点夜線夜5
深夜になり、いつものようにバイクにまたがり散策に出かけた。今日は家の近くのコンビニ巡りをした。
まず家から1番近いコンビニに行くと、深夜帯でいつも見かける女性店員の髪が金色になっていた。もともと黒髮のロングだったが、どうしたことかショートの眩いばかりの金髪になっていたのだ。
缶コーヒーをレジに運び、会計時にその店員に、
「髪、染めたんですね」
と声をかけた。すると店員は僕の方を見てこう言った。
「は?だれ?」
やれやれ、いつもここを使う僕のこと、彼女は眼中にないらしいな。
僕は震える手でコーヒーとおつりを受け取ると「い、いえ、ごめんなさい」とボソっと呟きコンビニを出た。
そこから数十メートル道沿いに、2番目に近いコンビニがある。
そう言えばトイレの電球が切れていたことを思い出したので、そのコンビニに入り電球を手に取りレジに向かう。
「3998円になります」
「え?」
「は?」
電球ひとつに約4000円もするのだろうか。何かの間違いではないだろうか。
「あの、これ、電球1個の値段ですよね?」
「はい。そうですが?」
「高くないですか?」
「はあ、そう言われましても。当店で取り扱っている商品は選りすぐりの逸品ばかりを集めておりますので、使い勝手を考慮しますと少々お値段がはるのは致し方ないことかと存知ます」
「む、むむむ」
「どうされますか?他のお客様もお待ちですので」
振り返ると深夜だと言うのに僕の後ろに長蛇の列が出来ており、その視線が全て私に向かっていた。
「どうされますか?」
そして目の前の店員は選択を迫る。耐え難い重圧が僕を襲った。
「・・・・・・か、買います」
店を出た僕の頬に温かい雫がすべり落ちた。何か、得体の知れない何かに、僕は負けてしまった気がする。
次に訪れたコンビニで、僕はトイレに行きたくなった。しかし、トイレの前には『清掃中』と書かれたプレートが置いてあり、仕方がなく店を出た。夜間帯にはよくあることである。
だが、次に訪れたコンビニでも同様に『清掃中の為使用禁止』と札がかけられており、その次に訪れたコンビニにはトイレが無く、更に訪れたコンビニではいくら待っても使用中のままで、更に更にと立て続けに僕はトイレを借りることができないまま、東の空が明るくなってきた。
トイレを求めて立ち寄ったコンビニは計八十八箇所。僕は数奇な運命に弄ばれ、ついにはコンビニのトイレに足を踏み入れることが出来なかった。
悲しみと腫れ上がった膀胱筋を連れ、家に帰りトイレに駆け込む。
「ふう・・・。あ、そう言えば新しい電球を買ったんだ」
切れた電球を外し、これまでになく奮発して買った電球と入れ替える。
その日以来、我が家のトイレは未だかつてない程、壮絶に光り輝くこととなった。




