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隣にいること  作者: しずく
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「ここ、おれんち。」


スーパーから歩いて10分くらいだろうか。


男のさす方角に、小さな団地があった。


でも新築みたいで、白を基調としていて、茶色のアンティークみたいなオシャレな門がついててとってもわたしの好きな感じだった。


二階建てのこぢんまりとした感じも可愛い。


今の状況関係なしに、普通にここに住みたいなと思った。


「なにぼーっとしてんの、いくぞ。」


男はそういうと自然に私の手を取って、団地の階段をのぼりはじめた。


なんかスーパーから出てくる時も思ったけど、この人、ふっつうに私と手を繋いでくる。


私も一応16歳だけど、もう高校生だし、もうちょい躊躇ってものがないのか?


まぁ、でも、悪い気はしない。


彼の手が暖かいだからだろうか。


人と手を繋ぐとか、小さいころはきっとママとパパと繋いでいたんだろうけど、中学生とかになった頃から誰かと手を繋ぐことなんてめっきりなくなった。


たまに、同級生の女の子達が仲良く手を繋いでるけど、トイレとかちょつとした移動のたびに手を繋ぐのはなんだか理解できない。


だから私は友達とはあんまり手を繋がない…というか、繋ぐほど仲のいい友達がいないのかもしれない。


お母さんとなんて、忙しくて手を繋ぐどころか最近はまともに話もしてなかったし。



まぁ、とにかく、人と手を繋ぐのにはあまり慣れていないのだ。




人の手って結構暖かいんだな。


久々に感じる人の温もりに、わたしは自分のゴツゴツしたものが丸くなっていくのが分かった。



彼の部屋は、二階の階段から一番遠い角部屋だった。


白いドアを開けると、彼の匂いがした。


部屋の中は、短い廊下が続いていてその奥に一つ空間があるようだった。


「ほら、はいれ。」


「お、おじゃまします。」


ただいまって言おうか迷ったけど、流石に図々しくてやめた。


玄関は二人でぴったりなスペースくらい。


スニーカーを脱いで、廊下の奥に続くリビングに入った。


左には小さなキッチン。


家具は4人用のダイニングテーブル、テレビ、あとは棚という感じで必要最低限のものしかなかった。


でも、角部屋だからか窓は大きい。


こ、これが男子の一人暮らし……。


男の部屋に入るのが初めての私は、ちょっと感動していた。


「ほら、ご飯作るから親戚とかに連絡しろっ。」


彼はそう言うと、キッチンにいって部屋にかかってあった黒色の無地のエプロンをつけた。


スーツ姿に黒のエプロン。


悔しいけどなんだか見惚れた。


……って、そうじゃなくて!


私は、リビングに繋がるベランダへ出た。


二階だから周りには景色じゃなくて、向かいのアパートの一室がすぐそこにあった。


ベランダを乗り越えたら、目と鼻の先には向かいのアパートの窓があってすぐあっちに行けそうだった。


これなら簡単に泥棒はいれるな、と妙に好奇心が芽生えつつ、携帯を開く。


とりあえず、すっかり忘れていたおじさんからのメールを返信することにした。


返信メールを書こうとしたその時。


突然、知らない番号から着信がかかってきた。


もしや……。


とりあえず出てみた。


「おぃ!!!今どこでなにしてるんだぁ!!」


あのおじさんだった。


突然の大きなガラガラ声に危険を感じた私は、耳に当てていた携帯を即座に耳から遠ざけた。


この際、何でこの人が私の番号を知っていたのかは追求しないでおくことにする。


「い、今は杏太郎さんの家にいます。」


絶対怒られるだろうな、と思ったけどこれ以外にいいようがなかった。


「なぁに?!?!」


予想通り、声のボリュームは大きくなって帰ってきた。


面と向かってじゃなくて、電話でよかったと心から思った。


すると、おじさんは自分を落ち着けるためなのか、急に長いため息が聞こえた。


そして、さっきとは裏腹の諭すような声で


「いつ迎えに行けばいいんだ?」


と言われた。


私も、さっきとは裏腹に


「かえらない!」


と猛々しく返した。


そこだけはおじさんに威圧感で負けたくなかった。


私はせっかく収まった火にまた油を注いだようだ。


ぷちんと何かが切れた音が聞こえるくらい、おじさんは急に、なんだとぉー!と怒鳴った。


もう、これは説得できないなと察した私は通話終了のボタンを押してやった。


プーップーッという機械音がやけに耳を刺す。


おじさんのでかい声のせいで、電話を切っても動揺が止まらない。


なんかすごい疲れ。


私はベランダからリビングへ戻った。


すると、私の鼻をやさしくて美味しそうな匂いが抜けた。


「ちゃんと連絡できたか?」


そう聞いた彼は、二人ぶんのオムライスを運んでいた。


匂いの正体はあれに違いない!


「うん、できたできた。」


オムライスに心を奪われすぎて、返事は適当にしといた。


私は俊敏に席に着いた。


目の前には、優しい黄色が輝く大きななオムライス。


小さなサラダと黄金色の透明なスープまで用意されていた。


美味しそう、ほんとに。


「お、おいしそう…。」


思わず口に出ていた。


用意を終えた彼もエプロンを外し、私の前に座る。


よし!食べよ!



「いっただきまー…」


「ちょいまて。」


今にもオムライスをすくいそうなスプーンをもつ私を彼が遮った。


「な、なんですか。」


私は顔面から、早く食べさせろオーラを出しまくった。


こんなに目の前でキラキラしたご飯が置かれて、待たされるなんて生き地獄だ!ひどすぎる!


すると彼はいきなりテーブルから身を乗り出して来て、私に顔を近づけた。


そしてこう言った。



「これからよろしくな。」



そう言うと、穏やかに笑ってみせた。


そっか、私、この人とほんとに暮らすんだ。


その時、まだ心のどこかで迷ってる私がいるのに気づいた。


血も繋がってないこんな若い男の人の家にお世話になっていいんだろうか。


親戚のおじさんたちに拾われるほうが、きっとお金には困らないんだろう。


でも、私は今日だけだけど、感じてしまったのだ。


彼と過ごした今日が、どれだけ私を穏和な気持ちにさせてくれたか。


彼は本当にどこまでも優しいのだ。


これからどうなるのかわからない。


でも、私の心を彼の近くに置いておきたい。


私は彼と生きるしか道はないみたいだ。



「おねがいします。」


私は握っていたスプールをテーブルに置いて、おでこがテーブルに着きそうなくらい頭を下げた。


「おい、ばか。前髪、オムライスに入ってるぞ。」


「ええええっ。」


声を荒げながら急いで頭を下げると、前髪についたケチャップがわたしの眉間にべちょりとついた。


彼を見ると、目を細めて笑っていた。

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