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妖怪やら、幽霊やら。

不思議なものが世界には、たくさん、溢れている。


それに気が付いたのは、つい最近のことだった。

幼いころは、架空の世界のことだと理解していた。


魔法や超能力にあこがれたときもあったけれど、それよりも、あたしのは切羽詰まった問題があった。


それが【不幸体質】。


「梅子ちゃんって、運が悪いよねー」と人に笑われる程度のレベルではない。

オカシイと感じたのは、早くも5歳のことだった。

あたしの目の前で、「わーん」と泣きじゃくる男の子を目の前に、あれ?と思った。

同じ保育園で、よく遊んでいた男の子は転んだ拍子に石に膝をぶつけて、3針縫った。

あたしが原因の怪我ではなかったけれど、なぜか罪悪感がこみ上げてきて男の子の傍で泣きじゃくってしまった。


次に、半年後。


幼稚舎で隣に座っていた女の子が、飲んでいたお味噌汁をひっくり返して、足に火傷を負った。

病院へ運ばれていく女の子を見ながら、あたしはやっぱり泣いていた。

「びっくりしたね」と保育士さんたちが慰めてくれたけど、あたしはこみ上げてくる罪悪感に押しつぶされそうだった。

痕が残ると言われたらしく、後日、女の子の母親が幼稚舎に怒鳴り込んできた。

その時も、あたしは幼稚舎の片隅で蹲って、泣いた。


6歳の時、1番仲良かった子の両親が離婚した。

母も父も、不倫していたらしく、残された子どもの親権を押し付けあって、ずいぶんと泥沼になったらしい。


小学校に上がって、友人関係も一変した。

2人の女の子と仲良くなって、いつも一緒にいるようになった。

ひとりは、交通事故に巻き込まれて、足を骨折。

半年間も入院することになってしまった。

もう一人は、おうちが全焼した。

びっくりすることに、放火だったらしく、犯人はすぐにつかまった。

その頃から、あたしの周りに噂が走るようになった。


「神林 梅子の周りにいると不幸になる」


噂になるだけで、面と向かって、あたしを責める人がいなかったのは、生れた家柄にあった。

由緒正しい貴族の家柄に生まれたあたし、神林 梅子。


幼稚舎から大学までストレートで作られた学園に通う子どもたちは、幼いころからヒエラルキーを実感しながら生活していた。


エリート中のエリートの家系に生まれた梅子は、どんなに不幸をまき散らす有害な存在であっても、決して人に面と向かって疎まれることはなかった。


「梅子様」と引きつった顔で笑ったクラスメートが話しかけてくる。

そこまでして、話けなければいいのに。

すさんだ気持ちがどんどん、積もり積もって、あたしの本当の心を覆い隠していった。


あたしの周りにいる人は、みんな、何かに巻き込まれる。

いつも騒がしかったあたしの周りの出来事は、すべてあたしのせいだったんだ。

だから、こんなにも罪悪感がこみ上げてくるんだ。


それが理解できた瞬間、ポンッとあたしの頭に浮かんできたのは一枚の写真だった。

ぼんやり雲がかかっていて、目覚めてから夢を思い出すみたいにはっきりとしない記憶だった。

写真には、あたしの実の兄と見知らぬ女子が映っていて、笑っていた。


その写真の場面に、あたしはいなかった。


―――あぁ、だって、あたしはその頃には〝死んでいる〟んだから。

突然理解したように浮かんだその考えに、あたしはギョッとして、それから霧が晴れるように記憶が蘇った。


前世でやったオンラインの乙女ゲーム。

大学生になった主人公は、異形のものに好かれやすい性質。

主人公が19歳を迎えたことで、異形の者たちにとって大人と認められ、嫁取りに巻き込まれていくのだ。

主人公は大学のサークル活動中に出会う仲間たちと、異形のものたちの間で繰り広げる多彩のストーリー。

貴公子ルートと異形のものルートの二つのルートが存在し、攻略対象者は多彩であり、実に、30以上。

オンラインゲームのため、攻略対象者やその後のストーリーなども精力的に配信されていた。

また、人気声優がどんどん採用されたこともあり、人気に火がついた。

アニメ化の話まであったから、あたしは楽しみにしていたんだけど、アニメ配信が始まる前にあたしは〝死んだ〟。最期のことをはっきりと覚えていないけれど、たしか交通事故だったような気がする。


そのゲームの中で、神林 梅子も乙女ゲームの中の登場人物だった。

1番易しい初心者向けのルートであり、ゲームを始めて最初に攻略する貴公子ルートのチュートリアル的なストーリーだったのが、あたしの兄の神林 大和。

高貴な血筋を持ち、日本を代表する金持ちの長男である神林 大和。

品行方正で頭脳明晰の神林大和は、確かに乙女ゲームのヒーローになれる素質があった。


あたしはそんな兄の一番近くにいる、悪役的な存在だった。


兄のルートの場合、ハッピーエンドなら、あたしが自殺をする。

バットエンドの場合は、あたしが兄を刺し殺して自殺するというもの。


どっちに転んでも、あたしは死んじゃうらしい。

実はあたしは兄のルート以外にも、いくつか悪役的存在や時に情報提供者として出演することがあった、と思う。多岐にわたるルートについてすべてを覚えているわけではないし、あたし自身も知らないルートがたくさんあった―――と思う。


いずれ、破滅的な結末を迎えるあたしという存在。


ゲームが始まってしまえば、梅子の運命が少しはわかるが、ゲームが始まる時期までの梅子の人生というのはゲームの中では一切語られない。

だけど、あたしこと、神林梅子という人物は、この不幸体質が積み重なって性格が捻じ曲がっていったのだとわかった。

悪役にも悪役になりの事情があるんだな、と馬鹿みたいに納得した。


あたしはどうやって生きていきたいのか、悩んだ。

悪役として生きて、本当に死んでしまう人生を歩む―――というのは、正直、選ぶことができなかった。


死が現実味を帯びていたわけではないけれど、バットエンドの光景は鮮烈に脳裏に焼きついていた。


どうやって生きていけばいいのかなんてわからないけれど、「死」を回避するために、周囲との接点を避けて生きていこう。

乙女ゲームの世界が本当に始まるのかもわからないし、物語が運命のように進むのかわからないけれど、あたしは現実を守るために生きていくことを決めた。


7歳のときのことだった。


2018.12.24 一部設定変更のため、内容変更をしています。

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