。

前世でやったゲームに、梅子の視点なんてなかったはずなのに。

夢の中で梅子は必ず、焼身自殺をしていた。


こんなラストシーンを迎えるなんて、あたしにはできない。

死への恐怖と大事なものを傷つける自分への恐怖。

ゲームが始まって、いつか、あたしがあたしをコントロールできなくなったらどうしようかと何度も恐怖がこみ上げてきて、あたしはあたしをギュッと抱きしめた。


―――〝なんで産まれてきたの〟


ある日、ポツリとつぶやくように、母に言われた。

怒鳴るよりもずっと、本音のようで、鋭い刃物で突き刺されたような衝撃があった。


〝ほんとに、ね〟


心の中で想う。

ゲームの中の世界を現実に―――って神様、それを実際に体験する必要ってあるのでしょうか。


************


ゆっくりと目を開けると、涙が溢れかえってくる。


「何を見たの?」


一晩中傍に居たのか―――あたしの中を上から覗き込んでいる久遠。

つりあがった狐目が、布団の中のあたしを映し出している。


「夢の中で、奏音を見たわ。元気そうだった」

久遠の眉がピクッと動く。


「あの狛犬たち、どういうつもりで―――」

「あたし、嬉しかったよ」

身体を起こしたあたしは、久遠を見てゆっくりと笑った。


「あたしが居なくても、世界は回る。ゲームのシナリオを強制的に変えても、今のところ問題はなさそう。良かった―――」

久遠はあたしをジッと見ていたかと想うと、ゆっくりと手を伸ばし、あたしの頬に触れた。

指先がヒヤッとして、人ならざらぬモノであることを実感する。


「何もかも―――すべてが、梅子の存在によるものではない。梅子は世界の歯車の、小さな部品のひとつにすぎない」

「久遠?」


突然、語りだした久遠。

久遠の指先が、あたしの頬を伝って、じわじわと下に降りていく。

ひんやりとした細長い指先が、首筋に触れた。


「梅子の最期のときまで俺が傍に居てあげる―――」

「く―――おん?」


ゾクッと背筋に走る恐怖を感じて、あたしは久遠を見つめた。

異形のモノである久遠は、あたしの19歳の誕生日に突然現れた。

旅にでるあたしにとって、異形のモノであっても、傍にいてくれる久遠は確かに心強い存在だった。

久遠は、異形のモノだからか、あたしの不幸体質の影響を少しも受けることがない、貴重な存在だったんだ。

だけど、久遠がいったい、何者で、何の目的であたしの傍にいるのか。

本当のところは何一つ、わからなかった。

わかろうとしなかったのかもしれない。


「久遠」ともう一度呼びかけて、あたしは久遠に手を伸ばそうとした。

その手が久遠にたどり着くその前に、久遠があたしから手を引いた。


「梅子、残念だったね。梅子の不幸体質を治せる手がかり見つけられなくて」

「えっ?」と漏れたあたしの声。

久遠は口元を大きく、開いて笑った。


「次を探しに行かないとね。俺と一緒に」

「う、うん」

笑っているのに、強制的に頷かされたような、威圧感を感じた。

「久遠、あの」と、何かを言おうと口を開いて久遠を見たあたしは、そのまま唇を閉じた。

声を失ったあたしは、床に視線を落として息を吐き出した。


「次はどこに行こうかね」

久遠を見ないで発した言葉は、空気に溶け込むように消えていった。

2018.12.24 一部訂正いたしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ