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13.監獄を破壊せよ

「私達ーー皇帝の子供達には、ある勅令が下されました。その内容は、怪獣問題を解決した者に次の皇位が与えられるというものです」


 アビは俺の目を見てそう言って、それから頭を下げた。


「私が皇女だということ、黙っていてごめんなさい。不用意に知られるのは危険だったから……でも、あなたにはもっと早く言うべきでした。だって仲間なのに……」


 俺はグッと親指を立てて、笑顔で返す。


「全然気にしてないぜ。言い出すタイミングが難しかったんだろ? むしろ、ちゃんと教えてくれてありがとなあ」


 俺の言葉にホッとした顔を見せたアビは、しかしまた少し表情を硬くして、話を続ける。


「受け入れてくれて嬉しいです。そんなあなただからこそ、今こうしていられるのかも……そ、それで、危険というのには具体的な理由もあって、それが今、私達を追っている存在と思われます」


「アビと同じ皇帝の後継者候補、かな?」


 こくりと頷くアビ。


「はい、そうです。まさかこの国に来ているとは思いませんでしだが、間違いなさそうです」


「どんな奴らなのかな? やっぱりエルフ? 仲間も?」


「正確には分かりませんが、姉のアメリア、もしくは兄のジョセフである可能性が高いです。この二人は行動力も実力も申し分なく、次期皇帝の最有力候補ナンバーワンとナンバーツーでもあります」


 候補が何人いるか知らんけど、厄介なのが来てるかもなのか。なんにせよ、俺はアビを守るだけだ。

 それと、あの幽霊少女の願いも叶える。どっちかじゃない。どっちもやるのだ。俺はやる男だ。大事なことなのでもっかい言おう、俺はやる男だ。


「ーーしっ。聞こえる? 分かる? 誰かが近づいてる」


 俺の警戒網になにかが引っかかった。害意をビンビン感じる危険な奴らだ。

 そして、どうもモンスターとは気配が違う。まず間違いなく人間だ。


「……私には感じられませんが、イヌイがそう言うのならそうなのでしょう。どうします、先に進みますか?」


「ああ、どうも後ろから追ってきてるみたいだ。先を急ごう」


 一本道だったはずだが、こいつらもあの怪獣墓場を抜けてきたのか? それなら、あそこの幽霊達が何かしら反応するはずだけど。てか、俺に聞こえなかっただけかもな。


 休んだおかげで、アビもいくらか体力が回復している。できるだけの速さで進んでいくと、やがて先が明るくなってくる。

 辿り着いたそこは、天井が吹き抜けになっている岩壁に囲まれた部屋だった。久しぶりの空と太陽にクラクラする。


「アビ、あれ!」


 そして、俺達が出てきた通路のちょうど反対側の壁に、かなりの魔力を感じる祭壇があり、そこには謎の宝玉が飾ってあった。


「なんて禍々しい魔力……! きっとアレを壊してくれということだったのでしょう」


「ああ、アレが幽霊少女と怪獣達を縛り付けておくための魔術装置に違いない。すぐにーー」


「そうはさせん」


 うお⁉︎

 その声の主は、いきなりこの部屋に現れた。間違いなく今この瞬間まで、俺達以外は存在しなかったのに、実際にそいつはそこに立っている。


「そこにある魔宝(アーティファクト)こそ、俺が探し求めていた怪獣狩りの要となるもの。それを壊そうなど許さんぞ、アビゲイルよ」


 金髪にオシャレヒゲののイケメンが、よくそこまでできるな、というくらい見下した目でこっちを見ている。

 いくらイケメンとはいえ、この態度では……あまりに印象が悪いこの男が、アビの命を狙っていた曲者なのか?


「ジョセフ兄様……やはりあなたでしたか」


 アビはなんとも言い難い表情で呟く。こんな奴の妹として長年過ごしてきたとは、ご同情申し上げます。


「妹よ、兄に逆らうな! いくら愚妹とはいえ、手にかけるのは忍びない。お前の血などでこの手が汚れるのは敵わんからな。即刻立ち去れい、見逃してやるぞ」


「うるせーバーカバーカ、お前が帰れ。俺達が先に着いたんだぞ」


 ジョセフの口ぶりがあんまり腹が立ったんで、俺もついつい汚い言葉遣いになってしまった。でもこれはしゃーない。


「……野犬の言葉は分からんし、交わす言葉は持っておらん。アビゲイルよ、そいつの口を閉じさせておけ」


「イヌイ、ここは私が……」


「うーるせいやい、答えなくていいから黙って聞いとけこの野郎。いいか? ここに着いたのは俺達が先! お前は後! だから俺達に優先権があるの! 俺達はアレ壊したいから壊す! お前は手ぶらで帰る。分かったか? ドゥー・ユー・アンダスタン?」


 カチン、と音がしたような気がするほど、ジョセフの怒りは明らかだった。目は血走り、口はワナワナと震えている。しっかり聞こえてんじゃんか。


「下郎……後悔しろ」


 その言葉は、後ろから聞こえた。俺のすぐ後ろから。

 直後、何かが風を切る音が続く。


「うおっ⁉︎」


 とっさの反応で、俺の首を狙った一撃を魔剣で受け止める。


「貴様! 俺の剣を止めただと? どうやった!」


 どうも何も、そんなん、こうやって剣を持って……


「ジョセフの技を見切ったのですか⁉︎ 瞬間移動の出現先を予想するなど、そんな神業が可能とは……」


 あら、そういうことね。それは正直俺も無理だったけど、ギリギリ反応できたから何とかなったって感じだ。

 てか、瞬間移動か。だからこの部屋に現れた時もいきなりだったわけか。

 で、そんな能力があるのに俺達より先にここに来なかったのは、発動には何らかの制限だか条件だかがあるからじゃないかな。


「面白い、そんな幸運がいつまで続くか試してやろう!」


 ジョセフもの奴、自慢の技を野犬呼ばわりした俺に防がれて、頭が沸騰してんな。剣を握る手がワナワナと震えてる。

 いいぜ、かかってこいや!

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