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8.ザ・迷宮

 早朝から街を抜け出して、西へ向かうこと数時間。

 朝飯は昨晩買っておいた果物とサンドイッチ的なやつを歩きながらいただき、休憩も挟まず進んだところ、昼前には例の迷宮とやらに辿り着いた。

 それは岩山にどデカい門扉がついた見た目で、建築物と自然の合体形みたい感じだ。


「まずは、管理人に届け出をしましょう」


 そう言うアビの後について、門の手前にある小屋に行く。


「はい、登録料はパーティで銀貨一枚ね」


 冷やかし防止なんだか小銭稼ぎなんだか分からん仕組みの料金を支払い、俺とアビはいよいよ迷宮の門をくぐった。


 ***


 中はまず大きなホールがあり、その先が洞窟を掘り進めたような通路になっていた。そこは、大人五人が横一列で進めるくらいの幅だ。

 なぜか壁や床がぼんやり光っていて、灯りはいらないのがありがたい。


「こっちです」


 いくらか調べてあるらしく、この迷宮に詳しいアビが先導して進んでいく。

 俺は冒険者登録を済ませたばかりのペーペーだってことはアビももちろん承知だから、危険な役を買って出てくれたのだ。恐れ入ります。

 俺に期待していた役割は基本的に荷物持ちだったらしく、アイテムボックスが使えるとくればもう言うことなしとのこと。

 ま、いざとなれば、俺だって剣を使えるってところを見せようとは思ってる。


「っ! 出ました、モンスターです。危ないから前に出ないで」


 やがて、ヒタヒタという足音と共に現れたのは、キモい見た目の小鬼だ。棍棒持ってる奴、錆びた小刀持ってる奴、あとボロボロの槍を持ってる奴、合計三匹。


「ゴブリンね、このくらいの数なら一人で大丈夫。私に任せてください」


 お、頼もしい。つってもゴブリン相手じゃね。

 さてもさても、アビが腰からするりと抜いたるは、肘から手ほどの刃持つダガーなりけり。しかも、片手にひと振りずつ、二刀流とは!


【イヌイは 詩人の心 を手に入れた】


 かっこよすぎて思わず芝居がかっちゃったけど、アビの腕前は虚仮威しじゃなく、美しい動きだった。

 槍を交わして懐に飛び込むと、まず一匹目を袈裟斬りに沈めた。と思いきや、振り回された棍棒を切り刻んで無防備にさせて、もう一匹の首を刎ねる。

 ここまでわずか二秒ほど。ビビりきった最後の一匹は小刀を取り落として逃げ出そうとするが、その背中にダガーが突き刺さる。あの位置だと心臓をひと突きだね。


「お美事、お美事にございまする! ……なんかハマったなこの口調」


「? 何のことか分かりませんが、お褒めの言葉、ありがとうございます」


 パチパチ拍手しながら労いの言葉をかける俺に、アビはぺこりと頭を下げた。


 ***


 そんな感じで全然危ないことはなく、下り階段を見つけて地下へと進む。あと二階分下がると、目的のものがある階に着くそうだ。


「この階からは、モンスターもぐっと強くなります。気を付けてくださいね」


 確かに、漂っている気配がさっきより断然ヤバめだ。俺は腰に吊った剣の柄を触って、少しだけ鞘から抜いてみる。

 すると、刃がぼんやり光っていた。これは、近くに敵がいるという印に違いない。ファンタジーものじゃ結構古典的な能力なんだけど、この魔剣、そういう引き出しもあるみたい。


「ま、魔剣ですか……? アイテムボックスといい、冒険者になりたてとは思えない装備の充実ぶりですね」


 おっと、驚かせてしまったか。まあ、なんとなくこっちも、並じゃないってことが伝わったかもなので、この階からは俺も手を貸そうかね。


「早速、おいでなさったみたいだ。通路の向こう、見える?」


 暗がりから現れたのは、俺の倍はありそうな身の丈に筋肉をモリモリまとった、牙と角が鋭い強面の化け物だった。


「っ! はい、オーガですね。しかも、黒い肌……おそらくなんらかの特殊能力を持っています、気を付けて」


 ただのオーガじゃなくて、突然変異とかの上位種かな。幸い一匹だけみたいなので、牽制なんかで動きを止める必要はない。むしろ、二人いるこっちから先手必勝で仕掛けたいところだが……


「まず私が出ます、油断せずに警戒を続けてください」


 そう言うが早いか、アビはダガーを両手に構えて飛び出していく。ゴブリン相手の時より五割増しのスピードとは、アビもまだ実力の底が見えんね。


「ええい、やあ!」


「グハハハハハハ」


 が、このオーガ……思ったよりやばいようだ。

 立て続けに振るわれたダガーを大きく身を引いて躱すと、身の丈ほどもあるぶっとい金棒を思い切り振り抜く。

 勢いよく踏み込んでいたアビは、しっかりその間合いに入ってしまっている。危ない!


「うおい!」


 それを見た瞬間、俺は思いっきり踏み込んでいた。そしてその一歩でアビに追いつき追い越し、金棒の前に躍り出る。


「こいや!」


 そして、瞬時に抜いた魔剣で受けの構えに入った。


「だ、ダメ! 折られちゃう!」


 アビの叫びを背中に浴びながら、俺は魔剣を持つ手に力を込める。


【イヌイは 天地受け を使った!】


 ギーン、と甲高い音が通路に響いた。

 が、俺の剣は無事である。無事じゃないのは金棒の方。真っ二つになって、握られていない先っちょの方は地面に転がっている。


「あらよっと」


 武器を失ったオーガの防御はガラ空きなので、スパッと腰の辺りを斬りつけた。


【イヌイは 鬼斬り を放った!】


 ズズズッて感じで体の真ん中からズレていき、モンスターは息絶える。

 あ、どんな能力があったか見る暇もなかったな。


「凄い……あれほどの金棒を両断するなんて……魔剣の力? それとも……?」


 後ろでアビが呆然と呟いている。答えはーーヒ・ミ・ツってことで。謎が男を輝かせるのだよ。

 あれ? それはレディの話だっけ?

 いやいや、何はともあれ、無事でよかったね。

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