訪問者
「ぎゃーー!」
私は自分でもびっくりするくらいの声をあげていた。
金髪、ピアス、スウェット姿の男。
こ、殺される。
本能的にそう思った。
私の人生こんな感じで終わるのか。
こんなことだった、もっと楽しいことしておけばよかった。
後悔が波のように起こっていた、その時だった。
「ぎゃーーー!!」
目の前の男は、私よりも大きな叫び声をあげて足を滑らせ、どしんと尻餅をついた。
そして、私を指差しながら
「お、お前!誰だ?!」
と私に言った。
よく見ると男の表情も、恐怖で青ざめて、震えている。
空き巣に、誰だと言われたらなんて答えればいいんだ?
普通に名前を言っていいのか?
ていうか、何で空き巣の方が私より怖がってそうに見えるんだ?
「あ、あんたこそだれ!警察よぶよ?!」
とりあえず”警察”というワードをだして、相手をビビらせようと思った。
まぁ、もうすでにかなりビビっている風に見えるが。
すると男は、声を荒げて言った。
「なに?!警察を呼ぶのは俺の方だ!」
……はい?
私は一気に頭が大量のクエスチョンマークで埋まっていくのがわかった。
私が呆然としていると、男はたじろぎながらも続ける。
「お前、空き巣だろ?!」
頭が真っ白とはこういうこと。
そして何秒か経って、やっと思考が戻ってきた時には、私は恐怖より疑問で支配されていた。
私が、空き巣ーーーー?!
わたしは怖さなんか忘れて、立ち上がって腰を抜かした男に近づく。
男は、ひぃっと言って少し後ろに後退する。
私は、男の目の前で仁王立ちをして上からそいつを見下す。
男の顔は、もう恐怖で色がない。
「私は空き巣じゃないわよ!ここに住んでるの!」
私は、強く言い放った。
すると、男の顔に急に疑問の色が見えた。
そして、男もいきなり強気に私に言った。
「嘘つけ!お前のこと初めて見たぞ!」
「当たり前でしょ!昨日きたばっかだもの!」
もう私たちはお互い恐怖なんか忘れて、ただの喧嘩みたいに言い合っていた。
すると男は、私に言った。
「ていうか、お前誰だよ!キョンの何?!」
キョン…。
その言葉を聞いて、キョンが朝言ってたことを思い出した。
たしか、キョンって呼んでる友達が一人いるって……。
まさか。
「キョンの、友達、の人?」
私は、恐る恐る聞いて見た。
そして男は言った。
「中学校からの仲だ。」
えぇ、えーーーーーー!
私の頭はもう糸がこんがらがりすぎて訳が分からなくなっていた。
私がぽかーんと立ち尽くしていると、急にピーッピーッと電子音が聞こえた。
電子レンジの温めが終わった音だ。
すると、男はその音に反応すると、私の横を通り電子レンジに近づいた。
そして、さぞ、当たり前のように中からハンバーグの入ったタッパーを取り出す。
そして蓋を開けて、すんっと匂いを嗅ぐと
「ふん、うまそう。」
と言って、タッパーと引き出しから箸を取っていき、食卓に座った。
「ちょ、何するの!」
あっけらかんにとられていた私は、ようやく男に聞いた。
すると、男は私の質問に答えず、熱々のハンバーグに箸を突き刺して大きな口に入れた。
「私のハンバーグ!」
私は男のもとに走っていき、タッパーを取りあげてお腹の前で抱き寄せた。
ハンバーグを口に頬張りながら、男は小さい子供のように
「ほい!ほれのご飯かえせ!」
と怒鳴ってきた。
「な、なんで勝手に食べるのよ!」
と私が聞くと、男は言った。
「俺は毎日、ここで昼飯食ってんだよ!」
え、毎日?!
すると男は急に、ポッケからスマートフォンを取り出していじり始め、耳の横に置いた。
電話をかけるようだ。
そして、電話の相手にこう言った。
「おい!キョン?お前んちに行ったら、知らない女いるんだけど!誰!?」
キョンだ!
私に一気に安心が戻ってきた。
私は、ハンバーグを抱えたまま男の携帯も奪って自分の耳の横に置いた。
男が隣で怒鳴っているけど、私はそんなの気にしないで、電話の向こうに話しかけた。
「キョン!助けて!この人誰!」
「すすき。」
キョンの落ち着いた声が聞こえた。
私は、暗い中に小さな火を見つけたような気持ちになった。
そして、キョンはそのままのトーンで言った。
「いうの忘れてたわ、そいつ、俺の友達。毎日勝手にうち来て昼飯食べてんだ。」
出た!キョンの言ってなかったシリーズ!
私は、目を丸くして男の方を見る。
男は察したのか、腕組みながら大きく頷いている。
「だからよ、そいつとご飯食べてくれ。」
「え!ええ!!」
キョンの無理な提案に私は、声をあげた。
「んじゃ、俺仕事あるから、じゃな。」
キョンはそう言い放つと、呆然とした私を残して電話を切った。
う、嘘でしょ……。
立ち尽くす私をよそに、男は冷蔵庫からいくつかタッパーを取り出して、電子レンジで温めようとしている。
なにこれ。
この展開についていけてないのは、私だけなのか。
私は、とりあえず抱えていたハンバーグのタッパーを見つめる。
茶色の艶々なソースに覆われた、拳大のハンバーグたち。
みんなふっくらと丸い形をしていて、湯気と一緒に甘くて香ばしい匂いが私の鼻をくすぐる。
だめだ、食べたい。
ハンバーグのせいでやけくそになった私は
「箸。」
と言った。
すると、それに気づいた男は引き出しから一膳箸を取って私に差し出した。
私はそれを当たり前のように受け取って、椅子に座りハンバーグに差した。




