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6.冒険者ギルドの日常

 マキノにお別れを言って、赤剛石流の道場を出る。

 話してみるといい奴だったし、また来てくれと言われたので、そうするつもりだ。


「で、ここが冒険者ギルドか」


 いかにもそれっぽい無骨な建物で、お約束的に酒場も併設されている。これ絶対、中に入ると酔っ払い冒険者に絡まれるよね。

 面倒は避けるに限る。誰とも目を合わせないようにしながら、足早に奥の受付カウンターを目指し、無事到着。


「ようこそ、冒険者ギルドへ! どんなご用でしょうか」


 受付嬢はもちろん獣人娘。狐耳。いいよ、嫌いじゃない。


「冒険者登録をしたいんです。それってここでいいですか?」


「はい、承ります。ではまず、こちらの水晶に手で触れてください」


 言われた通りにすると、水晶がちょっと光ってすぐ収まる。俺が手を引っ込めてから、今度は受付嬢が水晶に触ると、またピカッと光った。

 これで俺の情報が受付嬢に伝わったみたいで、彼女は書類にどんどん書き込んでいく。これだと嘘つけないし、なんて便利なんだ。


「イヌイ・ショウヤ様でお間違いないですね。特に賞罰もないようですので、通常通りD級ライセンスからのスタートとなります。依頼の達成度合いやギルドマスターその他の推薦で昇格していきますので、幻のS級目指してがんばってくださいね!」


 ニコッ、といい笑顔付きでそんなお言葉をいただく。はいがんばります。

 その後もうちょっと詳しく聞いたけど、受けられる依頼はランク次第だとか、依頼には応募と指名があるとか、ほとんど想像通りのルールだった。

 珍しかったのは、ギルドメンバーの証が指環形式だったこと。D級は鉄製、C級は銅、B級は銀、A級は金、S級は白金だそうで、鉄の指輪を受け取って左手の中指にはめる。


【イヌイは D級冒険者ライセンス を手に入れた】


 そうして無事手続きも終わり、早速依頼書を見ようとしたその時だった。


「おい、お前! そんな細いナリで冒険者なんてやってけると思ってんのか! ガハハハハ!」


 出ました、ちょっかいかけてくる先輩冒険者。

 こういう時はどうするかちゃんと考えてあるので、やってやるぜと振り返る。

 そこにいたのは……


「この私が手取り足取り冒険者のイロハを教えてやる! ありがたく思えよ! アハハハハ!」


 エルフの可愛い女の子でした。すんごい酔っ払ってる。

 え、こういう時ってムサいおっさんじゃないの? それをなんかこっちが実力を見せつけて一目置かれる、みたいな流れが定番でしょうが。

 あ、でもその手のくだりはマキノの時にもうやったかも……


「えーと、あなたはどなた様でしょうか?」


「おう、私の名はアビゲイル! この可愛さでなんとB級だぞ! B級! こんな私にいきなり絡んでもらえて、お前はなんてラッキーなんだろうな、おい!」


 あ、ウザい。可愛いけどウザい。でも嫌いじゃない。


「だいぶ酔っ払ってるけど大丈夫? 水飲む?」


「兄ちゃん、ほっとけ。アビゲイルはいつもここで酔っ払ってて、しょうもない奴なんだ。犬に噛まれたと思って忘れな」


 親切なおっさん冒険者が脇から教えてくれる。なんだ、この子が声をかけてくるのは、俺が特別だからじゃないのね。

 でも、そういうことならそういうことで、やりようはある。

 特別じゃないなら、自分から特別になればいい。誰からも見捨てられてるらしいこの子に、俺はちゃんと正面から向き合おう。そういうへそ曲がりな性格なもんでね。


【イヌイは 強い心 を手に入れた】


 俺はおっさんを手で制し、アビゲイルの肩を掴んで真っ直ぐ目を見ながら言う。


「じゃあ、よろしくお願いします。とりあえず話聞かせてほしいから、なんか食いに行こうか、な?」


 慣れない対応を食らって面食らったようで、キョトンとしたままのアビゲイルをくるりと反転させ、背中を押してギルドから出ていく。

 失うもんなんてない。とりあえずこんなになっちゃった事情を聞くくらい、気楽にやろう。


 ***


「あー、しくじった。これはしくじった」


 今、俺の前ではアビゲイルが一糸まとわぬ姿で爆睡している。全然こういうつもりではなかったので、本当に後悔してる。


 あの後、やっぱアビゲイルは店には到底入れないへべれけ具合だったので、また屋台で食べ物と飲み物を買い、静かな所を見つけて話を聞いた。

 が、こいつ酒が切れるとからっきしのようで、さっきのデカい態度はどこへやら、急に恥ずかしがり出して全然喋らなくなった。めんどくさ!


「あのー、アビゲイルはどこの出身なの? いつから冒険者やってるの?」


「え、あの、私、海の向こうの大陸にあるユーエスエイ帝国の生まれで、えと、冒険者歴はご、五年くらい……違う、五十年です……」


 蚊の鳴くような声でつっかえつっかえ言われるので、聞き取るのが大変だ。もっかい酒飲まそうかと真剣に悩む。


「へー、あ、やっぱエルフだから長生きなのね。今何歳?」


「じょ、女性に歳を聞くなんてマナー違反、ですよっ……!」


 やっぱめんどくさい。でも今のは俺が悪い。ごめん。


「まあまあ、これでも飲んで落ち着いて」


 俺はそう言って、買ってあった果汁系の飲み物を渡す。


「はあ、す、すみません。いただきます」


 アビゲイルはこくっ、とひと口。と、喉が渇いていたのか、そのままガブガブっとひと息に飲み干してしまった。


「……げはははは、こーんなもん飲ませて、わたひをどうしよおってんだい! えーおい! きゃはははは」


 あれ? なんかスイッチ入った。まさかと思って今の飲み物の雫を舐めてみると……あ、これアルコールじゃん。気付かなかった。


「おい、きひてんのかよ、おひ、お……エロエロエロエロ……」


 うわ、リバースしやがった。てか、エルフのアレって虹色なんだ、なんかビジュアルがすげえ……

 アビゲイルはそのまま虹色の海に倒れこみそうになったので、慌てて支える。完全にダウンしてやがる。


【イヌイは 広い心 を手に入れた】


 そんなわけで、もう話を聞くどころじゃなくなり、仕方なく俺の宿に連れ帰った。いやだってどこに送ればいいのか分からなかったし……

 で、宿の受付の女の子に白い目で見られながら部屋に入り、一つしかないベッドで寝かせようとしたら、いきなり起きて服を全部脱ぎ捨て、またダウン。

 よく寝ろよ、ちくしょー。

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